46 幸せな日課
その日もいつものように土魔法で私の魔力を土に与えていた。
沢山のアメルースを育てる為に、その範囲は広い。その日はあまり土の声が私には届き難くて、土がお腹いっぱいになるまでに、少し時間を要した。
「フゥー」
立ち上がり、額の汗を手のひらで拭う。
漸く土が満足してくれたようでよかった。
「ごめんねー、私の注意力が散漫してるから、あなた達の声が聴こえづらいのかなー」
土に語りながら、畝を眺めて回っていく。
暫くは散歩がてら、自分の魔力の回復に努める。薬草園に風がサラサラと流れるから、汗も乾いてきて気持ちいい。
「土のこの煌めき、カーセル様の魔力と同じですね。懐かしいです」
私の後ろから、ヨリエールの呟きが聞こえる。カーセルとは私の伯父様の名だ。今ヨリエールはスーデン王国にいた時代を思い出しているのだなと、その記憶がとても羨ましく感じる。伯父様の魔法を見る事は今も出来るけど、お母様の魔力を見る事はもう出来ない。
私で伯父さまを思い浮かべられるなら、お母様と同じ性質の魔力を持つロイドの魔法ならそれが可能かしら?
そんな事を思い浮かべながらの散歩中だった。
少し先に、ユーリスがしゃがんでいるのが目に入った。彼の黒髪もこの国では珍しい色だ。だから直ぐに分かる。
その時、土を見ていたユーリスが、微笑んだように見えた。
私はそっと近付くとユーリスの呟きが聞こえた。
「生まれてきてくれてありがとう」
よく見ると、彼の視線の先には土から出た芽があった。
この薬草園に来た薬師達は、広い園を区間に分けて、各々が薬草を育て始めている。この区間はユーリスの担当する場所だ。
「芽が出たんですね」
無意識に私は言葉が出た。
私の声かけに振り向いたユーリスが驚いているのが、その表情で見て取れたけど、一番驚いているのは私だ。
どうやって話しかけたらいいのか分からずに、手を拱いて夜も寝られないほどだったのに、私の意志と関係なくスルリと言葉は自然に紡がれた。
「⋯⋯はい、何よりです。このまま育ってくれたらいいと思います」
「そうですね」
ユーリスは驚いた表情から直ぐにいつもの顔に戻ったけれど、その後の言葉には優しさが滲んでいた。少なくとも私はそう感じられた。
別に誘われたわけでも促された訳でもなかったのに、私はユーリスの隣にしゃがみこんで、小さく芽生えたルッシリの芽を見つめた。
その時間がとても心地よくて、昔々その隣が世界で一番キラキラと輝いていた事を思い出せる。
ユーリスの温かい熱が私に染み込むほどに二人の距離は近い。
(このまま時間が止まったらいいのに)
殆ど会話もない朝の時間は、その後の日課になって行った。




