想いの強さは大いなる力、なのです♪ 3
「終わりましたね」
水涼さんがにっこりとして微笑む。
「水涼殿、うううう、美しいおおおお働きでありましたたなぁ」
流道がまたいつものようにおかしな口調で話す。
「シャイボーイにもほどがあるぜ、流道サ~ン」
「貴様の色事にまで付き合ってなどいられん」
「はは、ホント神様って変な奴らばっかなんだな」
人の性格が十人十色であると同様に、この神様たちもまたそれと同じ。見ていてなんだかとても温かかった。
「さて、儂らも悠長にしてもいられんぞ。火の手を収めんとな」
俺ははっと思い出したように周囲を確認する。火の手はいまだ勢い衰えず、強さを増している。窓の外からは消防車の音が聞こえる。
玻雀は床に伏したまま、真愛は壁にもたれながらそれぞれ気を失っていた。
「そうだ、早く二人を助けないと……でもどうしたら」
「案ずるな、この火は儂らが消し止める。浮柾により起こされた騒動の部分も、神の力による雨にて人々の記憶から取り除こう」
「そんなことができるのか!」
「今回の件は自然の理を大きく歪めた一件じゃ。理を歪めた出来事は、自然の理に収まるよう書き換えることはできる。『湧くや』は燃えたままじゃがの。それが儂ら神にできる唯一の償いじゃ」
「そうか……じゃあこの事件、玻雀の責任ってことにもならないように上手くできるってことか?」
「無論じゃ、あやつにも責はない。あやつはもともと人の良い人間じゃ。真愛のことは好いておるようだが、奥底に眠る独占欲じゃったり、親の七光りと揶揄され続けることによって拡がった心の弱い部分を堕神につけ込まれた。あやつも今回の件の被害者に変わりはない」
それを聞いて安心した。玻雀もきっと、根は悪いやつじゃない。もとより周囲の人たちに認められていたやつだ。それがこんなふうに振り回されて、人生をふいにされたらそれこそ報われない。俺は二人とも助ける。そう決めたんだ。
「分かった。一心、じゃあ頼むよ」
「では、これでお別れじゃな。一途」
「え?」
驚いてみんなの顔を見回す。
「聞いておらんかったか? 理を歪めたことによって起きたすべてを元に戻す。それはお主とて等しく言えることじゃ」
「え、じゃあ、みんなとは……」
五人の神様は一様に頷く。俺の記憶もまた同じように、何事もなかったように塗り替えられていく。それを意味する頷きだった。
「お前は見た目以上に骨のある男だった、これからも精進を怠るなよ」
「流道のおっさん……」
「一途、ユーのキレはミーが保証する。スマートライフを満喫しろよ」
「太郎さん……」
「貴様の美学、ここで終わらせることなきようにな。いつの時代も美は追求するものだということを忘れるな」
「澪琴……」
「お主が儂の無明祓想で得た心、努々忘れるな。それがこれから立ち塞がるであろう壁を越える大事な鍵となろう」
「一心……」
そして、水涼さんが前へと一歩踏み出す。いつもどおり、おっとりと彼女は優しく微笑みかける。
「一途さん、とっても楽しかったです。恋物語の続きは清水のそばからそっと……見守らせていただきますね」
「水涼さん……」
目頭がジンと熱くなってくる。
たった二週間の出来事だった。
でもそれは今までの日常とは違う、とても充実した二週間だった。
コンプレックスだらけで情けなかった俺が、自信を付けることができた二週間。
強敵にも恐れずに立ち向かう強さを身に付けることができた二週間。
大事な人を守る勇気を持つことができた二週間。
どれもこれも、みんなのおかげで成長することができた二週間。俺は、俺は――。
「絶対、忘れないからな。みんな、ありがとう」
頬に涙が伝っていた。それでも俺は決して、笑顔を崩さなかった。
一心が手を上に上げる。
「では、ゆくぞ!」
続けて四人の神様も手を上へ上げる。
やがて空に穴が空いたと思うような大雨が降り注ぎ、『湧くや』の炎を鎮火していった。
***
外の消防車の音は気づけば止まっていた。
人々の歓喜と驚きの声が窓を通して聞こえてくる。
ゆっくりと目を開けると、ところどころにブスブスと細い白煙を上げた『湧くや』の屋内が拡がる。窓や天井からは水がぽたぽたと滴り、異様な焦げ臭さが鼻についた。窓から見える空は、日が沈んで薄らとまどろむような赤と青、紫が色を残し、夜の黒に覆われていく最中だった。
壁際にもたれかかる真愛を抱き起こす。先のゲリラ豪雨による雨で火が消えて、運良く火傷ひとつ負わずに済んだ。濡れてぺったりと貼り付いた前髪を払い、真愛に優しく声を掛ける。
「真愛、大丈夫か。しっかりしろ」
「うう……う、ん」
真愛がゆっくりと目を開ける。その瞳が俺を捉えると、真愛はふふっと笑った。
「イチ……何だかヒーロー、みたいだね」
「もう、大丈夫だ。帰ろう、みんな心配してる」
「うん」
ゆっくりと体を起こす真愛。辺りを見回し、倒れた玻雀に気がつくと真愛は叫んだ。
「玻雀さん!」
「大丈夫、気を失ってるだけだ。俺が担いでいくよ」
ほっと胸を撫で下ろす真愛。俺は立ち上がるとき、右のポケットに入った固い物に気がついた。先ほどホールの前で拾った真愛のブローチだ。
ポケットからブローチを取り出し、俺は真愛に素っ気なく差し出す。
「あ、これ!」
真愛の表情が一気に明るくなった。俺は恥ずかしくて目を逸らしながらも、昔と似たような言葉を口にした。
「大事に……持ってろよ。お前のために作ったんだからな」
真愛は嬉しそうにブローチを受け取り、神様にお願いをするかのようにぎゅうと両手で強くそれを握りしめた。そしてにやにやとしながら、俺の顔を覗いてくる。
「今度は、べそかかないでプレゼントしてくれたね」
からかうようによしよしと俺の頭を撫でる。俺は照れを隠しきれず、耳まで真っ赤になっていることが容易に想像できた。
「ほ、ほら、さっさと行くぞ。きっとみんながお待ちかねだ」
「うん!」
俺は倒れていた玻雀を背負い、真愛とともに『湧くや』を出る。
俺たちの姿を確認した町の人々は、よりいっそうの大きな歓声を上げて俺たちを迎えてくれた。




