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淡い恋は弾けて消えた  作者: maruko
デトリス領

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45 話したいけど話せない

薬草園で働く下働きは、元々デトリス侯爵領の領民達で、彼らの仕事は主に、住み込みで働く薬師達の世話係とその手伝いをしてもらっている。

薬師は、オルデイック王国内の登録された薬師の中から、マーガレット様が厳選して声を掛けたり、噂を聞きつけて希望してデトリス領に来てくれた人達だった。

当然薬師の人には住むところが必要だった。

貴重なアメルースを栽培する為、薬草園の周りは何者も入れないように高い塀で囲んでいる。大きな門にはデトリス家の騎士達を常に配備しているほど、厳戒態勢を整えていた。

薬師達の住む建物は、薬草園の直ぐ近くに建てられた。

家族と共に来てくれた人もいたため、中はかなり広く作られていた。その中には私用の執務室も作られていたけれど、秘匿性のある書類もあるから、基本的には薬草園の為の執務はデトリス家の方で行い、薬草園の方の執務室は専ら私の休憩用に使うことにしていた。


その日も朝早くから土魔法をかけに来ていた私だったけど、前日寝付けなくて睡眠時間が足らなかった上に、魔法を使ったのでかなり疲れていた。私の魔力量は、数年前よりは多くなったとはいえ、まだまだ少なくて、土魔法を使うと疲れが体に顕著に現れる。

執務室に置かれていたソファに沈み、ウトウトしているとノックの音がした。

今朝、一緒にこちらに来たマインが、扉を開けて誰の来訪かを確かめる声が聞こえた。微睡んでいた私は、起きなきゃ!と体を起こそうと思った事までは覚えていたけれど、どうやらそのまま寝入ってしまっていたらしい。

起きたのは、陽も高くなった頃だった。


「大丈夫ですか?」

ソファで寝ていた私には、常備していた薄めのブランケットが掛けられていた。

「ごめんなさい、すっかり寝てしまったのね」

「お疲れなんですよ!マリベル様、昔からあんまり魔力の量は多くないって仰ってたのに⋯。早朝からは体の負担が大きいのではないですか?」

「うーん、でもまだみんなに話せていないから、極力使う所を見せたくないの。それに今日は偶々ちょっと寝付けなかったから⋯。多分今日だけよ」

心配してくれるマインに私は少し強がってみせた。まだ話せない土魔法のことは、侍女のマイン達は知っているけれど、薬草園で働く人達には教えていない。だからまだみんなが働き出す前の早朝時間を使っているのだけど、私は前日と言わず、ここ数日考えすぎて殆ど寝付けないのだ。

だけど、これ以上マイン達に心配かけまいと強がった。

体を起こすとタイミングよく、マインがお茶をテーブルに置いてくれた。

スッと鼻に抜けるミントの香りが、寝起きでまだまだ覚醒しない私の思考を覚ましてくれて、少し頭がスッキリしてきた。


そういえば、誰かが訪ねてきたんじゃなかったかしら?


「マイン、何方か来たと思ったんだけど」

「あぁユーリス様がいらっしゃって、何だかお話があるようでしたけど⋯。マリベル様が眠ってらしたので、一旦お帰り願いました。今は園内で作業されていると思います」


マインの言葉に体がピクリと反応する。

ユーリスが訪ねて来た。

何の話かな?


私はそれから気もそぞろになって、いつもならこのままデトリス家に帰るところだけど、そのまま薬草園に向かう事にした。


「ユーリス様⋯」

ユーリスは、数日前に薬草の種を植えた場所に水やりをしている所だった。

「マリベル⋯⋯様」

ユーリスは、感情をなくした表情でこちらを振り返り軽く頭を下げた。

彼は再会してからというもの、ずっとその表情のままだ。何処かに感情を落としてきたかのようで、そんなにもヘレンを愛していたのかと思うと胸にキリリと痛みが走る。

(昔のように笑って欲しい)

幼い頃はどちらかというと感情を顕にする事のほうが多かったユーリス。あの頃のように笑ってほしいと思うけれど、婚家や妻があんな事になったなら、笑える人はいないだろうなとも思う。

毎晩ベッドに入ると、そのことばかりを考えて私は寝付けなくなっているのだ。

「話があったのではないですか?」

私が訪ねてきた理由を聞くと、ユーリスはスボンをギュッと握って俯いた。

なかなか口を開かないユーリスを私は根気強く待った。

ここで遮ってしまうと彼とはもう忌憚無く話すことが出来ないと思ったからだ。

だけど、私のそんな思いは届かなかった。

「大して重要な話ではありませんでした。朝のお忙しい時間に訪ねて申しわけありませんでした」

再び頭を下げたユーリスは、話す気がなくなった様だった。

私の方もそれ以上は聞くこともできなくなったし、話す言葉も見つからなかった。子供の頃はあんなに尽きることなくお喋りが弾んでいたのに。

その後、土に水が浸透したのを確かめるために、しゃがみこんだユーリスの旋毛をぼんやり眺めたあと、私は踵を返してその場を立ち去った。




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