北のモードネス家
マルセルの要請を受けたファーナとデノーテが北の国に到着すると、マルセルはファーナとデノーテをシャガルクに引き合わせた。
「シャガルクさん、この方が今の南の国のファーナ女王です」
「そしてこちらは、ファーナ女王と私の義母であるモードネス家のデノーテさまです」
「このお二方は南の国の聖女と呼ばれているんですよ」
「あなたもでしょうに!マルセル」
ファーナとデノーテが同時に叫ぶ。
そんな二人を無視して、マルセルがシャガルクに手を向ける。
「こちらは北の国の元王である、シャガルクさまです」
そう言って、遠慮してマルセルの後ろに立っていたシャガルクを二人の前に押し出した。
シャガルクが二人の前に進み出て膝をつき、臣下の礼を取った。
「シャガルクと申します」
「これまで長い間、貴国を苦しめてきたこと、お詫び申し上げます」
「それにも拘らず、わが国の窮地をお救い下さり、感謝の言葉もございません」
ファーナがシャガルクの前に行き、手を取って、立ち上がらせた。
「シャガルクさま、お立ち下さい。今は仲間ではありませんか」
「そう言っていただけると、感謝しかありません」
「マルセルならきっとーー”昨日の敵は今日の友”などと言いそうね」
デノーテがマルセルを見ながら、お道化た口調で言う。
「やだなあ、お義母さま。私だったらーー”雨が降ったら地を固めよう”ですよ」
「ほらね」
部屋が笑いに包まれ、シャガルクとの緊張感が緩み始めたころ、召使がお茶の用意が出来たと知らせてきた。
最初にマルセルが北の国に来た時には、客人をもてなすことは大変なことだったのに、今は南の国と遜色ないお茶とお菓子をテーブルの上に並べることが出来る。
シャガルクも得意気に勧めてくる。
「何もありませんが、しばらくこちらで休息をしてください」
「このお菓子、美味しいわね。南の国には無い味ね。レシピは頂けないのかしら?」
「お茶の入れ方が上手だわ」
三人がお茶を飲みながら話していると、デノーテの横でシャガルクが何か言いたそうにしている。
「シャガルクさん、どうされました?」
気がついたマルセルがシャガルクに問うと、シャガルクが遠慮がちにデノーテを指差した。
「いや、そこのデノーテさまなんだがーー確か、モードネス家の人間と言われたよな」
デノーテは自分の実家の名前がシャガルクの口から出てきたので驚いた。
「はい、私の実家はモードネスです」
「実はな、北の国にもモードネス家があるのだ」
「この北の国を建国したのはモードネス家だと聞いていた」
「だがもう何百年も前に、王家ではなくなっているがな」
モードネス家は全員が南の国に移ったと思っていたデノーテは驚いた。
「私たちは北の国から出て来た人間ですから、北の国に残った人がいたとしても不思議は無いのですが、その方たちにお会いできるということですか」
「私の知り合いなんだ。そういうことなら、すぐにでも会えるよう手配しておくよ」
横で聞いていたマルセルがシャガルクに問うた。
「シャガルクさん、北の国にはシャンツ家、シフォン家、シバー家は残っていないでしょうか」
「それは聞いたことは無いな。だがそれも調べておくよ」
「もし残っていたら、モードネス家共々、こちらに呼び寄せるようにしよう。それまでしばらく待っていてもらいたい」
シャガルクが出て行くと、三人が喜び合った。
「良かったですね、デノーテお義母さま」
「モードネス家の血筋が途絶えずに済むかもしれませんね」
「お待ちなさい。忘れましたか? ”モードネス家の呪い”はまだ解決していないのですよ」
「そうでしたね。その方たちにも、もうご迷惑が掛かっているかも知れないですものね」
「ええ、お会い出来たら、そのことをちゃんと伝えておきましょう」
「”呪い”を解く方法を絶対に探し出さないといけなくなっちゃったか」
気持ちを引き締めようと、ボソッと言ったマルセルの言葉が耳に入ったデノーテがため息をついて洩らす。
「マルセルが首を突っ込むと、厄介ごとが増えるというのは本当だったわね」
「えっ?えっと、まずは西の森の結界から始めましょうか」




