埋葬
カールは光で包んだマルセルとジョセの亡骸をモードネス家の墓所に運び込んだ。
自分たちが死んだら、亡骸を墓所まで葬送して欲しいと、カールに頼んであったのだ。
その夜、シャンツ家に滞在していたファーナは、雪のような光が窓の外に舞うのを見た。
窓を開けて、光が舞って来る方を眺めると、峠の結界石のある辺りから空に向かって真っすぐ光の柱が伸びているのが見えた。
そしてその根元から、雲のような光の塊が浮かんで、モードネス家の屋敷の方にゆっくりと向かっている。
それがモードネス家の墓所の小島の上に留まると、小島全体が光に包まれた。
眩しさに目を細めたファーナが池の中に見たのは、まるで霧に包まれているように見える、淡い白の光の中に、ひと際強く光る棺のようなものだったーー気がした。
そんな時は何が起きたことを意味するか、墓所の鍵を持つ人間として自分は何をすべきか、以前からマルセルに言い聞かされていたファーナは、急いでモードネス家に戻ることにして、皆を呼び集めた。
モードネス家に戻り、墓所に集まった皆の前に、まるで光で作ったような棺の中で、光の粉に包まれた、ほほ笑んでしっかりと手をつなぎ合って横たわるマルセルとジョセの亡骸があった。
小島に亡骸が運ばれてきたときは、それが誰であろうと、墓所の鍵を持つファーナが墓所に収めることになっていた。
今日はそれを自分一人でやらないといけない。
彼らを墓所に収めることが出来るのは、鍵を持つ自分しかいないとわかっていたが、”聖女の証”を持てなかった自分に、本当に墓所の扉を開けることが出来るか、最後まで不安で一杯だった。
それを察したファーナの三人の娘たちがファーナのそばに来て、ファーナの手を握った。
彼女たちも、自分たちのすべきことはマルセルから言い聞かされていた。
勇気づけられたファーナが大きく息を吸い、墓所の扉に向かって叫んだ。
「カールさん! ファーナです」
すると、番人のカールがファーナの前に現れた。
「帰ったばかりなのだ。そんなに大きな声で叫ばんでも、さっきからそばにおるわ」
ファーナはそれに構わず、また叫んだ。
「ここを開けて、このお二人を埋葬してください」
カールは、やれやれと耳をほじり、肩をすくめると、鍵束から”ファーナ”と刻まれた鍵を取り出して、扉を開けた。
そして二人の亡骸と共に墓所の中に入って行った。
しばらくして、一人で墓所から出て来たカールが墓所の扉を閉めると、ファーナの前に立って口を開いた。
「これで儂がマルセルに頼まれた仕事は全てやった」
「マルセルはジョセと共に、峠の結界石の”結界”を”祝福”に変えて、こと切れた」
「奴の作った”祝福”は、それを維持するために他の者に犠牲を強いることは無い。少なくとも百年は消えないだろうよ」
「心配せんでも、それが消えた後でも結界は残らん」
「まったく、マルセルという奴は精霊並の力を持っておったわい」
「じゃが、全ての力を使い切るまで石柱に”祝福”を込めるとはのう。思いも寄らなんだ」
そこまで言うと、カールはファーナを見つめ直した。
「さてーー儂はマルセルに、彼らの亡骸をここに運び、お前さんの力を使って墓所に収めるよう頼まれた」
「今、その責は果たした。その礼としてーー」
カールはファーナを上目遣いに、少し疑いを持った目で見た。
「お前さんが儂を消してくれるとのことだった。それがあったから儂はーー」
カールの言葉が終わる前に、ファーナが承諾した。
「約束通り、引き受けましょう」
「本当にやってくれるのか」
「はい」
「間違えれば、儂の代わりにお前さんが死ぬことになるのだぞ」
「わかっております。お任せください」
力強くファーナが答える。
「だが、失敗すると儂もーー」
