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アルカナ・ブラッド  作者: 糸音
第2章
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発見

 

「……ねえ、本当にやっちゃうの?」

「やる」


 アルメリアが後ろめたそうに尋ねるも、ヴォルターの返しは淡々としていた。


 捕まえたビーバーたちを、彼らが作ったダムと巣が見えるように一列に並べたローレンスが「準備できたぞー」と呼びかける。


「よし、それじゃあ3,2,1――」

「爆破‼」


 ヴォルターのカウントダウンが終わるとともに、ローレンスの楽しそうな声と同時、ダムの方から体も揺らすような衝撃と、耳を割くような爆音が響き渡った。


「「「「「……」」」」」


 ビーバーたちが一生懸命に作っていたダムが爆破され、川の藻屑となった残骸たちが、ゴミのように水勢を取り戻した川を流れていく。

 一瞬にして住処を、見るも無残な形で壊されたビーバーたちは、心が壊れたように、呆然と家だったものの行方を見つめていた。


「何も目の前で壊さなくても……」


 ビーバーたちの悲痛な心がダイレクトに伝わるアルメリアには中々辛い光景だ。


「だから言ったろ、仲良くなりすぎるなって。家を壊す関係上、ビーバーたちには嫌われる宿命なのよ、俺ら」

「そうならないように、別の場所に逃がした後で壊せばいいじゃない! ねえヴォルター?!」

「いや、断水で困ってるんだから、さっさとぶっ壊して断水を解消するのが優先だろ。それに人間に懐いて、もう一度近場にダムを造られても面倒だ」


 動物が好きなヴォルターなら、と縋ってみるも、当の本人は冷たい対応だ。

 言葉を失うアルメリアを横目に、ヴォルターが機材を片付けながら告げた


「嫌われるのも仕事の内ってな」




 ♢ ♢ ♢




 その後、川の上流――元の住処である未開の中央の入り口付近にビーバーたちを逃がした。

 川底までの深さがほどほどで、ダムを築かなくとも程よい位置に巣を作れる。

 適当な水辺にビーバーを開放すると、アルメリアたちを恐れるように、一目散に逃げだしていった。


「嫌われるのも仕事の内、かあ……」

「いい仕事したな」

「うっさい! 少しは悪びれろ!」


 悪びれなく呟いたヴォルターにアルメリアが怒鳴った。

 その後は車に乗り直し、来た道をひき返す形で、下流で瓦礫を回収しているローレンスの部下たちに合流する手はずだ。


 ヴォルターの運転の下、アルメリアとローレンスはキャンピングカーのソファベッドの上でお茶を飲んで休んでいる。


「ヴォルター、お前から見て嬢ちゃんの働きぶりはどうよ」


 ヴォルターはバックミラー越しにローレンスたちに視線を投げてから、反対方向に視線をそらしながら続けた。


「まあ、邪魔にはならなかったな」

「役に立ったってよ」

「死刑は回避できそう?」

「この調子で成果を上げられればな」


 アルメリアがバックミラー越しに運転席のヴォルターを伺うと、ほんのりと笑っているのが見えた。ヴォルターは運転に意識が向いていて、その視線には気づいてはいなかった。


「ねえヴォルター。なんで私のこと心配してくれるの?」


 ふと、アルメリアが改まった様子で問いかけた。急に尋ねられ、ヴォルターも眉を顰める。


「……してないけど」

「……そういう嘘通じないってわかってる癖に」

「知りたきゃ勝手に心の中読めよ」

「感情の動きは分かっても、何をどう考えてるかまではわからないんだって。私がお父さんを探しに外から来たって知ったとき、私のことどうするか悩んでくれたでしょ。嬉しいけど、不思議。私悪いことしているのに、あなたはお父さんを探すってことに関して協力的。なんで、こんなに良くしてくれるの?」


 外からやってきたと知れば、出会ったときのローレンスのように捕えようとするのが普通で、アルメリアに協力する理由は一切ない。

 もしもバレてしまえば自分だって危険に晒されるかもしれないのに、目の前の男は何で助けてくれたのか。


「ヴォルターは自分のことあまり話したがらないけどさ、私、ちゃんとあなたのことを知って、ちゃんとお礼言いたい」


 真っすぐな視線を投げられ、ヴォルターは一度視線を逃がすも、アルメリアの様子が収まる気配はない。

 悪意ではなく、善意で食い下がられたのは初めての経験だった。

 額に手を置き、思い息を吐きながらヴォルターは暫く葛藤したそぶりを見せた。ローレンスも黙って二人のやり取りを見ていたが、遮る様子はなかった。




「……別に。大した理由じゃない」




 観念したようにヴォルターが重い口を開く。


「自分の知らないとこで、大切な人にいなくなられるの、つらいだろ。それだけ」

「……? どういうこと?」


 ヴォルターの中で何を思って、その思考を自分に当てはめてくれたのか。

 そこを聞こうとしたところ、ローレンスのスマートフォンが着信音を鳴らした。

 助かったと言わんばかりにヴォルターが安堵の息を吐いてから、「もしもし」とローレンスが着信にこたえる。


「おー、どうした。下流で何かあったか」


 電話の相手はローレンスの部下の女性らしい。


『隊長。今傍にアルメリアさんはいらっしゃいますか?』

「ああ。一緒だけど」

『……少しだけ、一人になっていただけますか?』


 理由は分からないが、聞かれてはまずい話なのか。

 3人は怪訝な表情で顔を見合わせてから、車を停めた。

 車から外に出て、ローレンスが「すまん」と言い残して外に出た。


 不穏に揺れるローレンスの感情を感じ取り、アルメリアの心もわずかに動揺する。

 車から離れたのを確認してから、ローレンスが会話を再開させた。

 離れる、ということは、聞いてはいけない会話なのだろう。

 だが、内側から締め付けるような不安が張り付いて、アルメリアの胸から離れない。


「……おい!」


 ヴォルターの制止を振り切り、アルメリアは立ち上がった。

 何があったのか聞こうと、キャンピングカーのドアを開けたとき、






「——人骨?」







 ローレンスの声に足を止めた。


 急に湧いて出た不安が心臓を止めた。

 心の中にふいた冷たい風に、アルメリアは無意識のうちに胸を手で押さえていた。


 よぎった不安から目をそらすように、川の方へと目を流す。

 川面を流れる何かが陽光を反射した

 視界の端に映ったものが何か理解したとき、アルメリアはばねで弾かれたように駆け出した。




「——おい、どうした?!」


 その様子を遠目で見ていたヴォルターが、アルメリアのもとに駆け寄った。

 川の淵に流れ着いた何かを拾い上げ俯くアルメリアの側へたどり着き、持っていたものを目にしたヴォルターが、息を詰まらせた。


 拾い上げたのは、ボロボロになった革製のネームホルダーだ。

 そして、そこの中に入っていたのは、







「お父、さん」







 行方不明になっていたアルメリアの父、ハイマー・クロウリー。

 泥や藻でくすんだ入国許可証には、その顔写真が載せられていた。


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