7 思い出
『夕日がさ、あそこに沈むと真っ暗になるだろう?暗いと怖いよね、だからまた明日遊ぼう』
『ゆーりすは、もう寝んねするの?』
『うーん、まだ寝ないよ。本を読む』
『まっくらだとよめないよ』
『これがあるから大丈夫!』
⋯⋯⋯朝だ。
何度も夢に見るユーリスとの楽しかった日々。
幼い頃の思い出は、守られなかった約束と一緒に、私の心の奥底に閉じ込めるつもりだったけど、夢ではこうやって度々出て来る。
夢を止める方法が知りたいな。
今の私の切実な願いだ。
始めて意識した魔道具は、ユーリスに見せられたライトだった。
私の家にも色々とあったけど、その時の私はそれらが魔導具だと認識していなかったから、教えられたライトに暫く夢中になったのを覚えている。
ベッドサイドに置かれたライトに少し触れると、オレンジ色の光が暗かった部屋を照らす。
今は何時かな?
時計は壁にかけられていて、ここからは少し死角になってしまっていた。
布団の中で少しだけ体をずらして、もう一度壁を見ると漸くぼんやりと時計が見えた。
針は2時を指している。
まだ朝でもなかった。
どうしてこんな時間に起きちゃったかな。
もう一度眠ろうか?
だけどまたユーリスの夢を見そうで、目を瞑るのを躊躇ってしまった。
ベッドサイドのライトを見ながら、未練がましくユーリスの夢を見たくないと思っているのに、それに反して私はユーリスとの思い出を頭に浮かべていた。
◇◇◇
ユーリスが療養の為に、ハスビス子爵領にやってきたのは、私が4歳の時だ。正直出会いの時の会話はあまり覚えていない。
父が陛下から賜ったノース男爵家の薬草園は、元々ハスビス子爵領の一部だ。
父は平民で薬師だった。ハスビス子爵家に雇われていて、そこの薬草園の責任者として働いていた。
アメルースという珍しい薬草は、魔力枯渇病という病の特効薬の原料として大陸では知られていたけれど、原産国以外で栽培するのは難しく、どの国でも根付くことがなかった。
それを成功させたのが父なのだ。
その功績によりノース男爵を賜り、ハスビス子爵の温情で、薬草園を王領地として献上してくれた為その土地を賜った。
それを販売していたのが、父の従兄のギカンの家だった。
アメルースは摘んだあとは、長持ちしないため、薬にしてからしか各地に出荷が出来ない。それを逆手に取る様に、ギカンの家の商会は、その頃からハスビス領より遠方地では高値を付けていたようだ。
だからなのか、ハスビス子爵領に直接療養に来る人が多かった。子爵領で療養すれば薬代があまりかからなくて済むからだ。そのうちの一人がユーリスだった。
魔力枯渇病は、主に成人した人が罹ることが多い病で、子供の体から大人になる時に、魔力の質が変化する人が稀にいるらしく、その過程で大人の体に魔力の質が合わなくなって、外に魔力を無意識に放出していき、段々と枯渇するのだという。
本にはそのように書かれていたけれど、私は罹ったことがないから、実際にはよくわからない。
それでも、成人前の大人の人たちが多く療養に来る中で、子供のユーリスが来たのは、ハスビス子爵領でも珍しいことだった。
始めて顔を合わせたのは、ユーリスが療養していたハスビス子爵家の部屋の窓越しだった。
子爵家に療養に来た人達のために、父が屋敷に薬を届けに行くのに付いて行った時だった。
いつものように父を待つ間、子爵家の庭を散歩している時だった。生気のない顔で部屋の中に座っているユーリスを見かけた。
その後、会話をしたらしいけれど、それはあまり覚えていない。
アメルースを使う特効薬は効き目抜群の為、毎日服用して2ヶ月もすれば魔力が安定してくるのだが、ユーリスは子供だからなのか、なかなか治癒には至らなかった。
ユーリスの魔力が安定したのは、1年後の事だった。
病が治って以降も彼の家の事情とやらで、ユーリスはハスビス子爵領に留まっていた。
その間、私達はほぼ毎日一緒に過ごした。
私より4歳も年上のユーリスは、療養しながら子供のおもりをしている気分だっただろう。
でもユーリスと過ごす日々は、私にとっては、毎日が楽しくてキラキラと光る眩しい日々だった。
手紙を書くと言っていたのも。
また直ぐに会いに来ると言っていたのも。
大人になったら此処に戻ってくると言ったのも。
収穫祭に一緒に出かけようと言ったのも。
ユーリスが言ったそのすべての約束は、一つも守ってもらえなかった。
約束のゲンマンは儚く切れた。
布団から右手を出して小指を眺める。
「約束なんてしなければ良かった。約束したから期待してしまったんだもん」
あの時のユーリスの様に小指にそっと唇を付けた。
私の涙が溢れて止まらなくなった。




