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アルカナ・ブラッド  作者: 糸音
最終章
44/52

反撃開始

「アルちゃんと最初に出会ったとき、密猟者が列車の運転席に、獲物を隠してたの覚えてる?」


 疑問符を浮かべるヴォルターたちに、ローレンスが質問を投げかけた。


「うん。でも、それが何の関係があるの?」

「あの線路は公営鉄道だ。旅客だけじゃなく、海外からの貨物や要人輸送にも使われてる。……そんな場所を運行する列車の運転席に、一介の密猟者が隠し場所なんて用意できると思うか?」


 意図に気が付いた二人に、「更に」とローレンスが資料を開く。


「こっちが、あのときのハイイロイカヅチグマに撃たれた麻酔銃の弾で、こっちがお前たちが見つけた、未開の中央(セントラルアンノウン)に落ちていた弾」

「どっちも同じ!」


 示された麻酔弾は、どちらもサイズや形状が一致していた。


「ああ。弾は自作だろうから、販路で後は追えねえが、同一犯が使用したものとみて間違いないだろう」

「……少なくとも、公営事業に口を挟める重鎮が、密猟には絡んでいると?」


 ヴォルターの推理に、ローレンスが頷く。


「そして、俺たちが乗っていたあの列車、十年前に修繕工事が行われている。その資金の出元が、あのスニードだ」

「あいつ、密猟した獲物を売りさばいて稼いでるってこと⁈ 都市の権力者なんでしょ⁈ なんでそんなことを……」

「力がないからさ」

「……?」


 難しい顔になったアルメリアに、ローレンスが続ける。


「権力者って言ったって、その権威は人の研究を横取りして得たものだ。あいつの実力で得たものじゃねえし、その名誉を生み出したリンネ博士はもういねえ。研究で名を挙げた癖に、あいつは以降、何の実績もあげられてないんだ。そんな奴が権威を――他者からの支持を維持するためにはどうする?」

「金か」

「そゆこと」


 ヴォルターの推理に、ローレンスが指を鳴らす。


未開の中央(セントラルアンノウン)での密猟は世界的な犯罪行為だ。公になれば、あいつを庇う手立てはねえ。なし崩し的に他の罪も明らかになるだろ。そうなれば、お前たちの研究も戻ってくる可能性が出てくる」


 ローレンスの言葉に、アルメリアたちの心臓がドクンと跳ねた。「何をすればいい?」と前のめりになるヴォルターを見て、ローレンスがにやりと笑う。


「研究していたモウカハネジネズミ……だっけか。一体は射殺されたけど、残り2体は行方不明なんだろ?」

「ああ」

「あいつがわざわざ論文を発表した後で、飼育用の個体の採取に向かうと思わねえ」


 何かに気が付いたヴォルターが、覚醒したように目を見開いた。


「密猟した獲物の隠し場所がある……?」

「ああ。あの列車だって、毎日駅に来るわけじゃねえ。その間に獲物を隠しておく場所があるはず。そこを抑える」

「すっごい! 一気に希望が見えてきたじゃん! で、どこにあるの? それは」


 興奮したアルメリアが話に割って入った瞬間、ローレンスの顔が曇った。


「……そこなんだよなあ」


 大きなため息を吐いてから、ローレンスが視線を泳がせながら続けた。


「あいつが運営している飼育施設とか色々調べてみたけど、隠し部屋なんかも存在しねえし、列車に搬送される貨物の出どころや、積み込む直前の検閲を探っても、それらしい痕跡なんか見つかりはしねえ。……いったいどこに隠しているんだか」


 困ったようにローレンスが頭を掻くと、ヴォルターが何か考え込む素振りをしてから、ローレンスに向かい直る。


「案外、駅のどこかに隠してるんじゃねえの」

「え?」

「外から運び込むのが難しいなら、検閲がない時間にあらかじめ中に運んでおけばいい。近くにそういう拠点があれば可能なはずだ」

「……確かにそうだが、既に調べてはみてるんだ」


 今度はローレンスが顎に手を当てて考え込む。


「でも、もう一度調べてみる価値はあるか。勘ぐられないよう、深く捜査はできていないし……」

「そのときはどうやって調べたの?」

「研究用の【アカリオオネズミ】が逃げ込んだかもしれないからっていって、天井や隙間を調べる体で、隠し部屋みたいなのが無いか探してた」

「手探りでやったってこと? 捜査犬とか使えないの?」

「駅は毎日徹底的に清掃が入るから、臭いでの追跡は厳しいよ。……それでも取り切れない強烈な匂いが隠し部屋につながっていれば、話は別だろうが……」

「強烈な、臭い――」


 瞬間、アルメリアの頭に何かがよぎった。

 全員が深く考え込む中、「あーーーーーーーー⁉」というアルメリアの大声が、ヴォルターたちを驚かせる。


「急になんだ。大きな声出して」

「ヴォルター‼ 私、大変なことに気が付いた‼」


 興奮を抑えきれず、肩を力強く包んでくるアルメリアに、何かあると思ったヴォルターが改まった表情になる。

 二人の注目が集まる中、アルメリアは嬉々とした様子で叫んだ。




「――私たち‼ 服を洗ってない‼」




「「…………」」




 ……は?


 何を言っているのか分からず、間抜けな声が二人から漏れた。


 だが、すぐさま何かに思い当たったヴォルターが、同じく興奮した様子で指を突き出した。


「――モウカハネジネズミのフェロモンか‼」

「強烈な臭いなら追えるんでしょ⁈」


 差し込んだ一筋の希望に湧き上がる二人。

 その正体がわからずに、ローレンスは二人の様子を見て呆然と立ち尽くすのだった。


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