心を残す
ヴォルターに強引につれてこられたのは、大きな葬儀場のような建物だ。
参列者の数は、葬儀場のスタッフを覗けば数十人くらいで、エントランスが広いこともあり、ポツンと取り残された気持ちになった。
「……」
参列者がヴォルターを見るなり、侮蔑するような、妙なものを見るような視線を投げてきた。ヴォルターは何かを飲み込むように立ち止まった後、行く先を示すように、アルメリアの少し前を離れて歩いた。
受付の側にローレンスが立っていた。後をついてきたアルメリアを見て、心配したような、安心したような表情だ。
「一番右。あの壺の中にお前のハイマー博士の骨が入ってる」
建物の中央をくり抜くように設けられた中庭の方に連れられると、その中央に設けられた大きな祭壇をローレンスが示した。
祭壇中央では巨大な燭台が設置されており、優しい火を灯して、淡く周囲を照らしていた。燭台の前に並べられた小さな壺が殉職者の遺骨が入ったものなのだろう。
「……少なくない?」
壺の数は7つ。調査隊は30名ほどの規模だったはずだから、一人一つだとすると数が合わない。
「【未開の中央】で死んで骨が見つかることがレアなんだよ。大地にとっても動物にとっても良い栄養源だからな」
23名は骨すら見つからなかったことになる。自分はまだましな方らしい。
「皆、泣いてるね」
骨壺の前で膝を折る者。燭台の前で肩を震わせながら手を組んで祈る者。
喪服に身を包んだ遺族たちは、表し方はそれぞれだが、一様に故人との別れを悲しんでいるように見えた。
アルメリアも形だけ、骨壺の前で手を合わせてみる。
「……やっぱりだめだ、私」
暫く黙って手を合わせた後、祭壇の端で号泣する者たちをみて、アルメリアが諦めたように首を振った。
「涙が出ない。あんなふうに泣けないの。あれだけ会いたかった父さんの骨があそこにあるのに」
それに比べて自分はどうか。父の亡骸を目にしても涙一粒すら流れてこない。
それどころか乾いた笑い声が漏れてしまって、流れのまま自虐的に笑い声をあげてしまった。
「頑張って泣こうと思ってさ……。お父さんとの思い出を、一生懸命思い出そうとしてみたんだけど……、急に頭に霧がかかったみたいに、思い出すことができなくなってさ。ひどい娘だよね。死んでも泣けない……。思い出せすらしない……。大切な肉親だなんて言っといて、いざ死んじゃったらこれだもん」
葬儀の様子を見下ろしたまま、顔を合わせず独り言を言う様に語るアルメリアの様子を、ヴォルターは黙って横目で見ていた。
その視線に気が付いて、「ありがとう」と目線をそらして小さく会釈してから、無理やり声のトーンを明るくして、
「もう、帰ろう」
とヴォルターの手を引いたアルメリアに、ヴォルターは落ち着いた声で話を切り出した。
「体は土に。心は体に」
「え?」
「この大陸の昔からの教えだ。死んだらその人の体は大地に還って新しい命の糧となり、心は肉体を離れて、残された人たちの心を育む糧になる。燭台の前で祈る前、右手で何かを手繰り寄せる動作をしてから、自分の胸に当ててるだろ」
ヴォルターが指で示すと、新しくやってきた参列者たちがヴォルターの説明した通りの動きを取り、黙祷を捧げていた。
「大切な人の存在をああやって心に残して祈るんだ。ちゃんとやって帰ろう」
「いや……心に残すって、そんなことしたって意味が——」
「大丈夫じゃないくらい傷ついてるんだよ。お前は」
優しい声で言葉を遮られて、心臓が揺れた。
「ショックがあまりにも大きいとさ。何も感じられなくなることってあるんだよ。強すぎる感情に、心が置いて行かれることだってある」
呆然と自分を見つめてくるアルメリアを見て、ヴォルターは少し迷うように目を泳がせてから、手で目を覆い、天を仰ぎながら続けた。
「……俺の父さんは、俺が小さい時に【未開の中央】で亡くなっている」
思い返すのが苦しいのか、優しさの中に苦しさが滲んで、語り出しが少し震えていた。
「俺は家で留守番してた。知らない人が家にやってきて、父さんは死んだって言ってきたけど、ガキだった俺は信じようとしなくて、葬儀にも出なかった。……でも、父さんの死を受け入れられるようになって、葬儀に出なかったことを今までずっと後悔してきた」
それでもアルメリアのことを考えてか、自分のことを語り出すヴォルターに、ローレンスが少し目を見開いた後、何か腑に落ちたように首を振った。
「だから、大切だったとか、世話になったって気持ちがあるんなら、後悔しないようにちゃんと祈りを捧げておくのは大事だと思う」
ヴォルターがアルメリアの手をつかんで、祈りの動作を教えた。
「昇っていく魂から、心を……命を分けてもらうんだ。どんな小さな思い出でもいい。お前の父さんのことを、ゆっくりと思い出しながらやってみて」




