【閑話】ヨリエールの回想
※お話の中に残酷な描写があります
子供の頃から、家族に虐げられていた私はその日、虫の息でゴミ溜めに転がっていました。
私の父と呼ぶのも悍ましい人は貴族だったらしく、母はその貴族のお屋敷で下働きをしていたそうです。そんな母をその悍ましい男は面白半分で襲い、屋敷の一室で後に生まれた私と共に軟禁しました。母亡き後、私はその軟禁部屋にそのままいたのですが、ある日魔力量が膨大であることをその男に知られました。
はじめは優しくされ煽てられて、魔法を使わされました。だけどそのうち私は、自分の魔法が悪用されている事に気付いたのです。
私の母はどんなに劣悪な環境でも、絶対に悪い事をしてはいけないと私にずっと言っていましたから、悪い事をしていると気付いたときに魔法を使う事を拒みました。
それからです。
煽てても無駄だとわかったその男は、私から食事を取り上げました。合わせて暴力も受けて、私は空腹に耐えられず仕方なく魔法を使ったりもしました。
だけど、私の魔法によって男の言いなりにならざるを得ない人達は、私に怒りを向けてきます。
その恨みの篭った視線に耐えられなくなった私は、再び力を使うのを拒みます。
そして、また食事を取り上げられる。
そんな繰り返しの日々の中、私の魔法により騙された人が、私の目の前で首をかっ切り亡くなりました。
血飛沫は私の体中に飛び、目の前が真っ赤に染まりました。
絶望した私は、死ぬのを覚悟して力を使う事を拒否しました。
激しい折檻は連日続き、どれ位経過したか分からない。結局元々やせ細り弱っていた私は、虫の息で裏町のゴミ捨て場のある場所に捨てられたのです。
それを見つけて保護してくれたのが、アスベルお嬢様でした。
お嬢様の側で2年ほど過ごして、侍女の真似事もさせてもらっていたある日、アスベル様は、ご自身の友人でお兄様であるカーセル様の婚約者ミラーシュ様も交えて、私に不思議な話をしました。
アスベル様は“てんせいしゃ”という方で、何度も生死を繰り返していると仰ったのです。
初めて聞かされた時は、半信半疑でした。
俄には信じ難いお話は、いくら大恩あるお嬢様の話でも荒唐無稽過ぎたのです。
だけどお嬢様は、それまでもよく未来の事を言い当てていましたので、本当に半々という感じでした。
あまり信じていない様子の私に、お嬢様はそれからも未来を言い当てます。何度も繰り返すうちにパターンがわかっていると仰いました。
そんな事が繰り返されれば、如何に荒唐無稽であろうが、信じるしかありません。
私がお嬢様の不思議な話を信じたと確信したお嬢様は、更なる秘密を打ち明けてくれました。
お嬢様が私を助けてくれたあの日に“ぜんせのきおく”というものが蘇って、将来私に助けてもらう為に、打算で私を助けてくれたのだと告白されました。
何ということでしょう。
お嬢様は私があの場所に捨てられている事を、知っていてその場所に向かったのだそうです。
お嬢様は仰いました。
何度繰り返しても“きょうせいりょく”という魔法が、将来お嬢様がお産みになるお子様の精神を破壊するらしいのです。
それを阻止するために、お嬢様は何度も時を戻っていると仰っいました。
不思議な事に、生まれ変わるその都度、違う方と結婚されても、必ず生まれるのは“マリベル”様なのだとか。
違う名を付けようと思っても、いつの間にかそうなるのだそうです。
それが“きょうせいりょく”という魔法なのだそうです。
未来を変えられない“きょうせいりょく”の魔法はいくつかあるそうです。
1つ目が、王太子様との婚約。
2つ目が、冤罪からの国外追放。
3つ目が、生まれる娘の名前
4つ目が、死んだお嬢様の精霊への変化
5つ目が、マリベル様の発狂
この世界は、お嬢様が“にほん”という所で生きていた頃の物語の中の話で、主役はミラーシュ様が将来お産みになるロイド様の婚約者だそうです。
死んで精霊になったお嬢様が、発狂して亡くなったお嬢様の子供マリベル様と、彼女の面影を重ねて、悪役令嬢と呼ばれるようになる彼女が幸せになる手助けをする物語なのだそうです。
ですが、お嬢様はどうしてもご自身の娘を助けたくて、何度も何度も時を戻したそうです。
精霊の力で出来るのは時を戻すだけで、その後は同じことの繰り返し、生まれ変わっても死ぬまでは、お嬢様は精霊の力を使えないそうなのです。どうしても“きょうせいりょく”が邪魔をするのだと号泣していました。
私は理由はどうあれ、お嬢様に助けてもらった身です。
お嬢様が私に助けを求めるならば、何でもする所存でした。
「お嬢様、私は何をすればいいのですか?」
「ごめんね、ヨリエール。あなたの生き方を私は縛ってしまう。だけど⋯私はマリベルを救いたいの!面影なんて冗談じゃない!主人公なんてどうでもいいのよ!私は私の娘を救いたいの!」
そうして、私は教会へと向かいました。
教会で過ごす日々の中で、私は将来不思議な力を得るようになるそうです。
チャンスは一度。
マリベル様が発狂する寸前で、私の力を使う事がお嬢様の私へのお願いでした。
その為に、私は“きょうせいりょく”の魔法に掛からないように用心してきたのです。
亡くなって精霊になったお嬢様。
今も歯痒い気持ちでマリベル様のお側にいらっしゃるのでしょう?
見ててくださいませ!
私の持てる力を存分に発揮して、マリベル様をお救いします。
その時はもうすぐです。




