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淡い恋は弾けて消えた  作者: maruko
デトリス領

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44 気になる人

5人目の薬師の顔合わせでは、私は冷静ではいられなかった。

マーガレット様は、とても慎重なお方だ。人材を集める時に、すべての人の身上調査を行って採用したはず。ノーラ男爵家に関わりのあったユーリスを採用したのは、面接の時の彼のアメルースへの思いに打たれたからだとマーガレット様は顔合わせのあと教えてくれた。


そのユーリス(彼)は、今黙々とアメルース以外の薬草を丁寧に植えている。


まだ土に魔法を掛け始めたばかりなので、あと1ヶ月はアメルースの種を撒くことは出来ない。

薬師の人達が、仕事を始める1時間ほど前に私は土魔法を掛けている。だからまだ彼等は私の魔法の事を知らない。


伯父様は、薬草園にする為の敷地はデトリス領の広大な空き地を選んだ。

それだけ広ければ端と端で2種類の魔法をかけられる。東側にはロイドに来てもらって黒の土魔法を掛けてもらう予定だ。

私は毎朝西側の方に白の土魔法を掛けている。


◇◇◇


お祖父様達が祖国スーデン王国を見限って、移住先に選んだエーリヤ帝国は、元は大陸に存在した小国や中堅国の集合体だ。自国を守る為に同盟や統合を繰り返して来た国が、いつしか大陸屈指の大国へと成り立った国だった。国が集まれば情報も集まる。だからなのだろうか、帝国は魔法や魔力に関しての知識が、他の追随を許さない程に詳しく、隣国であるにも関わらず、オルデイック王国など歯牙にも掛けないほど目覚ましく進化していた。魔力や魔法の論文も帝国図書館には所狭しと並べられ、それは私が研究したかった魔力枯渇病を調べる上でも、とても参考になった。その数ある内の1冊、嘗て帝国医師だったシンラー医師の論文に私は光を見出した。


『この大陸に住む人は、すべての人が魔力を持っている。魔力判定で魔力無しと言われたとしても、体で魔力を作る機能がないわけではない。そしてその場所には、生命維持のための魔力が必ずあるのだ。

その生命維持の為の魔力は、滅多に外には出てこない。だけど何らかの事情、例えば瀕死になった場合とかで出てくると考えられる』


論文の一説には、きっかけになった事柄も書いてあった。魔力無しと言われていた自身の娘が、シンラー医師の目の前で事故にあった。彼女は即死だった、少なくともシンラー医師はそう思った。血まみれの娘の体を抱きしめ涙にくれて絶望した時、魔力のないはずの娘の体から、いきなり少量の魔力が放出されて瀕死の娘が一瞬目を開けた。残念ながらそれは一瞬の事で直ぐに息を引き取ったけれど、それがきっかけでシンラー医師は魔力の研究を始めたと論文にはあった。そして彼の生涯をかけた研究によりすべての人に潜在的な魔力は存在すると判明した。

その事はそれ以降の魔力判定に大いに役立つ事となった。


それを読んだ私は、過去の魔力枯渇病患者のカルテを各国から取り寄せた。

伯父様からも聞かされたから、魔力枯渇病患者には少なくとも2つに分かれる原因と症状がある事がわかっている。

だからこそ白と黒の土の魔力で育てたアメルースが必要なのだ。

そして私が数々の症例から導き出した答えは、魔力枯渇病の原因の一つは“潜在的な魔力”が体から溢れだしたことによる症状だと分かった。

その論文を私は医師ではないので、薬師の参考資料として発表している。

私の白の土魔法で育てたアメルースが有効なのが、潜在的な魔力が放出された事による魔力枯渇病で、黒の土魔法で育てたアメルースが有効なのがそれ以外の原因で発症した魔力枯渇病という線引きで突き止めた。だけどこれをそのまま発表するわけにはいかなかった。それは土魔法がどのような魔法かを秘匿しなければならない為、公にできないからだ。

だから、原因の一つが分かったとしか発表できなかった。未発表にすることも考えたけど、原因が2つ以上ある病だと言う事を医師達に分かってもらうには、発表せざるを得なかったのだ。


伯父様は既にスーデン王国で、アメルースを使った薬を何種類も作っていた。

アメルースに掛け合わせる薬草を変える事によって、原因の違う魔力枯渇病に対応していたのだ。

お母様もその事は知っていたと教えてくれた。

だけどオルデイック王国では、その情報は伝わっていなかった為、お父様もアメルースを使った薬は1種類しか作っていなかった。私はそう思っていた。だけど先日、お父様の薬草園で栽培されていた物を、当時働いていた薬師で今は私の元で働いてくれているゼッターに聞いた。

その育てられた薬草を使えば2種類のアメルースを使った薬が出来る事が分かった。きっとお母様の助言があって育てていたのかもしれない。だけどお父様は、医師にはきっと言えなかったのだろう。言えばお母様や私が持つ土の魔力について話さなければいけないからだ。

それを知った時、もしかしたらユーリスが一年で完治できたのは、お父様がお母様の助言を思い出して薬を別に作り変えたからかもしれない。ゼッターから栽培していた薬草を教えてもらった時にそう思った。


アメルースの種を撒くときに、私は土魔法の話を薬師の方達に詳らかにする。そして魔力枯渇病の薬の違いも話す事になる。

それを聞いたユーリスは、その事をどう思うかな?


ユーリスとは、顔合わせの時に契約以外の会話をしていない。それ以降も何も話せていない。


ユーリスはどうして薬師になったのかな?

どうしてここに働きに来たの?

わたしが生きていたと知ってどう思ったかな?

あの約束を⋯覚えてる?


一目見られればいいだなんて、先日までは思っていたはずの私だったけど、今はユーリスに対して、気になる事が多すぎて彼の顔すらも直視出来ないでいた。




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