5 デトリス領
ルーベンス医師と別れて5日後、私は強くて優しいルルカに護られながら、漸く旅の目的地デトリス領に辿り着いた。
父の友人アーサー様を訪ねる前に、ルルカの奨めで一旦宿に入る事にした。
「マリベル様は、変に大人びていらっしゃいますから、ルーベンス様があれほど心配していた意味が分かりましたよ」
旅の間中、ルルカはよく私にそう言った。アーサー様に先触れの手紙を書いている私に、今もそう言っている。
大人びている⋯その言葉は薬草園で一緒に働いていた人達からも、何度も言われた言葉だった。
自分ではそう思っていなかったけれど、ギカンの娘で私と同じ年のヘレンを思い浮かべると、そうなのかもしれないと思う。
それはきっと環境によるものかもしれない。だって父が生きている時は、年相応の幼い娘だったように思うから。それに、ただ大人びているだけで、中身はやっぱりまだまだ世間知らずなのだと、私よりも年下なのに一家の大黒柱だと胸を張っていたゼスを思い浮かべるとそう思う。
だけど私も父が亡くなってから、実質一人で生きてきた。それが大人びていると言われる所以なのかもしれない。
どうしてそうなったのか説明もなく、よくわからないままに、馬車事故で負った傷の為、一人入院していた私が、退院して家に帰ると、父の葬儀も爵位の交代も既に終わっていて、屋敷にあった私の部屋は薬師小屋に移動されていた。父の死もギカンの手配で病院に迎えに来た人に唐突に聞かされた。
父の死を悲しむ間もなくただただ呆然とする私は、薬師小屋で過ごすしかなかった。毎月ギカンの妻エミレアから一定額を渡されて、それで生活しろと言われた。
お金の価値もよくわからない。算術も習ったことのない7歳の私は、一緒に働く薬師達に平民の暮らしを習って何とかやって来た。昔から本は好きだったから、薬師達にもらった本を擦り切れるまで読んだ。
そのおかげで、魔法は使えるようになったけれど、残念なことに魔力量の少ない私は、生活魔法しか使えない。この国では珍しく属性は複数持ち合わせているけれど、父の様な緑魔法の適性はなかった。
私がノース男爵家を継げないのはそのせいだと薬師達に言われたけれど、正直希少なアメルースを育てるのに緑魔法は関係ない。だけどその事を思い出したのは、父が亡くなって2年も過ぎた頃だ。
だから、私はその事は秘密にした。
どうしてそうしたのか⋯。
私だって悔しかったからだ。
その事を思い出すまでは、流されるままに過ごしたけれど、思い出した私は一念発起した。
いつかここを出て、遠い地でアメルースを育てよう。
ユーリスのように、魔力枯渇病に苦しむ人達を助ける為に。私から父の思い出を全て奪ったギカンに一矢報いる為に。
そう心に誓った日から、私は周りから大人びていると言われる子供になった。




