56 再び
アメルースの種を蒔いてから、数日過ぎた。
私は、アメルースの区画を6等分して各薬師達に自身の魔力で育てるように指示を出していた。
その中でもユーリスは複数持っているが、水の魔力を持つ薬師が他にいた為、彼には“光”を注いで貰うことをお願いしていた。
それぞれで育てるアメルースは、一見変わりはないように見えるけれど、薬にすると色が変化するのだ。
それは帝国で伯父様が実証している為、彼等に見せるつもりでいる。ただ帝国にも“光”を持つ薬師はいなかった為、ユーリスの区画は伯父様やロイドも興味津々である。
どんな魔力を注いでもアメルースに関しては、色は変われど効果はそれほど変わらなかった。強いて言うなら“緑”の魔力で育てたアメルースは、他の薬草との混ざりが大変良いという事くらいだった。
毎朝土の魔法をかける必要が無くなった私だったけど、ユーリスとの日課は変わらず続いている。
ヘレンの子供の事があった時、お互いの境遇などは沢山話す事ができた。
ユーリスの表情筋は相変わらず仕事はしていないけれど、それでも時折、唇の端が若干持ち上がるようになっている気がする。
2人でしゃがんで薬草を見つめる。
今はそれが主にアメルースになっているけれど、眺める事は変わらない。
話すわけでもないけれど、私はその日課が止められなかった。
ユーリスの隣にいられるその時間は、静かで温かくて、心にそよ風が吹いているように凪ぐ。
それがとても心地よくて、私は手放したくなかった。
「一緒に⋯」
「えっ?」
「いや、いい」
「⋯⋯何?」
いつものように並んでアメルースを眺めている時、ユーリスが何かを言いかけて止める。
今日はユーリスが変だ。
話しかけることは滅多にないのに、今日は言いかけて止めるのが3回目だ。
何か言いたいことがあるのはわかっているけれど、私には検討がつかない。
それが少し寂しく感じた。
幼い頃は、隣にいるだけで、何故かユーリスが考えていることが分かった。
ユーリスが突然走り出しても、居なくなっても、何処に行きたいのか、何処に隠れているのか、何となくだけど分かっていた。
ユーリスがハスビス子爵領を出たあと、全く連絡がつかなくなってから、私はお父様によくお願いした。
『ユーリスの近くまで連れて行ってくれたら、私はきっと見つけられるから、お父様連れて行って!』
今考えたら、そんな事あるわけないのに、何故かその頃の私には自信があった。
お父様が苦笑いで誤魔化すのをいつも怒って、しつこくお強請りしていたものだ。
「ふふっ」
「⋯⋯何?」
「ううん、何でもない」
「⋯⋯⋯そう」
えー!
もっと強く聞いて欲しい。
私のお強請りに困った顔をするお父様を思い出して、思わず笑ってしまった。ユーリスが突然笑った私に聞いてくれたけど、ユーリスも言いかけて止めるのを繰り返していたから、同じように返してみたのに、彼はそれ以上聞いてくれなくて、話したい私は歯痒く思っていた。
「やっぱり、何?気になる」
私の肩に手を掛けて、ユーリスが2度目を聞いてくれた。
意趣返しなら3度目を待つのだけど、私は辛抱強くなかった。
同じことをしたらもうユーリスは聞いてくれないような気がしたのだ。それは何だか嫌だ。
「子供の頃の事を思い出したの。お父様の困った顔を思い出したら、何だか可笑しくて」
私の言葉にユーリスが微笑んだ。
それはいつもの唇の端を少し上げる微笑みではなくて、ニッコリと笑顔を向けてくれたのだ。
そして次の瞬間、顔が引き締まったと思ったらまた微笑む。
不思議な百面相を見ていたら、ユーリスが4度目に言いたいことを言ってくれた。
それがとても嬉しくて私は直ぐに了承した。
「今度休みを合わせて、マリベルのご両親のお墓に一緒に行かないか?」
「⋯うん!」
幼い頃のような私の了承の返事に、ユーリスはまた微笑んで私に小指を差し出した。
約束のゲンマン。
その小指に私の小指を絡める。
今度こそ約束が守られますように⋯。
心からの祈りを込めて私は指を切った。




