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御台所清水の水涼さんっ!  作者: 水郷 美六
決戦、堕神 編
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31/33

想いの強さは大いなる力、なのです♪ 2

 ……



 おかしい、熱くない。



「ただ闇雲にぶつかればよいというわけではないと言うたであろう、馬鹿者が」



 この声は、まさか――。


 おそるおそる目を開けると、俺たちは厚い水の壁でできた球体に包まれており、その壁が黒炎を遮っていた。


 黒炎の勢いが収まっていくと、俺たちの目の前に現れたのは、小さくて長い黒髪の女の子、一心だった。



「一心!」

「お望みどおり、神が助けに来てやったぞ」



 一心はそのまま玻雀と対峙する。玻雀は悔しそうに体を震わせている。



「ガアァ! マタ邪魔者ダ、ドイツモコイツモ……邪魔バカリダ!」



 玻雀が叫び出し、再び黒炎を放つ。同時に一心が両手を合わせ、激しい水流を玻雀に向かって放った。それぞれの炎と水が龍を象り、ぶつかり合う。ハリウッド映画さながらの激しい光景に俺は動くことができなかった。


 衝撃が辺りを震動させる。すると俺たちの側に立っていた柱が限界を迎えたのか、根元から折れ、こちらに向かって倒れ込んできた。


 一心は手を離せない、今度こそダメか――!


 そう思ったとき、炎を纏い勢い良く倒れてきた柱は、その姿勢を中途半端な状態で止めた。


 俺たちの前に黒い装束を纏った大柄な男が現れ、片手で柱を押さえていた。



「流道のおっさん!」

「ふん、なんとか間に合ったようだな、一途」



 流道が「ふん!」と気合いを込めて柱を弾き飛ばすと、柱は纏っていた炎を失いながら、誰もいない壁側へと吹き飛んでいく。さすがは力の神様、造作もなくやってのけている。


 それと同時に玻雀と一心の放った黒龍と水龍が、力の均衡が保てずにその場で爆発し、霧散した。


 わなわなと震える玻雀、もとい浮柾。怒りが沸々とたぎってきているのが見て取れる。



「雑魚ガァッ! ミンナ燃エロ、燃エ尽キロオオォォッッ!」



 玻雀が怒りに任せて叫ぶ。背中から黒炎が一気に吹き出し、飛び散った炎の一つひとつが槍のような形に姿を変える。



「怒りだけが溢れ、力を暴走させておる。やはり、あやつにはもう自我がないようじゃの」

「そんな悠長なこと言ってる場合か! 結構マズいだろ、この状況!」



 俺が声を上げると同時に、無数の炎の槍が俺たちに向かって雨のように降り注ぐ。およそ確認できる前方すべての角度から降り注ぐそれは、俺たちに回避の隙を与えない。


 万事休すかと思ったその瞬間、俺たちの後方から放たれた水流が、すべての炎の槍を流れるように受け流して防いでいく。同時に、水で出来た斬撃が十字を切って玻雀へと向かって放たれる。玻雀は咄嗟に炎の壁を作りだし、その斬撃から身を守った。


