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淡い恋は弾けて消えた  作者: maruko
デトリス領

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52 ヘレンの子供 ②

ユーリスが苦しそうな顔をした時、私の肩がトントンと優しく叩かれた。

「えっ?」と思って振り返ると、ヨリエールが軽く頭を下げる。

今まで私達の会話に口を挟むことなく見守ってくれていたのに、どうしたのかな?


「マリベル様、申し訳ありません。マーガレット様がいらっしゃったようです」


風の魔法でヨリエールが遮断してくれていた事で、私とユーリスは外音も聞こえなくなっていたけれど、扉がノックされていたようで、廊下にマーガレット様が待っているとヨリエールは教えてくれた。

隣の領地にお茶会に行ったはずのマーガレット様は、執事からの連絡で直ぐに引き返して来てくれたようだ。

その報告を聞いた私はユーリスを見つめる。


「マーガレット様に入ってもらうね」

「はい⋯」


マーガレット様の事を聞いた途端、ユーリスが他人行儀のユーリスに戻ってしまった。

少し残念だったけれど、仕方がないことなのかもしれない。


マーガレット様は、外出着のまま部屋に入ってきた。少し乱れた裾が、慌てて帰ってきてくれことを物語っている。


「マーガレット様、ご迷惑をお掛けします」

「申し訳ありません」

「マリベルが謝る必要はないわ。ユーリスも⋯こうなるかもしれないって言っていたでしょう?」


私達の謝罪に、マーガレット様は大きく息を吸ってから溜息を吐いてそう言った。


「それで、二人は話せたの?ユーリス、リチャードの事はどこまで話したのかしら?」


ヘレンの子供はリチャードっていうんだ。

子供の名前をユーリスが言わなかったから、何だか急にヘレンの子供が現実味を帯びてきた。


「いえ、まだリチャードの事は、乳母が連れてきたって事しか話せてません」

「そう、ではここからは私が話しましょう。それに関してはあなたは被害者だし」

「⋯⋯被害者?」


突然、被害者という言葉が飛び出して来て、私は驚いてしまった。


「マリベル、ユーリスが2人を連れてきたのは、成り行きと同情からなの」

「同情?」

「えぇ、私はユーリスから2人の話を聞かされてそう思ったわ。だから一緒に住むのは反対したの。今2人は領内の家に住まわせているわ」


それから、マーガレット様が、その成り行きを教えてくれた。


リチャードの乳母は、まだギカンが生きている時に、ヘレンに雇用されたようで、ユーリスはよく知らなかったのだが、生まれたばかりの子供を亡くしたばかりの人だった。

そして乳母は、リチャードがユーリスの本当の父であると思い、子供を助けてもらえるようにユーリスの所に連れてきていた。

ユーリスがリチャードは自分の子供ではないと乳母にも言ったけれど、とりあえずリチャードの怪我は医師に見せなければならない。

ユーリスがそう言うと、乳母がユーリスに現実を教えてくれたそうだ。


「現実って?」


私はユーリスの方を見て呟くと、ユーリスが乳母から聞いたそれを教えてくれた。


「あのまま、行政にリチャードを預けると怪我の治療もせず、そのまま放置されるそうなんだ」

「えっ!どうして?えっ?それって⋯」


子供が怪我をして血塗れなのに、放置なんてされたら⋯そのまま亡くなってしまう。


「マリベル、それは本当の事よ。リチャードはその時生まれて2ヶ月だったの。彼は生まれたときから犯罪者の孫なのよ。この国は、罰は一人で負うものではなく、家族も連座というのが主流なの。だから、ヘレンが許されたのは特殊なケースなのよ」


マーガレット様が教えてくれたのは、オルデイック王国の罪に対しての罰の在り方だった。

大罪を犯した場合、本来なら直系の家族も同じような罰が与えられる。

だからギカンが死罪と確定した時、その妻子も対象になるのだそうだ。


「帝国が⋯いえ、私が罰を与える権利を得たからですね」


私は、ギカンとその妻を裁ければそれでよかった。

ヘレンが当時子供だったのは本当の事だし、帝国ではそれが考慮される。貴族であれば家族は修道院で5年ほど過ごさせてから、社会復帰するのが普通だ。私の意向を聞いて、魔法大臣のユセフ様がそのようにしたのだと分かった。

だからリチャードもヘレンとともにいれば、それで済む話だったのに、乳母が連れ出してしまったから、話がややこしくなった様だ。


「あの時点で、乳母もユーリスも私も帝国がギカンを裁いたとは知らなかったから、リチャードがオルデイック王国の裁きの元にあるなら、罪人の子に治療は施さないの。そのまま放置はありえないとは思ったけれど、そういう場合も本当にあるようなの。でも先程、王都から来た騎士に聞いたのだけど、罰を与える権利はマリベルが持っていたの?」


そうだった。

王家との話し合いの時、私の身元や当時の状況の証明のために、マーガレット様とアーサー様にも同行してもらっていたけれど、ギカンの罰の話し合いの時は、2人とヨリエールは席を外してもらっていたのだ。

だからマーガレット様は、私がギカンを裁く権利を貰ったことは知らないのだ。王家からもその点については、一部にしか通達しないとも言われていた。


「リチャードは僕の子供ではないけれど、ヘレンが捨てた事で、何だか父上に放置されてしまった子供の頃の僕に重ねてしまったんだ。それに⋯怪我をしても必死に生きようとしているリチャードを見たら、王家に届けるのは憚られて⋯」


マーガレット様は、ユーリスが独身だと聞いていたのに、突然子供と女性を連れてきたことに驚いたけれど、事情を聞いて包帯だらけのリチャードを見たら、マーガレット様も放り出せなくなったそうだ。

そうだ、マーガレット様はそういう人だ。

だって女神様なのだから。


「マリベルには話すべきだったわね。そうすればこんな大事にならなかったわ」


困った顔をするマーガレット様だけど、きっと私の気持ちを慮ってくれたのだろう。子供に罪はないとは言うけれど、リチャードはギカンの孫なのだ。


事情は分かったけれど、ではどうして王都の騎士団は動いたのかしら?


私の疑問には、マーガレット様が答えてくれた。




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