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淡い恋は弾けて消えた  作者: maruko
夢に向かって

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62 ただいま

『ほぅらマリベル、ここの土が寂しそうでしょう?だからね、ここに⋯』


お母様の優しい声が聞こえます。声とともに不思議な色の光がお母様を包みます。安心できる温かな光です。

でもその優しい声に反応して私が頷いても、『そうね、おかあさま』と言っても、お母様には私の仕草や声が、見えても聞こえてもいないようです。それがとても寂しくて、私の瞳から涙が溢れます。同時に口が開き、私の意図に反して勝手に泣き声が漏れました。


『あぁ泣かないで、マリベル。よしよしよし』


お母様が私の体を揺らします。

アレッ?私は赤子になっているようです。いつの間にかお母様の胸に抱かれて揺らされていました。

私が自分のことを赤子だと認識した途端、突然周りが真っ暗になりました。

どうやら私は無意識に目を瞑ったようです。次に目を開けた時、目の前にいたのはユーリスでした。


『ねぇマリベル、夕焼けが綺麗だろう?』


小首を傾げてこちらを見るユーリスの言葉に、うん!と言いかけた時、私の目の前のユーリスが消えました。

いえ消えたというよりは突然大きく大人の人になったのです。

その一瞬の変化に私はびっくりしました。

さっきまで2人で丘で手を繋ぎ、空の色の変化を眺めていたのに、ユーリスの体の大きさの変化を眺めるとは思っていませんでした。

でも、突然大人になったユーリスの変化を私は直ぐに受け入れられました。

目の前の人が急に大人になったのに、私は怖くはなかったのです。

なんだか不思議な気がしました。


『マリベル、私は薬師としてアメルースを必要とする沢山の人に薬を届けたいんだよ。だからね、いつかマリベルに手伝ってもらおうと思うんだ』

『おとうさま、まかせて!わたしおかあさまみたいにおとうさまをてつだってあげる』

『『ありがとうマリベル』』

『あれっ?おとうさま、いまおかあさまのこえもきこえたよ』


大人のユーリスは、お父様に少しも似ていないのに、彼を見るとお父様が思い出されました。お父様の声とお母様の声が重なって聞こえた事が不思議に思えて、目の前の大人なユーリスに尋ねます。


「ユーリスがお父様とお母様を思い出させてくれたの?」

「⋯⋯⋯マリベル⋯⋯様?」

「どうして、様なんて付けるの?いつもみたいに、マリベルって⋯⋯ユーリス⋯⋯⋯刺された怪我は?」


ユーリスが私と距離を置いたように、様を付け足した時、私の頭の中に沢山の記憶が顕れました。

夢じゃなかったの?

ずっと幸せな夢を見ていたと思っていたけれど、そのどれもが私の体に実感として伝わります。

私の目の前で刺されたはずのユーリスが、私の顔を不安そうに覗き込んでいます。


だけど私はずっと子供のユーリスと手を繋いで薬草園に通っていました。

偶に私も土の魔力を注いだり、水魔法で水を撒いたり⋯。

子供のユーリスは夢だったのかな?


目の前にいる、不安そうな目をした大人のユーリスを、私はもう一度見つめます。


これは、夢じゃないわよね?

ユーリス、生きてるよね?


ユーリスの顔に手を伸ばした私は、彼の頬をなぞります。ユーリスの頬を伝う涙が私の指を濡らします。もう片方の手を彼の背中に回して、背中を確かめます。彼の背にあったヌルリとした感触はありません。


ユーリスの涙が温かい!

ユーリスの背中は血に塗れていない!

ユーリスが生きてる!


「ユーリス、生きてるよね!?」


再会してから無表情だったユーリスは、涙まみれの顔で私に何度も頷いたあと、少し微笑みました。そしてギュッと私を抱きしめました。

それから彼は、私の耳元に唇を近付けて囁くような優しい声で


「おかえり、マリベル」


と言ってくれました。




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