 気がつくと俺たちの両脇には、アフロヘアーで煌びやかな衣装を身に纏ったレイクソルト・太郎と、白く涼しげな顔で太刀を手にした澪琴が立っていた。



「ヘイ一途、なかなかデンジャーな場面で感動の再会だね。ミュージックが欲しいところだ」

「貴様の今日の身なりは見られたものではないが……思いの外良い顔をしている。それに免じて許してやろう」

「太郎さん、澪琴!」



 一心、流道、レイクソルト・太郎、澪琴。四人の神様が俺たちの前で玻雀と対峙する。そして四人の中央に煌めく水柱が立つと、最後に水涼さんが姿を現した。


 水涼さんはこちらを向いて、にっこりと微笑んだ。



「遅くなって申し訳ございません。皆さんの招集、何とか間に合ったみたいですね」

「水涼さん、みんな……」



 その笑顔に、みんなの背中に、心が自然と安堵を覚える。力強い味方がこの窮地に駆けつけてくれた。多分、水涼さんがみんなをここへ集めてくれたのだろう。



「猪のように飛び出しおって。またタライを頭に落とされたいのか」



 一心が笑いながら言った。しかしその目はずっと玻雀を捉えている。



「すまない、俺も気がついたらもう走ってて……」

「あやつの面倒はお主一人でも、儂ら神だけでもどうにもできん。お主と儂らが揃って初めて、あやつを静めることができる。準備はよいな、水涼。儂らが食い止める」

「はい」



 玻雀が再び叫びだし、黒炎を繰り出す。水涼さんを除く四人の神様がそれに向かって応戦する。


 俺は立ち上がって水涼さんと向き合う、両手を胸の前に寄せ、念じるように目を閉じる。



「堕神を打ち祓う力は五つの『加護』によってもたらされます。心を司る一心さんの『加護』、力を司る流道さんの『加護』流れを司る太郎さんの『加護』、美を司る澪琴さんの『加護』。そして四つの『加護』を得たとき、最後に与えられる祝福の『加護』。それが私から一途さんに与える破魔の力を成す『加護』です。受け取ってください、一途さん」



 ポンポン、と水涼さんの手の間に小さな水球が出来上がっていく。そして水涼さんと俺の体が共鳴するかのように白く輝いていく。



「な、なんだ……体が」



 水球が水涼さんの手元から、俺の胸元にゆらゆらと移動する。そしてそれは吸い込まれるように俺の体へと入っていく。すると体の奥底から何か沸き上がるような力を感じた。その力は右手に集まり、白い炎を宿して輝いている。



「すごい、まるで神様の力をそのまま得たような……」

「はい、今一途さんの体にはまさしく神が宿っているも同じです。その力で彼を、彼らを救ってください」

「応!」



 俺は大きく頷き、水涼さんとともに玻雀へと向き直る。それに気づいた一心たちは玻雀の攻撃を打ち払い、戦いの手を止めてこちらに集る。


 玻雀もこちらの動きを察知して、最終攻撃の態勢を取る。体中から吹き出る黒炎を一カ所に集め始めた。その黒炎は丸い形を成して徐々に大きくなり、巨大な球体となる。



「よいか、勝機は一度きりじゃ。迷うでないぞ、一途」

「思い切りぶちかましてやれ! 俺との鍛錬の成果を見せてみろ!」

「最高のゴーを見せるのは今さ、サポート準備はオーケーだよ」

「彼の者の力に屈するなど決して許さんぞ、美しくないからな」

「一途さん、やってやりましょー!」



 俺は全員の声に応えるように、頷いた。そして玻雀に向かって駆け出す。


 玻雀は目の前に作った巨大な黒炎球から、今までで最も大きい黒龍を放つ。後ろから放たれた五人の水龍が俺を乗せて後押しする。


 俺は白く燃える右手を強く握り、黒龍へと突き出す。



「おおおぉぉぉっっ!」



 ぶつかり合うとともに強い衝撃が辺りを揺るがす。


 押し返してくる黒龍の力が凄まじい。しかし、こちらの力が黒龍のそれを上回り、やがて力負けした黒龍は激しく霧散した。


 俺の体はそのまま一瞬で、玻雀の間合いへと入り込む。



「玻雀! 目ぇ覚ませええぇぇっっ!」



 俺の拳が玻雀の胸板を捕らえる。そのままねじ込むように、白く燃える拳を振り抜いた。



「ガアァッ――!」



 吹っ飛ぶ玻雀。体は後方の床に倒れ込むが、浮柾と思われる黒炎は、俺の右手の白い炎が包むようにして宙へと引き剥がした。



「水涼、今じゃ!」

「はい!」



 すかさず水涼さんが宙に浮いた黒炎を自らの水球で包み込む。念じていくごとにそれは小さくなり、やがて黒い炎が消し去られたその形は、眼帯をした男の侍の姿へと変わっていく。



「……俺は、堕神となっていたのか」



 浮柾が自分の姿を見返して呟く。一心が一歩、前に出る。



「左様じゃ。お主の心の弱さが、お主を堕神へと変えた。さりとて、お主だけの責にあらず。信仰の薄れゆく時代、それもまた抗えぬ流れよの」



 確かに、一心の言うことはもっともだ。俺自身もまた無神論者、かつて神様が崇められ、人々とともに歩んでいた時代を無意識にとはいえ否定してきたのだ。それが神様だったこの人に、こんな哀しい想いを抱かせる一因となったのかもしれない。



「皆の者、迷惑を掛けた。面目ない」

「気にするでない、儂ら神にも責はある。安心して召されよ、浮柾」



 浮柾はふっと笑みを浮かべ、「かたじけない」と頭を下げると光の一片へと姿を変えて、天へと召されていった。


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