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アルカナ・ブラッド  作者: 糸音
第3章
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激務の日々

 

 ハイマー・クロウリーを含めた調査隊30名の葬儀から一か月が経ち、アルメリアはローレンスと共に、第7衛兵隊の雑務に勤しんでいた。


 今回頼まれたのは害獣駆除。アニマグラム城壁外東区にある、農業地区からの依頼だ。

 たわわと実った野菜畑の中から、スナイパーライフルのような猟銃が、その銃口を畑の穀物を食い荒らす動物――【ヒダネアナグマ】に向けている。


「ゆっくり息を止めて、肘で地面を支えにしながら銃口を安定させる。後はあいつが一番警戒を解いたタイミングでぶっ放せ」

「……わかった」


 ローレンスのアドバイス通り息を止め、ライフルのスコープ越しに、畑の野菜を貪る体長1ⅿほどの灰色の生物を覗き込む。開けた土地で周囲や空を警戒していたアナグマは、安全を確認した後に、辺りの野菜をバイキング感覚で食べ始めた。


 野菜の美味しい部分以外を食べ残すと、次の野菜へ口を付けて、食べては残す。


 アナグマが移動する方向の先にライフルを構えなおして、野菜に手をかけた瞬間に、


「――っ?!」


 引き金を引くと、強力な麻酔薬が塗布された注射器型の麻酔弾が発射され、命中した個所からボウッと炎が燃え上がったのち、アナグマがその場に眠るように倒れこんだ。


「お! 綺麗に当たったな!」

「けっこー筋いいかも、私」


 二人はアナグマが動かなくなったのを確認してから、ゆっくりと傍へ向かい、防火素材のシートで上から押さえながら、麻酔弾を抜く。

 一瞬だけ炎が立ち上がったが、すぐに瘡蓋となって傷口は再生し、アナグマもちいさな寝息を立てている。


「すいません、助かりました。二人ともありがとうございます」

「いえいえ、【未開の中央(セントラルアンノウン)】関係のトラブルは、我が第7衛兵隊にぜひお任せを! 何かあったらまた呼んでくださいね」


 アナグマを檻に閉じ込めたのを見て、田畑の持ち主たちが深々とお辞儀をすると、ローレンスも愛想よく敬礼して返した。

 ひとしきり感謝され、作業に戻る人々を見届けてから、二人は「ふう」と一段落したように疲れの混じった息を吐く。


「よし、未開の中央(セントラルアンノウン)に返せば、この件は終了だな。後は部下に任せて次の現場に行くぞー」

「次の仕事ってなんだっけ? 牛がどうのこうの言っていたけど」

「ああ。都市の北側に位置している、ハツデンシロコブウシの飼育施設プラントでの作業だ。一部業務が滞っていてな。それの手伝い」

「……ねえ、私たち働きすぎじゃない? 半月前の休日以降、まともに休んでないんだけど」

「しゃーねえだろ。この前の断水といい、最近【未開の中央】関係のトラブルが多いんだ。俺の部署はそれに対応する部署だからな。忙しくなるのはとーぜん」

「もっと人はいないの? あなたがって話じゃないけど、余所者の私に頼りすぎじゃない?」


 ビーバーの捕獲が上手くいって以降、アルメリアの働きを評価されたのか、生物関係の依頼が山のように舞い込んでくる。

 頼りにされるのは嬉しいが、如何せん数が多くて、最近は疲労感の方が強くなってきている。


 トラブルの数は多いのに、それに対応するローレンスの部署は人数が10数名とかなり小規模な運営だ。


「……うちの部署、不人気なんだよ」

「まあ、そうなんだろうとは思ってたけど。未開の中央の生物のこと、皆怖がっているもんね」


 暫くの間【アニマグラム】で過ごしていて分かったことがある。それは奇跡の燃料を主なエネルギー源としているにも拘らず、ここで暮らす人々のほとんどが、その採取元である未開の中央の生物を恐れているということだ。


「こういう小さな生き物だけじゃなくて、おっきくて凶暴な熊とかもいるから、気持ちは分からなくはないんだけど、小さなトラブルにも対応できないのは問題じゃない?」

「まあな……。でも、こんなアナグマ一匹でも対応を間違えれば大惨事になるんだ。技術も心構えもない人間に任せていい仕事でもないしな。心が読めるとはいえ、未開の中央の生物相手に物怖じしない、アルちゃんの方が凄えのよ」

「別に私も、まったく怖くないわけじゃないんだけど……」


 そんな会話をしていると、ローレンスの部下の女性がやってきて、アナグマの入った檻を回収した。毅然と対応できるあたり、彼女も少数精鋭の中の一人だ。

 引き渡しを終えたところで、ローレンスの車に乗って、次の現場である飼育施設へと向かう。


 その道中で次の依頼についてローレンスが確認を行った。


「さっきも言った通り、次はハツデンシロコブウシの飼育施設の業務補助な。具体的には、子牛に鼻輪を付けたり、角を削ったりする業務の手伝い」

「……それって私たち以外でもできないの?」

「……できる、はずなんだけどなあ」


 アルメリアが疲れたように尋ねると、ローレンスもげんなりと重い息を吐いた。

 仕事だからと割り切ってはいても、思うところがないわけではないらしい。


「まあいいや。さっさと終わらせて今日は休もう。どれくらいかかりそう?」

「そうだなあ……ざっと数百匹分の作業があるから……」

「何それ?! 絶対今日中に終わらないじゃん?!」

「ああ。だから今回も助っ人を呼んどいた」


 助っ人と聞いて、ぶつくさ文句を言っていたアルメリアの顔が明るくなった。


「もしかして、ヴォルター?」

「ああ」


 ローレンスが頷くと、「やった!」とアルメリアが手を叩いた。

 父の葬儀が終わって以降、ヴォルターと一度も顔を合わせていない。


 ローレンスが言うには、彼は彼なりに忙しいらしい。

 確かに、彼の生物に対する知識の深さや、腕っぷしを考えれば、いろんなことに引っ張りだこになるのは想像できるが、会う事が叶わくて寂しく思っていたころだった。


「……気を付けろよ、多分、相当機嫌が悪いと思うから」

「? どうして?」


 会う前からローレンスの緊張が伝わり、アルメリアは不思議に思って首をかしげる。

 ローレンスが「飼育施設で過去に色々あってだな……」と言葉を濁していると、施設の入り口に辿り着いた。

 そして、その入り口付近に停められている、見覚えのあるキャンピングカー。


「! ヴォル――」


 運転席から降りてきたヴォルターに、アルメリアが親し気に呼びかけようとするも、あまりに強い怒りや苛立ちの感情を察知し、反射的に言葉をひっこめてしまう。


 殺意に近いオーラを纏うヴォルターに、体を強張らせるアルメリアを横目に見てから、「やっぱりなあ……」とローレンスも気まずそうに頭を掻いて、ヴォルターに視線を送るのだった。


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