第1章第2話「拾われた日の真実」
久しぶりです。前回書くつもりの内容ですが少し先になりそうです。拙い文ですが呼んでくれると嬉しいです。
儀式が終わったあと。
俺は里の集会所へ呼び出されていた。
窓の外は、すでに夕暮れ。
赤く染まる空が妙に不気味に見える。
「……」
部屋には俺と里長しかいない。
重苦しい沈黙が続いていた。
さっきまで騒がしかった里も、今は静まり返っている。
いや。
正確には違う。
みんな俺を避けているのだ。
聖剣に拒まれた拾われ子。
そんな噂は、もう里中に広がっているだろう。
「レイン」
不意に里長が口を開いた。
「お前に聞きたいことがある」
「……俺も聞きたいことがあります」
即答だった。
里長の眉がわずかに動く。
「さっき見たんです」
俺は言った。
「勇者と魔王みたいな記憶を」
「……!」
里長の表情が変わる。
やっぱり。
何か知っている。
「それに」
俺は拳を握った。
「魔王因子って何ですか」
部屋の空気が凍った。
里長は目を見開いたまま動かない。
「見えたのか……」
かすれた声。
「やはり……」
「やはり?」
俺が問い返すと、里長は深く息を吐いた。
そして。
棚の奥から一つの箱を取り出した。
古びた木箱だった。
鍵がかかっている。
「本当はもっと先まで隠すつもりだった」
「何をです?」
「お前のことだ」
心臓が跳ねる。
里長は鍵を外した。
ギィ、と音を立てて蓋が開く。
中には。
一枚の黒い布が入っていた。
「これは……」
見覚えがない。
だが妙に目を引く。
黒い布には銀色の刺繍が施されている。
剣と翼を組み合わせたような紋章。
「お前が赤子の頃、身につけていたものだ」
「え?」
「十五年前の嵐の夜だった」
里長は遠くを見るような目になった。
「結界の外で泣いていたお前を見つけた」
「俺を……?」
「そうだ」
里長は頷く。
「誰かが置いていったのか、何者かが連れ去ろうとしていたのか、それは分からん」
そう言って黒い布を見つめる。
「だが、この紋章だけは忘れたことがない」
「知ってるんですか?」
里長は答えなかった。
代わりに苦しそうな顔をした。
その反応だけで十分だった。
知っている。
絶対に。
「教えてください」
「……まだだ」
「里長!」
「まだだ!」
珍しく声を荒げた。
俺も思わず黙る。
里長はしばらく沈黙したあと、疲れ切ったように椅子へ座った。
「もう少し確証が欲しい」
「何の?」
「お前が本当に――」
そこまで言いかけたときだった。
――ゴォォォォン!!
突然。
里全体が揺れた。
「なっ!?」
窓ガラスが震える。
警鐘が鳴り響いた。
聞いたこともないほど激しく。
「敵襲!?」
俺が立ち上がる。
だが里長の顔色はもっと悪かった。
「馬鹿な……」
震える声。
「結界が破られた……?」
その言葉に背筋が凍る。
勇者の里を守る結界。
魔王軍ですら突破できないと言われている結界だ。
それが破られた?
「レイン、ここから動くな!」
里長が駆け出す。
しかし。
次の瞬間。
窓の外から悲鳴が聞こえた。
「魔物だァァァ!」
「逃げろ!!」
「子供たちを避難させろ!」
騒然となる里。
俺は反射的に外へ飛び出した。
広場には人が集まっていた。
みんな空を見上げている。
俺も視線を向ける。
そして。
息を呑んだ。
「……なんだよ、あれ」
巨大だった。
空を覆う黒い影。
二枚の翼。
真紅の瞳。
竜。
伝説の魔物。
ワイバーンなど比較にならない。
本物の竜だ。
「あり得ない……」
誰かが呟く。
その竜はゆっくりと降下してきた。
里の中央へ。
人々が恐怖で後ずさる。
剣を構える者もいる。
だが。
竜は誰も見ていなかった。
その視線は。
真っ直ぐに。
俺へ向いていた。
「レイン……!」
里長が叫ぶ。
逃げろと言いたいのだろう。
だが足が動かない。
竜は目の前まで来る。
圧倒的な威圧感。
呼吸すら苦しい。
そして。
竜はゆっくりと首を下げた。
まるで臣下が王に礼をするように。
誰もが言葉を失う。
静寂の中。
竜が口を開いた。
『――ようやく見つけた』
低く響く声。
人語だった。
『我らが王よ』
「……は?」
俺の頭が真っ白になる。
何を言っている。
王?
俺が?
『お迎えに参りました』
竜の瞳が揺れる。
『魔王陛下の御子よ』
その瞬間。
里中の視線が俺へ集まった。
恐怖。
疑念。
そして敵意。
さっきまで暮らしていた里の人々の目が、一瞬で変わる。
――まるで魔物を見るように。
俺はただ立ち尽くしていた。
だが。
遠く離れた魔王城では。
一人の少女が窓の外を見上げていた。
理由も分からないまま。
胸騒ぎを覚えながら。
書きだめしたのでしばらく連続投稿します。読んでくれてありがとうこざます。




