密入国者、確保
「おい、この臭い嬢ちゃんは誰かって聞いているんだ」
「く、臭いのは私じゃなくて服ですから!」
「知らねえよ! どっちにしたって一緒だろうが?!」
臭いと言われて反射的に反論するアルメリアに、淡い青の兵服に身を包んだ男が突っ込んだ。この大陸の警察か何かだろう。
ヴォルターの知り合いと思われるこの男は、身長は180㎝ほどか。ヴォルターが際立って大きいだけで、十分高身長。
細身ながら肉体はしっかりと鍛えているのか、兵服のズボンから引き締まった足の輪郭が見て取れる。
ヴォルターが感情を表に出さないせいもあるが、この男もアルメリアほどではないものの表情が良く動く。
ずれたアルメリアの返答に、背後に控えていた部下の女も呆れた表情だ。
「まさか密猟者じゃないだろうな?」
アルメリアの顔を横目に見ながら、訝し気な眼差しをヴォルターに投げる。
そういえば先ほど牛舎を覗きに来た時も、密猟者がどうのこうの言っていた。アルメリアではない別の誰かを追っているのだろう。
どちらにせよ一時的にでも捕まってしまえば後は同じ。別の罪状が明らかになるだけで、父を探すという目的は達成できなくなってしまう。
「あの。私は……!」
「お前には聞いてない。ヴォルター、こいつ誰?」
男に問いかけられ、ヴォルターは少しだけ困ったように顎に手を当ててアルメリアを見た。
お願い。上手くごまかして。
視線でメッセージを送ると、ほんの一瞬だけヴォルターの額に皺が寄る。
無茶言うな。という言外のメッセージはアルメリアにも伝わった。
「……密猟者じゃないのは確かだ」
「ふーん。じゃあ何?」
「……」
嘘のない範囲で答えるも、何かを隠したニュアンスは伝わったらしい。
疑いの眼差しを投げられて、ヴォルターはばつが悪そうに目をそらす。
口を閉じたヴォルターに、「だんまりか」と男は矛先をアルメリアに変える。
「とりあえず、名前と身分証」
「あ、アルメリア・クロウリーです。身分証は、その……持ってなくて」
「この周辺で色々入っていた財布落としたらしいぞ。汚れや匂いも、探し物をしているうちに、土に塗れた結果だ」
ボロが出る前に、ヴォルターがフォローに入る。
「……お前がここまで他人を庇うのは珍しいな?」
嘘よりも態度の方を怪しんでいるらしい。嬉しさのような、懐疑が混ざったような悪い笑みでヴォルターを見つめた後、男はアルメリアに向かい直る。
「ヴォルターと随分と仲がいいようだな? 嬢ちゃん。こいつと知り合いか何か?」
「そ、そんなところ!」
「——っ?!」
アルメリアの言葉に、ヴォルターが目を剥いた。
アルメリアが横目で訴える。合わせて。
ヴォルターが同じく視線で返す。ざけんな。
巻き込んでばかりで申し訳なさもあるが、ヴォルターを巻き込まなければ、この場を乗り切るのは不可能だろう。
「へえ。俺以外にヴォルターと親しいやつがいたとは驚きだ。……あんた、ヴォルターとどんな関係?」
試してくるような顔で見つめられ、アルメリアも愛想の良い笑みを作りながらも、必死でごまかすための言葉を探し始める。
親しいというからには、家族関係についても知っている可能性がある。親戚の娘とか、そういう嘘はすぐに見破られそうだ。
この男が知らなくても不思議じゃなくて、不愛想なヴォルターが、この男に話していなくても不思議じゃない間柄。
「わ、私は——」
アルメリアの脳裏に、とあるワードがひらめき、小さく息を整えてから、宣言するように、ハキハキとした語り口で続けた。
「——私は、ヴォルターさんの、彼女です‼」
「外からやってきた密入国者だ。捕まえろ」
「「はぁっ?!」」
裏切られた驚きと、別の犯罪者が見つかったことに、二人は大きな声を上げた。
すぐさまポケットから手錠を取り出した男が、アルメリアの手首を拘束し、自由を奪う。
「ちょっとヴォルター⁈ なんで……」
抗議しようとするも、ヴォルターもローレンスも、呆れた視線を投げてくる。
「この不愛想な男が、彼女なんて作るかよ」
「下手糞な嘘をつくお前が悪い」
男とヴォルターから同時に詰められ、アルメリアの体から力が抜けていく。
手を引っ張られる形で連行され、連れてこられた部屋で、アルメリアは改めて手足を縄で縛られ、その身を封じられるのであった。




