勤務開始
翌朝、朝食を食べ終えたアルメリアの元に、ローレンスが紙袋を持ってきた。
「ほら。お前の仕事着だ」
「へー! 結構可愛いのね!」
袋の中身を広げて、アルメリアが嬉しそうに目を輝かせる。
入っていたのは、薄いライトイエローを基調にした、ショート丈の厚手ジャケットに、同じ色合いのパンツスカートだ。
「先に黒いインナーを着てから、身に着けてくれ」
「この全身スーツみたいなの? ……肌ざわり悪くて着心地悪そう」
「肌触りは最悪だが、熱や電気にも耐性がある特殊な素材だ。【未開の中央】絡みの仕事では頼りになる」
よく見ればローレンスも平服の下に同じインナーを身に着けている。
アルメリアはローレンスに後ろを向かせてから服を脱ぎ、渡された服に着替えた。
丈夫な特殊素材というだけあって、どの服も適度に伸びて、体の動きを邪魔しないのに、素材が無理をする様子がない。ジャケットは軽めの鎧を身に着けたように丈夫だし、インナーも体のラインを綺麗になぞる様に、張り付くようにと肌になじむ。
欠点は肌触りが良くないのと、熱を遮断する関係で、通気性が最悪なことくらい。
靴は膝丈くらいの高さの厚手のブーツ。
トントンと踵を整えて、着替えを終えると、ローレンスも満足そうに頷いた。
「あの人が着ていた服のデザインと大分違うね。こっちのがヒラヒラして可愛いけど、体のラインも良く目立つし」
「ああ。それ衛兵隊の兵服のデザインを協議したときに、その理由でボツになったやつだよ。仕事着にするにはセクシャルすぎるって。試作品が残っていて助かった」
「そんな服をわざわざ持って来ないでよ⁈」
「しゃーねーだろ。面倒見るっつったけど、組織の仲間として正式に迎え入れるわけじゃねえ。制服を部外者に着させられるか」
よくよく見れば、服の所々にうっすらと埃が絡んでいるし、若干かび臭い。相当長い間どこかにしまわれていたのだろう。
ローレンスが受付のような場所で、何かの手続きを済ませた後、アルメリアはローレンスに連れられて、留置所の外に恐る恐る出てきた。
「うーん、気持ちいい! 久しぶりの太陽の下‼」
ドアを開けて差し込んだ日差しに、思わず目を閉じ、そのエネルギーを全身で感じるようにググっと体を伸ばす。
船と列車で約10日。獄中生活で約2日となると、凡そ半月ぶりの日の光だ。
感傷に浸るアルメリアの前に一台の車が止まった。ローレンスの部下が運転する公用車だ。
後部座席に並んで座ると、エンジンが車体を揺らした後に、ゆっくりと発進する。
「燃料が心元ねえな。最寄りのスタンドに寄ってくれ」
「かしこまりました」
メーターを覗いたローレンスの指示に、女性が小さく頷いた。
歩道と車道が隔てられていない、石畳の大通りを通りながら、アルメリアは窓越しに【アニマグラム】の街並みを見渡した。
ブラウンやグレーといった淡い色合いの石造り建物が多く立ち並ぶ街並みは、素朴ながらもどこか上品で、優しい雰囲気を纏っている。
各建物の窓や、街の至る所に花壇や植物が植えられており、街の中に居ながらも、自然と一体になるような感覚に陥ってしまう。自然と人が共に生きるというよりは、人の中に自然が生きているといったような風景だ。
丘の上に建てられた都市は、中心部から街の外へ、なだらかな勾配ができており、進む先には城壁の前に細やかに並ぶ、色とりどりの屋根が広がっている。
「綺麗」
窓の隙間から流れてくる空気も。周囲や目の前に広がる街並みも。
純粋に感動の言葉を溢したアルメリアを横目に、ローレンスも自慢げに微笑んだ。
暫くすると、大通りの端にあるスタンドのような場所に辿り着いた。
「補充してみるか?」
「する!」
どうやら燃料の投入はセルフらしい。大きな3つのタンクが備え付けられている機械の側に寄せて駐車する。
アルメリアを支払い機の前に立たせて、ローレンスが紙幣を投入した。
「この車、レギュラー? それともハイオク?」
「おいおい。この大陸の車がガソリンなんかで動くわけないだろ?」
「? じゃあ何を燃料に走るの?」
不思議そうに目を丸めるアルメリアに、ローレンスがしたり顔で笑った。
「決まってるじゃねえか。お前ら外の人間が言う【奇跡の燃料】さ」




