41 一目だけでも
前半マリベル視点
◇◇◇からユーリス視点
王家との話し合いの末、私の戸籍の回復の後、当初の予定通り、爵位と薬草園を王家へと返上の手続きを無事に終える事が出来て漸く安堵する事ができた。
ギカン達を、馬車事故の件で裁く事はできなかったけれど、私を死んだ事にした件で、私の望む通りの処罰を与えることが出来たので、少しは溜飲がおりたかもしれない。ただ今更何をしてもお父様は還ってきてはくれない。
虚しさも感じるけれど、そればかりに囚われるわけにはいかない。私はこれからも生きていかなければならないし、今この時にも魔力枯渇病に苦しんでいる人がいるのだ。
お父様が生涯をかけた薬草園を、私はその意志毎、復活させなければならないのだ。
その場所はやっぱり、お父様の親友であるアーサー様が居るデトリス領しかない。
数日間は、王都の医師を集めて“魔力枯渇病”の原因の一つである魔力量についての講義を行って、私はアーサー様とデトリス領へと向かった。
ただ、遠目だけでもユーリスを見たいという気持ちが湧いてきた私は、アーサー様に頼んで、ユーリスが居るはずのケニスト公爵領に立ち寄る事をお願いしていた。
◇◇◇
オルデイック王宮内の大会議室で、マリベルの講義が行われると聞いた。
参加資格は医師のみと言われたけれど、僕は父上の伝手を使って、大会議室の控室からそっと彼女の姿を見る許可をもらった。
別れた時は6歳だったマリベル。
大人になったマリベルに、違和感を持つかもしれないと思っていた僕の心配は杞憂に終わった。僕の頭と心の中では、死んだと聞かされてからも、年々マリベルは想像上で育っていた。
その想像通りのマリベルが、黒板を使って必死に医師達に説明している。
「魔力枯渇病は、成人してから罹る病と言われていましたが、そうではありません。原因の一つに潜在的な魔力量の多さが関係します」
マリベルの顔を一目見たくて、こっそり参加していた僕だったが、その講義の内容も僕の心を動かした。
僕が魔力枯渇病になってケニスト公爵家は色んな物を失った。資産も母上も、そして家族の絆も。
その全てが僕が病になったからだと、僕のせいなんだと心の中ではそれが常にあった。
父上にも母上にも、そして義母となったスザンヌにも、本当に申し訳ないと思っていた。
原因不明だった為に、あの頃僕らにはアメルースを処方してもらう以外為すすべがなかった。
それをマリベルが帝国で研究していた事が、僕は忘れていないようで、不謹慎でも嬉しく思えた。
マリベルの真剣な瞳は、今会議室内の医師達に向けられている。
少しでいい、少しでいいんだ。
こちらを何気なく見て欲しい。
僕は離婚したとはいえ、ヘレンと結婚していた。マリベルを死んだことにしてノーラ男爵家を乗っ取った彼等に加担したも同然なんだ。
だって、結婚してからの僕の生活は彼らが賄っていたんだから。
そんな僕が何食わぬ顔でマリベルの前になんて出られない。
一目見るだけでいい。
その願いが叶っただけで僕には充分だ。
死んだと思っていたマリベルが、生きていてくれただけで、それだけでいいんだ。
何年ぶりだろう。
マリベルが死んだと聞かされて絶望したあの時に、枯れてしまった涙が頬を伝うのを感じた。




