ローレンスの一撃
「隊長、これは一体……⁈」
避難をやめ、声援と共に広場を覆う住民たちの様子に困惑しながら、ローレンスの部下の女性が現れた。その腕には、身柄を拘束されたスニードが捕まっている。
「見ての通りさ。皆があいつを応援し始めた。けど……」
ヴォルターの異変には、ローレンスも気が付いていたらしい。
「なんか、恐竜から意識が散漫になっている気が……」
繰り出される攻撃に吸血機を振るうも、次第に攻撃の数が減っていき、ヴォルターは防戦一方に追い込まれていく。
恐竜の攻撃が激しくなったわけじゃない。ただ、攻撃の回数が減っている。
恐竜が大ぶりの攻撃を繰り出し、それをいなした時も、ヴォルターはカウンターを入れるのではなく、どこか遠くを見つめるような視線で固まった後、次の攻撃を慌てて躱すばかりだ。
この場でヴォルターが倒れれば、もう誰にも止められない。
次第に追い詰められていくヴォルターに、声援の必死さが増していく。
だが、それに反比例するように、ヴォルターの表情は険しく、動きは鈍くなっていく。
その姿に苛立ったスニードが、ヴォルターに向かって叫んだ。
「お前‼ 何やってんだ‼ そいつをぶっ殺すことがお前の存在価値だろうが‼」
一瞬だけヴォルターがスニードを睨んだ。
だが、その隙に横から尻尾を叩きつけられ、躱しきれなかったヴォルターが地面を転がる。
「てめえ――‼」
ローレンスがスニードの胸倉を、部下から奪い取るように引き寄せた。
歯を食いしばり、眉間に深い皺を刻んで拳を見せつけるローレンスに怯みながらも、スニードは鼻を鳴らしてから、強がった笑みを見せる。
「……私はこの都市の権力者だ。然るべきところに話を通せば、減刑などいくらでもできる。一介の衛兵隊隊長ごときが、この私を殴れると思うか?」
「――ああ」
「そうだよなあ。……え?」
卑屈に歪んだ嘲笑が、間抜けな声と共に消え去ったと同時、ローレンスの渾身の一撃がスニードの顔面にさく裂した。
地面を小さく跳ねて、白目で倒れたスニードを一瞥し、ローレンスは手に着いた鼻血を拭う。
「今はてめえや俺の立場なんざどうでもいいんだよ……!」
ローレンスは住民たちよりもさらに前に出て、ヴォルターに向かって檄を飛ばした。
「頼む‼ 死ぬな‼ 死なないでくれ‼ ヴォルター‼」
届いたか、届いていないか。
届いた上で、響かないのか。
追い詰められていくヴォルターに、ローレンスが焦燥に歪んだ表情になっていく。
そんなローレンスの横を、
「……アルちゃん⁈」
覚悟を決めた表情で、アルメリアが弾丸のように駆け抜けていった。
一瞬だけ呆気にとられた後、ローレンスもアルメリアの後に続いて、ヴォルターの下へと駆けだしていった。




