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淡い恋は弾けて消えた  作者: maruko
夢に向かって

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60 決意

※ユーリス視点

ヒヤリと頬が冷たく感じて目を開けた。

ゆっくりではなくパチリと目を開けた事で、僕の目に真っ先に映ったのは、マリベルの侍女と見覚えのある使用人。

たしかゼスと言ったか?


「ここは?」


尋ねたつもりが、声が掠れているようで言葉にならなかった。だが、マリベルの侍女は意図に気付いてくれたようだ。

あぁ、もうマリベルではなく、マリベル様だった。

その事に気付いて、まだ呼びかけていないはずのマリベル様を僕の目が探した。


「ここは、ハスビス子爵邸です。ユーリス、あなたはどこまで覚えていますか?」


声が掠れていた僕に、マリベル様の侍女が水の入ったコップを手渡してくれながら尋ねる。寝ていた僕の背中に手を回して、飲みやすいように少し起こしてくれたのはゼスだった。少し咽ながら水を飲み干した僕は、彼女に逆に尋ねた。彼女の質問の意味がよく分からなかったからだ。


「どこまで?覚えているとは?」


尋ねながらも自分の記憶を辿る。そこで、ある可能性に辿り着き僕は血の気が引いた。


「マリベルは!いやマリベル様はご無事か?」


あたりを見回しながら尋ねたが、急にキョロキョロと頭を振ったため、クラリと目が回って、自分の不甲斐なさに情けなくなるほど怒りを覚える。そんな僕に背中に手を回していたゼスが、その手で労るように僕の背を撫でた。


「マリベル様は大丈夫です。今の所」


侍女はそう言って悲しそうな顔をする。

とても大丈夫そうには思えなかった。


「マリベル様はどこですか?」


僕の質問に侍女が視線を向けた。その先に見えるのはベッドだった。

僕は体を起こしてそちらを凝視した。

誰かがベッドに横たわって寝ているのが見えた。それがマリベルで、先程聞いた侍女の「大丈夫」を思い出し胸を撫で下ろした。


「ユーリス、もう一度聞きます。何があったか覚えていますか?」


侍女の同じ質問に頷いて、僕は自分に起こった事を振り返った。


僕とマリベル様は今日、ハスビス子爵領にあるマリベル様のご両親のお墓参りに、この侍女と御者をしてくれたゼスと4人でやって来た。


薬草園にはマリベル様の母上の魔力は残っていなかったようで、僕が薬草園を出た後、アメルースは枯れ果てたと聞いた。残念に思いながら、お墓参りへと向かった。

そこで、もうそのお墓の下には、マリベル様のご両親が眠っていなかった事を知らされて驚いた。僕の方も墓石を傷つけた事を詫た。傷付けるつもりはなく刻んだつもりだったけど、素人の僕には難しかったと言うと、少し困ったようにマリベル様は微笑んでいた。

それはそうだろう。

マリベル様は死んでいなかったのだから。複雑な気持ちになるのも当たり前だった。

それから、僕らは思い出の丘に向かった。

とりとめのない会話をしながら、そのまま時間を稼いで、僕は夕日が沈む様をマリベル様と見ようと思っていた。

その時、頭の真っ白な男が僕の目の前に立った。

はじめは、その頭の白さから老人と思ったけれど、僕の前に突然立ち塞がったことと、その顔の皺の寄り方から、僕の父上よりも若いのだと感じた。


「お前はどうして生きてるいるんだ!何故お前は無事なんだ!男爵家は連座じゃないのか?さてはお前のせいなのか!そうだろう!お前が密告したんだろう!」


いきなり訳のわからないことを叫んだかと思ったら、キラリと光るナイフが目に入った。僕は咄嗟にマリベル様を抱き寄せるようにして、男に背を向けたが、その時背中に痛みが走った。

それから意識がなくなったのだと思う。

目覚めたらここだったのだ。


僕が頭の中で、起こった事を整理していると侍女がその後の事を教えてくれた。

僕はやはり背中を刺されたらしいのだが、刺した男はゼスがすぐに取り押さえていた。それから彼女は直ぐに子爵家に報せに行くようにとゼスに指示を出したそうだ。

男は、前ハスビス子爵で今は子爵家の地下で取調べ中らしい。


「マリベル様は?お怪我はしていないのですよね」

「大丈夫です。あなたが庇ってくださったので、マリベル様のお体には傷一つ付いておりません」

「良かった⋯」


マリベル様のお役に立てた。

それが僕にはとても嬉しくて誇らしい。

マリベル様が起きられたら、今度こそ夕日を見に行かなくては、そう決意した僕に侍女がとんでもない話を始めた。


「起きられたマリベル様の精神がどのような状態かは、マリベル様が起きなくては定かではありません」

「⋯⋯どういう事ですか?」

「ユーリス、あなたはマリベル様がどのような状態でも、支えていけると誓えますか?」

「誓えます」

「本当に?」

「はい!」


僕に迷いがあるはずがない。

マリベル様がどのような状態かは起きなければ分からないらしいが、たとえどのようになってもマリベル様を支える事は、マリベル様が死んだと聞かされた絶望感や長い間離れ離れで会うことが叶わなかった月日を思えば、僕にとっては瑣末な事だ。

僕は決意の瞳を侍女とゼスに向けた。





いつも読んで頂きありがとうございます。

数日間、予告無しで更新せずに申し訳ありませんでした。

本日、数話更新する予定です。

よろしくお願いします( ᴗ͈ˬᴗ͈)

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