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成果と課題

 ファーナから依頼を請けたマッケン爺さんが、職人たちを引き連れて北の国へやって来た。

 用意された宿舎にはマルセルが待っていて、マッケン爺さんを見つけると、子供のころのように飛びついていった。


「マッケンさん よく来ていただけました」

「マルセルさんには世話になっとるからの。喜んで手伝うさ」


 横に若い職人が立っていたが、それが誰かはマルセルにはわからなかった。

 どうしていいかわからず、もじもじしている若者に、ようやく気づいたマルセルが、若者の手を取った。

 

「もしかしてダン?久しぶりね!もうりっぱな職人に見えるわ」

「ありがとうございます」

「あのカストに鍛えられとるからな。役に立つぞ」

「へえ、あのカストに弟子が出来るとは、信じられませんね」

「あいつも今じゃ凄腕の親方じゃよ。お陰で儂もこうしてお前さんとじっくり仕事が出来る」

「そうですね。昔を思い出しますわ」

「ところで、儂は何をすればいい?」

「畑を見てもらって、やるべきことをこの国の人たちに教えてあげて欲しいのです」

「よし、任せとけ」


 マルセルと一緒に畑を見て回ったマッケン爺さんは、集まっていた北の国の人たちを前にして、今年は土作りに専念しようと言った。

 何か特別な方法を教えてもらえるのではと期待していた北の国の人たちは、それを聞いてがっかりしたが、反発することもなく、大人しくマッケン爺さんに従った。

 だが一ヶ月も経たないうちに、教えられた方法だけで今までよりも格段に収穫が増えると確信できた北の国の住人たちは、より一層の協力を惜しまなくなった。

 お陰で作業も捗り、二年目の終わりには南の国からの支援さえも殆んど必要が無くなった。

 北の国の支援のために最低でも三年は我慢しないといけないと覚悟していた南の国の住民たちは、それを聞いて大いに喜んだ。

 三年目の秋の収穫が終わり、毎年冬が始まる前に行って来た定例会議が開かれた。

 北の国の会議場に主だった人たちを集め、マルセルが宣言する。


「では、今年の反省と来年の目標を立てましょうか」


 マルセルは、北の国の統治のやり方を、ファーナの目指す南の国のあり方のモデルケースにするつもりだった。

 当然それは前もってシャガルクの同意も得ているし、南の国からも参考のために代表がやって来ていた。

 学園に通っているシャガルクの息子のカングも研修生として参加している。


「では、私から今年の成果について報告させてもらおう」


 シャガルクが立ち上がり、手短に、かつ的確に報告していく。

 さすがは元王である。


「ーーという訳で、今年の収穫を加えると、ほぼ二年分の食料を確保できたと報告しておく」

「この件について何か質問はあるか」


 幾つかの質疑応答を経た後、シャガルクがマルセルを指名する。


「これで意見も出尽くしたようですので、マルセルさま、何か一言お願いします」


 マルセルが立ちあがり、話し始める。


「三年目の今年は、自立のための行動を優先してきました」

「皆さんのおかげで、私が五年と見積もった成果を、何と二年も早く達成出来ました。そればかりか、一年分に近い備蓄を確保出来ました」

「ですから、計画を修正して早めることにしましょう」

「来年は恐れることなく、あなたたちの手だけで事を進めるようにしてください。余程のことが無い限り、私たちは手を出さないようにします。南の国からの支援も、備蓄では間に合わなくなったときに限って行います」


 会場から不安のため息が漏れる。


「大丈夫ですよ。シャガルクさんからの報告を聞いたでしょう?」

「もし来年、全く収穫が無かったとしても、北の国には一年は暮らせるほどの備蓄があります」

「成功すれば二年分の備蓄が出来るのですよ。しかも今年の実績から見ても、それは達成できるでしょう」

「何事も恐れずに計画を進めて頂きたい」

「皆さんの今年のご努力を感謝して、来年に向けてご協力をお願いします」


 皆の前で、マルセルが頭を下げる。

 周りにいた人々は一斉に立ち上がってマルセルに向かって頭を下げた。

 そして全員が一斉に声を上げた。


「これもマルセル様のおかげです」


 会議が終わって、マルセルたちがくつろいでいると、満面の笑顔のシャガルクがやってきた。


「いやあ、やれば出来るもんだな」

「皆さんが頑張ってくれたお陰ですよ」

「まさか、今年は冬の心配をしなくてもいいだけでなく、来年以降にも希望が持てるようになるとはーー」

「三年前のことを考えると、信じられんよ」


 そう言うと、横にいたマッケン爺さんの肩を叩く。


「痛い!年寄りを苛めるんじゃない」

「あっ、すまなかった。爺さん」


 今度は息子のカングの方に向き直り、肩を叩いた。


「お前もえらく大人になったな カング」

「学園で鍛えられてますからね」


 飲みかけていた酒をのどに詰め、咽びながらカングが答えた。

 それには目もくれず、今度はマルセルの方を向く。

 肩を叩かれるんじゃないかと身構えたマルセルに、シャガルクは頭を下げた。


「マルセルさん、本当にありがとう」

「まだ、道半ばですよ、シャガルクさん」

「礼は最後にうまくいってからにしてください」


 シャガルクが急にまじめな顔になって、話し始めた。


「そうだな。山すそは雪解け水もあるため、土壌の改良だけで何とか出来たがーー」

「平地の方はまだ十分に水が行き渡らず、どうしたものかと思っている最中だからな」

「西の砂漠からの砂も迫ってきているしーー」

「聞けば、昔はこの平地は湿地だったそうですね」


 マルセルが聞く。


「ああ、まだ山に割れ目が出来る以前のことだが、南の湖から湿地が、ここまで広がっていたとか聞く」

「この湿地は肥沃で、作物が良く育ったらしいがーー」

「西の森が広がって来て、湖の水が入って来るのを堰き止めてからは、今のような荒れ地になったようだ」


 マルセルが疑問を口にした。


「湖の水を利用するつもりは無かったんですか?」

「水路を造って湖の水を利用すればいいだけだと思うのですけど」


 シャガルクがちょっと困ったように、頭を掻いて言う。


「ああそれな。儂らも考えなかったわけじゃないんだ」

「ほら、湖とこことの間に森があるだろう。あそこが通れないんだよ」

「野獣でも出るのですか」

「それなら狩りつくしてやればいいだけなんだがーー」

「それに昔からの言い伝えもあってね。”森で精霊に出会って触られたら死ぬ”とね」

「だから、誰も森に近づこうとしない」


 そう言って、諦めたように肩をすくめる。


「ああ、なるほど」

「モードネス家の古い本にも、そんなことが書いてありましたね」

「こちらには聖女と呼ばれる方はいないんですか」

「聞いたことは無いな」

「それよりも厄介なのはな、精霊に出会うとか以前にーー」

「森へ入ったら、いつの間にかこっちに戻っていてーー」

「湖まで、たどり着けないんだよ」


 マルセルとジョセは目を合わせた。


「ジャンヌ義姉さまも、南の森に狩りに行っても、奥には入って行けなかったと言ってました」

「私も小さい時、森の中で同じ経験をしました」

「もしかして、これも精霊とやらのせいか?」


 ジョセが問いかける。


「そうかも知れませんね」


 マルセルはふぅと息を吐いた。

 精霊の力ってなんだろうという疑問の答が、ここでわかるような気がした。


「では私たちは西の森の調査を今年の最重要課題としましょうか」

「視察のお願いがてら、ファーナと、デノーテ義母さんにも来てもらいましょう」




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