09.つまらない物語
ーーー芽女の物語ーーー
ももことつまらない喧嘩をして、
私はそのまま一人でこんなところまで来てしまった。
いつのまにか夜も更け、大正ロマンを彷彿とさせる建物のすぐ近くを歩いている。
めめ「まったく...蕎麦屋でラーメンなんて...ラーメン、なんて」
中華そば...この地域では蕎麦屋でラーメンが食べれる文化がある。
蕎麦屋あってのラーメン、
ラーメンあっての蕎麦屋とも言われたラーメン文化に横やりを入れたのが肉そばだ。
この地域の一部小町で盛んだった冷えた肉そばが、県内で広まり盛んになった。
その後、ラーメンのチャーシューやスープを肉そばの鶏肉やダシで補う独自のラーメンが生まれて今に至る。
醤油でも塩でも、味噌でもない蕎麦屋のラーメンがあるのは肉そばあってこそだったんだ。
めめ「なのに、なのにぃ」
「...私の出身地が肉そばの発祥地だから..だから、いけないのかな」
そっと、目の前にあった門の前に座り込んだ。
多くの車が私の隣を通り過ぎていくのを感じながら、静かに下を向いている。
めめ「私の故郷の味だから...あのラーメンだって、私の故郷の味だから...」
「きっと、本物の味を味わいたい。
ただそれだけが、あの子を気付付けてしまう...のかな、、」
きっとそうなんだろう。
この土地では故郷の味で、度々喧嘩する。
代表的なのが芋煮。味噌か醤油か論争で面白おかしく喧嘩をしている。
めめ「だからこそ、好きなものに意固地になって...」
それが当たり前だと思っているから、それが好きだったから。
?「めめ...!」
私を呼ぶ声が街に響いた。
振り返ってみるとそこには、確かにあるくの姿が私の瞳に映った。
めめ「あるく...どうしてここに」
あるく「迷子になっちゃって気づいたらこんなところに」
めめ「土地勘ないのに大丈夫だった..?」
あるく「大丈夫だよ。こうしてめめに合えてるから」
きっと一人で歩き去っていった私を探していたんだろう。
別に、置いて先に帰ってもよかったのに...。
あるく「何の喧嘩をしてたの?」
めめ「あいつが私を常識知らずっていうんだ」
あるく「それだけ?」
それだけ?と聞かれた私は黙ってしまう。
それほどにつまらない言い争いなのには間違いないから。
何も知らない、他県民を巻き込んでまで決着をつけたいとも思わない。
めめ「それ、だけ。常識知らずはももこの方だよ」
あるく「そんなこと言われても、私の方が常識知らずだよ」
「全然ここの常識分からないから」
めめ「そう、なのかもね...」
確かに、私たち以上にここの常識がないのはなんとなくわかってる。
でも、そういう話じゃない。常識の食い違いこそが本題だ。
あるく「....私の予想に過ぎないけど」
「私が思うには、醤油は薄口か濃口かみたいなものでしょ?」
めめ「そうかもだけど...、少し違うかな」
あるく「だったとしても、いいんじゃないかな、日本人らしくて」
「同じ日本人なのに分かり合えないぐらいが、一番日本人らしいと思うよ」
あるくは私の横顔を見つめながらずっと話しかけてくる。
私が曖昧に答えることしかできなかったとしても、ずっとそうやって話してくれる。
どう反応すればいいのか。そんなことを考えていると、またあるくが先に口を開いた。
あるく「そういえば」
「ここってなんていう場所なの?」
あるくは門の奥にある、正ロマンを彷彿とさせる建築物を指さして聞いてきた。
答えるか迷ったけど、どうせ答えられる人も限られているだろう。
だから、私がはっきりと口を開くことにした。
めめ「あそこは昔、県庁だったところだよ」
「大火事に遭って、耐熱設計で再建された二代目だけどね」
あるく「いろんなこと知ってるんだね」
めめ「そんなことないよ。この街を知りすぎちゃっただけだから」
この町に長いこと住んでいると飽きてしまうほどに、知ってしまう。
この建物にはどんな歴史があって、どうして今ここにあるのか。
この文化はどうしてここでしか、味わうことができないのか。
それを直感的に分かり切ってしまったから。
めめ「知っちゃったものは、もう。忘れられないでしょ」
「だから私は、まだ何も知らない都会に憧れてるんだ...」
あるく「そうなんだね、私、父の都合でよく引っ越してるんだけど」
「何も知らないまま、引っ越しちゃうもんだから羨ましいと思っちゃうよ」
個人の家庭の事情なんて、私は知ったこっちゃない。
定住できないことには同情できるけど、だからと言って私が納得するとは言ってない。
めめ「それでも、飽きたら仕方ないじゃん」
あるく「飽きてないじゃん。喧嘩するほどここが好きなんでしょ?」
めめ「え....」
突然、あるくから出た言葉に私は驚いてしまった。
ここまで誘導してたようなそぶりはなく、ただ偶然喧嘩の話に戻している。
そんな不意の一撃に、私は参ってしまったのだろう。
少しだけ、目にゴミが入った気がした。




