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アルカナ・ブラッド  作者: 糸音
第1章
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密入国者、確保

「おい、この臭い嬢ちゃんは誰かって聞いているんだ」

「く、臭いのは私じゃなくて服ですから!」

「知らねえよ! どっちにしたって一緒だろうが?!」


 臭いと言われて反射的に反論するアルメリアに、淡い青の兵服に身を包んだ男が突っ込んだ。この大陸の警察か何かだろう。

 ヴォルターの知り合いと思われるこの男は、身長は180㎝ほどか。ヴォルターが際立って大きいだけで、十分高身長。

 細身ながら肉体はしっかりと鍛えているのか、兵服のズボンから引き締まった足の輪郭が見て取れる。

 ヴォルターが感情を表に出さないせいもあるが、この男もアルメリアほどではないものの表情が良く動く。


 ずれたアルメリアの返答に、背後に控えていた部下の女も呆れた表情だ。


「まさか密猟者じゃないだろうな?」


 アルメリアの顔を横目に見ながら、訝し気な眼差しをヴォルターに投げる。

 そういえば先ほど牛舎を覗きに来た時も、密猟者がどうのこうの言っていた。アルメリアではない別の誰かを追っているのだろう。


 どちらにせよ一時的にでも捕まってしまえば後は同じ。別の罪状が明らかになるだけで、父を探すという目的は達成できなくなってしまう。


「あの。私は……!」

「お前には聞いてない。ヴォルター、こいつ誰?」


 男に問いかけられ、ヴォルターは少しだけ困ったように顎に手を当ててアルメリアを見た。


 お願い。上手くごまかして。


 視線でメッセージを送ると、ほんの一瞬だけヴォルターの額に皺が寄る。

 無茶言うな。という言外のメッセージはアルメリアにも伝わった。


「……密猟者じゃないのは確かだ」

「ふーん。じゃあ何?」

「……」


 嘘のない範囲で答えるも、何かを隠したニュアンスは伝わったらしい。

 疑いの眼差しを投げられて、ヴォルターはばつが悪そうに目をそらす。


 口を閉じたヴォルターに、「だんまりか」と男は矛先をアルメリアに変える。


「とりあえず、名前と身分証」

「あ、アルメリア・クロウリーです。身分証は、その……持ってなくて」

「この周辺で色々入っていた財布落としたらしいぞ。汚れや匂いも、探し物をしているうちに、土に塗れた結果だ」


 ボロが出る前に、ヴォルターがフォローに入る。


「……お前がここまで他人を庇うのは珍しいな?」


 嘘よりも態度の方を怪しんでいるらしい。嬉しさのような、懐疑が混ざったような悪い笑みでヴォルターを見つめた後、男はアルメリアに向かい直る。


「ヴォルターと随分と仲がいいようだな? 嬢ちゃん。こいつと知り合いか何か?」

「そ、そんなところ!」

「——っ?!」


 アルメリアの言葉に、ヴォルターが目を剥いた。


 アルメリアが横目で訴える。合わせて。

 ヴォルターが同じく視線で返す。ざけんな。


 巻き込んでばかりで申し訳なさもあるが、ヴォルターを巻き込まなければ、この場を乗り切るのは不可能だろう。


「へえ。俺以外にヴォルターと親しいやつがいたとは驚きだ。……あんた、ヴォルターとどんな関係?」


 試してくるような顔で見つめられ、アルメリアも愛想の良い笑みを作りながらも、必死でごまかすための言葉を探し始める。


 親しいというからには、家族関係についても知っている可能性がある。親戚の娘とか、そういう嘘はすぐに見破られそうだ。

 この男が知らなくても不思議じゃなくて、不愛想なヴォルターが、この男に話していなくても不思議じゃない間柄。


「わ、私は——」


 アルメリアの脳裏に、とあるワードがひらめき、小さく息を整えてから、宣言するように、ハキハキとした語り口で続けた。




「——私は、ヴォルターさんの、彼女です‼」

「外からやってきた密入国者だ。捕まえろ」

「「はぁっ?!」」


 裏切られた驚きと、別の犯罪者が見つかったことに、二人は大きな声を上げた。

 すぐさまポケットから手錠を取り出した男が、アルメリアの手首を拘束し、自由を奪う。


「ちょっとヴォルター⁈ なんで……」


 抗議しようとするも、ヴォルターもローレンスも、呆れた視線を投げてくる。


「この不愛想な男が、彼女なんて作るかよ」

「下手糞な嘘をつくお前が悪い」


 男とヴォルターから同時に詰められ、アルメリアの体から力が抜けていく。

 手を引っ張られる形で連行され、連れてこられた部屋で、アルメリアは改めて手足を縄で縛られ、その身を封じられるのであった。


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