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アルカナ・ブラッド  作者: 糸音
最終章
48/52

ローレンスの一撃

 

「隊長、これは一体……⁈」


 避難をやめ、声援と共に広場を覆う住民たちの様子に困惑しながら、ローレンスの部下の女性が現れた。その腕には、身柄を拘束されたスニードが捕まっている。


「見ての通りさ。皆があいつを応援し始めた。けど……」


 ヴォルターの異変には、ローレンスも気が付いていたらしい。


「なんか、恐竜から意識が散漫になっている気が……」


 繰り出される攻撃に吸血機を振るうも、次第に攻撃の数が減っていき、ヴォルターは防戦一方に追い込まれていく。

 恐竜の攻撃が激しくなったわけじゃない。ただ、攻撃の回数が減っている。

 恐竜が大ぶりの攻撃を繰り出し、それをいなした時も、ヴォルターはカウンターを入れるのではなく、どこか遠くを見つめるような視線で固まった後、次の攻撃を慌てて躱すばかりだ。


 この場でヴォルターが倒れれば、もう誰にも止められない。


 次第に追い詰められていくヴォルターに、声援の必死さが増していく。


 だが、それに反比例するように、ヴォルターの表情は険しく、動きは鈍くなっていく。


 その姿に苛立ったスニードが、ヴォルターに向かって叫んだ。




「お前‼ 何やってんだ‼ そいつをぶっ殺すことがお前の存在価値だろうが‼」




 一瞬だけヴォルターがスニードを睨んだ。

 だが、その隙に横から尻尾を叩きつけられ、躱しきれなかったヴォルターが地面を転がる。




「てめえ――‼」




 ローレンスがスニードの胸倉を、部下から奪い取るように引き寄せた。

 歯を食いしばり、眉間に深い皺を刻んで拳を見せつけるローレンスに怯みながらも、スニードは鼻を鳴らしてから、強がった笑みを見せる。




「……私はこの都市の権力者だ。然るべきところに話を通せば、減刑などいくらでもできる。一介の衛兵隊隊長ごときが、この私を殴れると思うか?」

「――ああ」

「そうだよなあ。……え?」


 卑屈に歪んだ嘲笑が、間抜けな声と共に消え去ったと同時、ローレンスの渾身の一撃がスニードの顔面にさく裂した。

 地面を小さく跳ねて、白目で倒れたスニードを一瞥し、ローレンスは手に着いた鼻血を拭う。


「今はてめえや俺の立場なんざどうでもいいんだよ……!」




 ローレンスは住民たちよりもさらに前に出て、ヴォルターに向かって檄を飛ばした。




「頼む‼ 死ぬな‼ 死なないでくれ‼ ヴォルター‼」




 届いたか、届いていないか。

 届いた上で、響かないのか。


 追い詰められていくヴォルターに、ローレンスが焦燥に歪んだ表情になっていく。


 そんなローレンスの横を、


「……アルちゃん⁈」


 覚悟を決めた表情で、アルメリアが弾丸のように駆け抜けていった。


 一瞬だけ呆気にとられた後、ローレンスもアルメリアの後に続いて、ヴォルターの下へと駆けだしていった。


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