それでも不安げなカールの背から声が掛かった。
「大丈夫じゃよ、カール。儂もおるでな」
「おお、”二の兄”も来ておったか」
そこには森の精霊の長の姿があった。
「カール、向こうへ行ったら、少しだけお前が年上になるな。残念じゃ」
「そういうことになるな。今度は儂が可愛がってやるぜ」
「お手柔らかにのう。さあカール、手を出せ」
「ファーナもじゃ」
”二の兄”がファーナの手を掴み、カールの手と重ねた。
「早くしてくれ」
「今まで待ったんだ。急ぐ必要はなかろう」
「早く皆に会いたいんだよう」
「やれやれ駄々っ子じゃの。ファーナ、”浄化”してやれ」
ファーナは精霊の”浄化”は二度目だが、最初の時はマルセルがそばにいた。
つい手を出すのを躊躇ってしまう。
それを見た”二の兄”が優しく言った。
「ファーナ、心配するな。儂がついておるではないか。ほれ数えるぞ。1,2,3・・・」
意を決したファーナが、カールの手に重ねた自分の手に力を加えると、ファーナとカールが光りに包まれ、光の柱が一本空高く昇って行き、しばらくするとふっと消えた。そこにカールの姿は無かった。
「・・・36、37か」
「ふん、37まで数えたぞ、相当な力じゃったのう」
「まるで、身体の中を嵐が通り過ぎるようでした」
「しかし、お前さんの身体はどうなっとるのかの? マルセルもすごかったが、お前さんは”究極の精霊殺し”じゃの」
「それはひどいです」
「ハハハ、カールのお陰で、これなら儂も間違いなく消えることが出来るとわかって、安心よ」
「ですが長、カールさまの持っていたこれだけの力を、私は無駄に垂れ流してしまいました。カールさまにも申し訳なくて」
「マルセル義母さまのように何か役に立つ使い方は出来なかったものでしょうか」
「お前は儂が後見になって、これからの寿命を全う出来るのだ」
「その間に、儂と一緒に何が出来るか、考えてみるがええ」
「そうですね 長い人生を約束していただけましたものね」
「儂にはあっと言う間じゃがの」
ファーナが墓所の入り口を見て、驚いた。
そこには小さな岩穴が有るようにしか見えなかった。
そばには壊れた扉が転がっていた。
「この入り口、何百年も昔はこんな感じだったのでしょうか?」
「うむ、元々あった岩穴にカールたちが手を加えて墓所を築いた。カールの力が消えて元に戻ったと言った方がいいじゃろうの」
「ですが、何か安らぎのようなものを感じます」
「ふむ、カールの残滓がまだここに残っているのかも知れん。”三の兄”がおった西の森の泉もそうなっている」
「では、シバー家のミネルバさまの部屋とか、シフォン家の尖塔とかにも、精霊さまの残滓が残っているということでしょうか」
「どこかにの」
「モードネス家はこの墓所だったということですね?」
「そういうことになる。これまでマルセルの代わりに、儂が墓所の維持を肩代わりしていたが、カールが居なくなった以上、それももう必要は無くなったみたいじゃ」
「モードネス家の”呪い”とやらも、どうやら意味が無くなったようだのう」
「ではアスクさんとミッシェルさんの問題も無くなったということですか?」
「そうじゃの。鍵の掛けようが無い墓所の扉に、鍵は必要ないからの。持っていてもしょうがないじゃろう」
「良かった! 肩の荷が下りました」
「これで問題が残るのは、お前さんだけじゃな。ファーナさんよ」
「はい」
「いや、儂も残っておったな。お主と儂はこれから一蓮托生というわけだ」
「よろしく願いします」
「その代わり、わかっとるの」
「西の国に出て行ったという”一の兄”がどう出てくるかわからんでの。何かあったら、その時は一緒に頼むぞ」
「はい、必要とあれば、私を如何様にでもお使いください」
「お互い様じゃ」




