↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
106/120

サーニャの相続

 南の国に戻ったはずのマルセルが、三日も経たないうちに北のモードネス家の館に姿を現した。


「お早いお帰りですね!すぐにお茶の用意をしますわ」


 一人で館を守って心細かったサーニャは、喜んでマルセルを館に引き入れようとした。

 だがマルセルは、すぐに旅の支度をするようにと、サーニャを急かしてきた。


「今から南の国に行きましょう。一週間ほどの旅になるから、必要なものをカバンに詰めてちょうだい。待っているから」


 訳もわからないまま、急き立てられるように南の国へ連れていかれたサーニャが立ったのは、今は迎賓館として使われているシャンツ家の館の正面にある、大きな玄関扉の前だった。

 目を見張るサーニャを促して、マルセルは扉を押し開いて中に入って行った。

 マルセルの後から恐る恐る入って行ったサーニャは、そのエントランスホールの広さに驚いた。

 しかも、元は王館として使われていただけあって、堂々とした荘厳な造りだ。

 腰の引けたサーニャの手を掴んだまま、ホールを横切って行ったマルセルが、広間の彫刻で飾られた扉を開けると、そこには既に大勢の人が待ち構えていた。

 扉のそばで待っていたジャンヌが進み出て来ると、マルセルからサーニャの手を受け取って、広間の中央に連れて行く。

 部屋の奥の一段高くなっている王座にはファーナが座っていた。

 ファーナが王座から立ち上がり、サーニャの前まで下りてきた。


「北の国で一度お会いしましたが、改めて名乗りましょう。南の国の女王、ファーナです」

「サーニャです。これはどういうことでしょう?」


ーーえっ、彼女は知らないの?


 ファーナがマルセルを見た。マルセルが横を向いて肩をすぼめてみせる。


ーーやれやれ、誰に対するサプライズのつもりなのかしら。


「実はね、あなたに正式にモードネス家の跡継ぎになって欲しいと思っているのです」

「あなたのお婆さまであるブラーニャさまが、まだ元気でおられる時に、この話をしておきたかったのだけれど、あんな形でブラーニャさまは亡くなられてしまったから、あなたに白羽の矢が立ったのですよ」


 マルセルがその後を継ぐ。


「この南の国は、北の国から出て行ったモードネス家、シャンツ家、シフォン家、シバー家の四家が協力して興したの」

「ここにいるのは、皆その子孫たちというわけ」


 そう言うと、手を伸ばしてサーニャの手を取り、皆の前に連れて行った。

 順に一人一人に紹介していく。

 握手とカーテシーをするだけで精一杯で、サーニャは何も受け答えが出来なかった。

 アスクの前にサーニャが立った。

 マルセルがサーニャに耳打ちをする。


「南の国で、今唯一とも言えるモードネス家の血筋にあるお方よ。デノーテ義母さまの息子さんになるわ」


 アスクが一歩前に出て来て、手を差し出した。

 サーニャがぎこちなく、その手に自分の手を重ねる。


「私は南の国のモードネス家を最後まで守ってくれたデノーテ母さまの一人息子のアスクだ」

「こちらが妻のミッシェルと三人の息子たちだ。よろしく頼むよ」

「サーニャさま、初めまして」


 ミッシェルが美しいカーテシーを見せると、サーニャも慌ててカーテシーを返す。

 そのぎこちなさを見て取った、ジャンヌの目がキラリと光った。


 サーニャは改めてアスクの家族たちを見た。

 北のモードネス家の人間はもう探し出すのも難しいほどしかいない。

 サーニャもそんな中から探し出され、ブラーニャの世話をすることになったのだ。

 南の国にはまだモードネス家の血を引く人たちがいると知ったサーニャの目から安堵の涙が流れた。

 挨拶が一通り終わると、マルセルに手を引かれて、ファーナの前に戻って行く。

 そこには三人の椅子が並べられており、中央の椅子にファーナが座ると、会場にいた者たちも自分たちの椅子に座った。

 マルセルがサーニャを促して席に座らせる。

 ちょっとしたざわめきが静まるのを待って、マルセルがサーニャに語り始めた。


「まず、モードネス家のことを説明するわね」

「南の国のモードネス家は、デノーテ義母さまが亡くなられた後は、私とファーナが管理しているのだけれどーー」

「ファーナは、シャンツ家とシバー家の血をひいている」

「私は、シバー家とシフォン家の血をひいている」

「つまり、ファーナと私には、モードネス家との血のつながりは全く無いの」

「血のつながりで言えば、デノーテ義母さまの一人息子のアスクさんの家系なのだけど、アスクさんは当主としてシフォン家を継いでいる」

「それで、ここからが本題なんだけどーー」

「だから、モードネス家を残すとなると、北のモードネス家の血縁であるあなたに継いでもらうのが最善なのよ」

「引き受けてくれないかしら?」

「私にどうしろと?」

「当面はブラーニャさまの館を守って欲しいわね」

「それくらいなら、お引き受け出来ますわ」

「良かった!じゃ、シャガルクに言ってモードネス家の屋敷を改築してもらわないとね」

「いえ、私はあの館の一角に住まわせてもらえば十分です」

「何を言っているの。あなたの肩にはモードネス家の未来が掛かっているのよ」

「今、館を守ればそれでいいっておっしゃったじゃないですか」

「当面と言ったでしょ。それに私はあなたにモードネス家を継いでくれとも言ったでしょ。これはセットよ」

「そんな」


 ジャンヌがサーニャの前に立つと、低い声で、だが皆に聞こえる声でサーニャに言った。


「諦めなさい。この人は”人たらしのマルセル”と言われているのよ」


 そこにいた全員が笑った。納得の笑いだ。

 笑い声が収まるのを待って、マルセルが何事も無かったようにサーニャに言った。


「そのために学ぶこともたくさんあるわ」


 サーニャはもう反論する気は無く、黙ったままだ。

 それを了解と受け取ったマルセルが改めてサーニャを皆の前に連れて行った。


「改めて紹介しておくわ。あなたの先生たちよ」

「まずファーナとサックス。南の国のモードネス家で、国を動かすための教育をやっているわ」

「こちらがジャンヌ義姉とシャーク義兄。ウイルドン家でメイド教育をしている」

「こちらがミッシェル義姉。シフォン家でアスク兄さんとレストラン経営をしているわ」

「この子は私の妹でチュール。シバー家で治療院をやっている」

「最後に、ジョセ。私の夫で、ファーナの兄よ。シフォン家の横の尖塔で子供の学校を開いているの」

「ジャンヌとミッシェルと一緒に、どう勉強を進めるか決めてちょうだい」

「どれくらい長くいないといけないんですか?」

「この二人が合格を出したら、北の国に帰ってもいいわ」


 そこにジャンヌが口を挟んで来た。


「ええ、任せてちょうだい!」

「だけど、さっきのあのカーテシーは何なの?モードネス家当主として恥じないように、徹底的に鍛えてあげるわよ」


 マルセルが”あちゃ、ジャンヌに火をつけてしまったか”と笑顔になりかけたが、すぐに気を引き締めて、サーニャに向かって言った。


「私はこれから北の国に行くけどーー」

「一年後、私が北の国から戻って来るまでに、あちらに帰れるようになっておいてちょうだい」

「ーーはぁ」


 サーニャの肩がガクッと下がった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。