ちょっとした事故
次の旅に向かうため慌しく準備をしていると、朝の食事の用意が出来たと知らせがあった。
ファーナたちがシフォン家の食堂のテーブルに着くと、奥からアスクの息子たちがミッシェルに連れられてやってきた。
彼らも三つ子だ。
席に着いた子供たちは、昨夜のディナーの時からすでに打ち解けていて、楽しそうに笑い合っている。
それを見ながら、ファーナがアスクに話しかけた。
「アスクさん、大変心の籠ったおもてなしをありがとう」
「まさか、シフォン家の皆さんとご一緒に食事が出来るとは思わなかったわ。一生の思い出ね」
ーージュナが言っていた”一期一会”と言うのはこのことか。
ーーそれにしても、今回は自分の未熟さをよくよく思い知ったな。
アスクはモードネス家の呪いを自分が受けていることを知っているので、その血をひく自分の子たちとファーナの三つ子が仲良くなるのを恐れていた。
だからファーナたちに、息子たちを紹介するつもりは全くなかった。今までのしきたり通りやれば、紹介する必要も無い。
ジュナが、シフォン家の家族が表に立つよう言ってきたとき、アスクはそれを一番恐れていた。
ミッシェルが、それは良いことだと賛成しなかったら、これまでのように客の前に出ることは無かっただろう。
「ミッシェル、いいのか?」
「モードネス家の呪いのことを気にされているのですか?そのことはファーナ女王さまの了解も得ていますので、ご安心ください」
「ファーナ女王の?」
「ええ、後のことを考え過ぎて、自分を見失うなとおっしゃってましたよ」
アスクは父親のバッセを思い出して、顔を赤らめた。
ーーそうか、父を知る人から見れば、私も父と同じことをしようとしているように見えるのか。
気を取り直したアスクがファーナに尋ねた。
「今日はどちらに向かわれますか?」
「南の森の関所を守る兵士たちに激励に行こうと思っています」
「ああ、それなら今日は近くで定期市が開催されるはずですよ。見て回れる時間が取れればよろしいですね」
ーー定期市か、そう言えば、ジュナも言っていたわね。
「ファーナ!」
そこへ、ジャンヌが割り込んできた。
その横にはトールとその家族が立っている。
「トールじゃない、何事なの?」
驚くファーナの前に立ったジャンヌが申し訳なさそうに話し始める。
「ここからはトールに荷馬車の管理を代わってもらいます」
「あら、どうしたのかしら」
「シャークが朝の剣術の稽古中に足をくじいてしまって、お供が出来なくなりました」
ーーそう言えば、朝早くから熱心に稽古していたらしいわね。
「それは大変ね。早く連れて帰っておあげなさい」
「申し訳ありません」
ファーナがトールの方に向き直る。彼らと旅をするのは久しぶりだ。
「トール、久しぶりね。それじゃあ、後はお願いしますね」
「任せておけ」
朝早く、日課にしていた剣術の稽古をしていたシャークは、落ちていた石に足を取られて転んだ拍子に、足をくじいてしまった。
骨折こそしなかったが、足首は大きく腫れ上がり、歩くことも儘ならなかった。
困ったジャンヌが、シフォン家の近くに居を構えていたトールに使いを出して代役をお願いしたのだった。
「使いから話を聞いた時には驚いたが、お供が出来なくなってから子供たちが落ち込んでいてね。断る理由は無かったよ」
「だからシャークには申し訳ないが、感謝してるよ」
「それより、ジャンヌこそ、念願の旅だったのに、残念だったな」
「それはシャークの前では絶対に言わないでね。彼、そのことですごく落ち込んでいるから」
「いや、あいつは家に戻ったら間違いなく忘れているよ。次は今度こそ私の番だなんて言い出すぜ」
「訪問先がシフォン家だったから、縁のあった私が居るウイルドン家が選ばれたとは思ってないみたいだから、そうかもね」
ファーナたちが出発するとき、足を痛めていたシャークまでが見送りに出てきた。
包帯で足を巻かれて、痛々しそうに杖をついて立っている。
息子のジャンツがその身体を支えていた。
「ファーナ女王さま、折角、ウイルドン家を選んでいただきましたのに、こんなことになって申し訳ありません」
「次には改めてお供をさせていただきます」
「わかったわ。お体を大切にね」
「はい、有難うございます」
そのやり取りを聞いていたジャンヌとトールが目配せして肩を竦める。
「では女王ーーいや、ファーナさん、出発しましょうか」
トールの合図でロバに引かれた二台の荷馬車がゴトゴトとシフォン家を後にした。




