反撃開始
「アルちゃんと最初に出会ったとき、密猟者が列車の運転席に、獲物を隠してたの覚えてる?」
疑問符を浮かべるヴォルターたちに、ローレンスが質問を投げかけた。
「うん。でも、それが何の関係があるの?」
「あの線路は公営鉄道だ。旅客だけじゃなく、海外からの貨物や要人輸送にも使われてる。……そんな場所を運行する列車の運転席に、一介の密猟者が隠し場所なんて用意できると思うか?」
意図に気が付いた二人に、「更に」とローレンスが資料を開く。
「こっちが、あのときのハイイロイカヅチグマに撃たれた麻酔銃の弾で、こっちがお前たちが見つけた、未開の中央に落ちていた弾」
「どっちも同じ!」
示された麻酔弾は、どちらもサイズや形状が一致していた。
「ああ。弾は自作だろうから、販路で後は追えねえが、同一犯が使用したものとみて間違いないだろう」
「……少なくとも、公営事業に口を挟める重鎮が、密猟には絡んでいると?」
ヴォルターの推理に、ローレンスが頷く。
「そして、俺たちが乗っていたあの列車、十年前に修繕工事が行われている。その資金の出元が、あのスニードだ」
「あいつ、密猟した獲物を売りさばいて稼いでるってこと⁈ 都市の権力者なんでしょ⁈ なんでそんなことを……」
「力がないからさ」
「……?」
難しい顔になったアルメリアに、ローレンスが続ける。
「権力者って言ったって、その権威は人の研究を横取りして得たものだ。あいつの実力で得たものじゃねえし、その名誉を生み出したリンネ博士はもういねえ。研究で名を挙げた癖に、あいつは以降、何の実績もあげられてないんだ。そんな奴が権威を――他者からの支持を維持するためにはどうする?」
「金か」
「そゆこと」
ヴォルターの推理に、ローレンスが指を鳴らす。
「未開の中央での密猟は世界的な犯罪行為だ。公になれば、あいつを庇う手立てはねえ。なし崩し的に他の罪も明らかになるだろ。そうなれば、お前たちの研究も戻ってくる可能性が出てくる」
ローレンスの言葉に、アルメリアたちの心臓がドクンと跳ねた。「何をすればいい?」と前のめりになるヴォルターを見て、ローレンスがにやりと笑う。
「研究していたモウカハネジネズミ……だっけか。一体は射殺されたけど、残り2体は行方不明なんだろ?」
「ああ」
「あいつがわざわざ論文を発表した後で、飼育用の個体の採取に向かうと思わねえ」
何かに気が付いたヴォルターが、覚醒したように目を見開いた。
「密猟した獲物の隠し場所がある……?」
「ああ。あの列車だって、毎日駅に来るわけじゃねえ。その間に獲物を隠しておく場所があるはず。そこを抑える」
「すっごい! 一気に希望が見えてきたじゃん! で、どこにあるの? それは」
興奮したアルメリアが話に割って入った瞬間、ローレンスの顔が曇った。
「……そこなんだよなあ」
大きなため息を吐いてから、ローレンスが視線を泳がせながら続けた。
「あいつが運営している飼育施設とか色々調べてみたけど、隠し部屋なんかも存在しねえし、列車に搬送される貨物の出どころや、積み込む直前の検閲を探っても、それらしい痕跡なんか見つかりはしねえ。……いったいどこに隠しているんだか」
困ったようにローレンスが頭を掻くと、ヴォルターが何か考え込む素振りをしてから、ローレンスに向かい直る。
「案外、駅のどこかに隠してるんじゃねえの」
「え?」
「外から運び込むのが難しいなら、検閲がない時間にあらかじめ中に運んでおけばいい。近くにそういう拠点があれば可能なはずだ」
「……確かにそうだが、既に調べてはみてるんだ」
今度はローレンスが顎に手を当てて考え込む。
「でも、もう一度調べてみる価値はあるか。勘ぐられないよう、深く捜査はできていないし……」
「そのときはどうやって調べたの?」
「研究用の【アカリオオネズミ】が逃げ込んだかもしれないからっていって、天井や隙間を調べる体で、隠し部屋みたいなのが無いか探してた」
「手探りでやったってこと? 捜査犬とか使えないの?」
「駅は毎日徹底的に清掃が入るから、臭いでの追跡は厳しいよ。……それでも取り切れない強烈な匂いが隠し部屋につながっていれば、話は別だろうが……」
「強烈な、臭い――」
瞬間、アルメリアの頭に何かがよぎった。
全員が深く考え込む中、「あーーーーーーーー⁉」というアルメリアの大声が、ヴォルターたちを驚かせる。
「急になんだ。大きな声出して」
「ヴォルター‼ 私、大変なことに気が付いた‼」
興奮を抑えきれず、肩を力強く包んでくるアルメリアに、何かあると思ったヴォルターが改まった表情になる。
二人の注目が集まる中、アルメリアは嬉々とした様子で叫んだ。
「――私たち‼ 服を洗ってない‼」
「「…………」」
……は?
何を言っているのか分からず、間抜けな声が二人から漏れた。
だが、すぐさま何かに思い当たったヴォルターが、同じく興奮した様子で指を突き出した。
「――モウカハネジネズミのフェロモンか‼」
「強烈な臭いなら追えるんでしょ⁈」
差し込んだ一筋の希望に湧き上がる二人。
その正体がわからずに、ローレンスは二人の様子を見て呆然と立ち尽くすのだった。




