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淡い恋は弾けて消えた  作者: maruko
夢に向かって

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58 ハスビス子爵の罪と罰

ハスビス子爵領にある両親の墓石がある場所に、実はもう両親はいない。

私の事をアーサー様から知らされたお祖父様が、私を保護したあと、オルデイック王国には秘密裏に、お父様とお母様の棺を、密かに帝国のウェスガル伯爵領に移したのだ。


あの日ユーリスが私を誘ってくれた時、私は心の中で実はとても驚いていた。

ハスビス子爵領にある、私の両親のお墓の事など娘である私以外に、思う人がいるはずないと思っていた。それが他でもない、ユーリスが忘れていないという事を知って胸がとても熱くなった。


ユーリスはヘレンとの婚姻前から、あの薬草園に移りずっとこのお墓をお参りしてくれていたと打ち明けてくれた。


「マリベルが亡くなったと聞いてから父上に調べてもらったんだ。それに、マリベルの母上のお墓には2人で参ったりしただろう?3人とも同じ場所だと知らされて、すぐにわかったよ。それからは神の元に居る3人の安寧を願うつもりで⋯⋯僕の独りよがりだ」


どうして両親のお墓の場所を知っているのか尋ねた私に、ユーリスはそう言っていた。


ハスビス子爵領の一画にある、旧ノーラ男爵家所有の薬草園。今は王家の所有になったけれど、そこは変わらず薬草園のままだった。お願いして見学させてもらったけれど、そこにはもうアメルースは1株も残っていなかった。

王家所有になった為、そこで働いている薬師は王家から派遣された薬師になっていた。以前働いていた薬師と引き継ぎを行ったとき聞かされたのは、ユーリスが立ち去ったあとで、アメルースは全て枯れてしまったのだと報告されたそうだ。


中で働く薬師も管理する者も代わってしまった。嘗てお父様とお母様が尽力した薬草園。そこにはもう2人の面影は欠片も残されていなかった。

ユセフ様に頼んで、オルデイック王に許可を得たとき、直ぐにアメルースの育っていた土を、一掬い譲ってもらっていて良かったと、目の前に広がる薬草園を見てそう思った。

私の記憶とあまりにも代わってしまった薬草園は、もう思い出にも浸れない物だった。


薬草園を出て、もう少し先に進むと広い芝生を敷き詰めたような野原の端に、両親の墓石があった。

よく見ると2人の名が刻まれているのだが、その横に浅い傷があった。


私がこの領地にいた頃には、この傷がなかったので不思議に思ってその傷をなぞっていると、ユーリスが罰の悪そうな顔をして、この傷は自分が付けたのだと教えてくれた。


「ユーリスが傷をつけたの?」

「あぁ、僕はマリベルが亡くなって、ここに一緒に納められたのだと聞かされたんだ。それなのに君の名前は誰かの魔力で書かれていただけだった」


おそらくギカンは、本当に死んでいない私の名を刻むのが無駄だと思ったのだろう。共同の家族の墓石に名を刻むのは、簡単な手続きでは行えないのだ。王家に死亡届けを出すほうが、罪悪感を感じないなら遥かに楽だ。書類を提出するだけだから。

だけど、平民のお墓のように名を刻まないものなら楽だが、貴族の墓石はそうはいかない。医師と教会の遺体確認が必須になる。

医師の方はお金で丸め込めても、教会の方ははっきり言って無理だ。お金を使うのなら相当な額になる。そんな無理をあのギカンがするわけがない。

貴族的には死んだ事にして届けを出して、その後教会には平民になったと手続きした方が簡単なのだ。

そのからくりを、今墓石で気付いた私は、ギガンに対して改めて怒りが湧いた。


誰に見せる為に書かれたのかは知らないけれど、ユーリスが来たときには私の名の文字はかなり薄れていたのだと言った。


「魔力で書かれていたから直ぐには消えなくても、それでも僕が見たときはすっかり薄れていたから。それがマリベルが神の元に行ったあとも消えてしまうように感じて、それがとても寂しいと思ったんだ。上から無理に掘ったんだけど、あまり上手くいかなかった。だから傷みたいになって⋯ごめん。本当は死んでなかったのだから、これを見たら嫌な思いをするとは思ったんだけど。この事もちゃんと謝りたくて⋯」


本当に死んだわけではなかった私だったけど、そのユーリスの謝罪は私には不要だった。

それよりも、私が消えてしまうことが寂しいと思ったというユーリスの言葉が嬉しく思えた。


それから私はもうここには両親はいない事をユーリスに伝えた。

ここに墓石を残したのは、墓を荒らした事をオルデイック王国の教会に知られないためだったという事も伝えた。


「今回、残すのはハスビス子爵に対する罰なの」

「罰?」


私の告白にユーリスが目を見張る。


「お父様と前子爵が亡くなったあの事故が、ギカンと子爵の手によって行われたという証拠が不十分だったの。だからその事で罪に問えなかった。ギカンには私の戸籍の事で罰を与えられたけど、その事も子爵は自分も騙されたのだと主張したの」

「マリベルの父上は、殺されたのか?」


ユーリスの声は震えていて、その震えがあまりのことに恐ろしいと思う震えなのか、怒りからなのかは私には分からなかった。

ただ、ユーリスは、ギカンがそんな罪まで犯していたとは思っていなかった事は分かった。


「あの馬車の事故は仕組まれたものだった事が濃厚だけど、色んな可能性を考えて辿っても証拠には至らなかったの。疑わしいだけで、その罪は確定しなかった。だけど、オルデイック王国の王太子様が、別の方から子爵に罰を与えてくれたの」

「別の方向?」

「えぇ、それはこじつけが多いのだけど」


ハスビス子爵に問うた罪は、お母様の事だった。

お母様がこの国に来たときは、国外追放されたスーダン王国の罪人だった。

勿論今は冤罪が確定していてお母様の名誉は既に回復しているけれど、その頃はそうではなかった。

お母様が国外追放された罪人だと、前子爵は分かった時点で王家に報告しなければならない義務があったのだ。

それを怠った罪を王太子は子爵に問うた。


前子爵の罪でも、その罰も一族郎党を問える罪だ。

ヘレンが連座を免れたのは、その罰を与えたのが私(帝国)だったからだ。


彼への罰は、当時子供だったことを王太子は考慮した事にした。その時には生まれてもいなかった子爵の息子に爵位を譲り、誰も眠っていないこの墓石の墓守になることで修道院処置と変わらない罰を与えたのだ。

勿論この下に柩がないことは、オルデイック王国の王家も知らない事だけれども。


私がユーリスに秘密を告げると、後ろに下がって立ち竦んでいたユーリスが私の隣に来た。


その時、少し離れた所でこの野原の草むしりをする老人が目に入る。

その手つきが草むしりに慣れていないのはすぐに分かって、彼がハスビス子爵だと分かった。今はもう子爵ではないけれど。

そんな歳ではないのに、見た目は既に老人に見える程、彼の髪は真っ白だった。


手つきは慣れていなくても、草を乱暴に毟ることなく、粛々と仕事をしているように見える。


彼の気持ちは分からないけれど、大いに反省してほしいと、私は心から思った。




本日はmarukoの都合で、更新は1話になります。

よろしくお願いします。


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