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淡い恋は弾けて消えた  作者: maruko
オルデイック王国

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37/50

35 僕の罪

本日から数話ユーリス視点になります。

オルデイック王国の章では、視点の変化が多いです。

前書きにて誰の視点なのか示しますのでよろしくお願いします。

「あなた!また土いじりなんかしていたんですか!袖が汚れています。どうしてそんなことばかり⋯」

薬草園から帰るといつものように僕は妻に小言を言われる。

「はぁ。ヘレン、私は薬師だ。草や土を見るのは当たり前だろう。何度言えば⋯」

「あなたは、商人です!」

僕がいつものように反論すると、妻もいつものように、僕の言葉を遮る。結婚当初からの諍いは、3年間全く様子を変えずに繰り返されている。

僕は、寄宿学校を卒業して直ぐに、当時婚約者だったヘレン・ノーラの本来の実家になる、ハスビス子爵領にある薬草園へと赴いた。

卒業までに薬師の資格は所得していたので、赴いたその日から薬草園で働き始めたのだが、薬草園では問題が山積みだった。

薬草園ではメインで育てなければならない植物の育ちが悪くなっていて、働く薬師達のヤル気も損なわれていた。


昔僕が幼い頃こちらで療養していた時は、広大な薬草園で栽培されていたのは、主にアメルースという薬草だった。この薬草は原産国以外では育ちにくく、根付かない事で有名な薬草だったが、オルデイック王国では、20年ほど前にラスティという薬師がその繁殖に成功した。

それによって、オルデイック王国内では“魔力枯渇病”に罹った者達が、大勢救われたのだ。国王陛下がそのことで薬師ラスティにノーラ男爵を授けた。領地を新たに与えようとしたが、ラスティはその薬草園で充分だと陛下に進言して、当時のハスビス子爵の好意により、彼は国から薬草園だけを賜った。

だから、ノーラ男爵の地位と薬草園は切っても切り離せないものだ。

その事は、現ノーラ男爵であるヘレンの父ギカンも理解していて、僕が薬師になる事にも反対しなかった。寧ろどうにか昔のようにアメルースの繁殖を若(・)夫(・)婦(・)で頼むと願っていた。

将来義父になる男爵の気持ちを汲む事も勿論だったが、僕は昔アメルースに救われた事がある。そしてこちらに赴いた当時18歳の頃は、異母弟であるカーリスも僕と同じ魔力枯渇病に罹っていて、完治にまでは至っていなかった。

ハスビス子爵家では、当時の僕のように、魔力枯渇病で療養に来ていた人を受け入れる事はしていなかったから、薬草園の近くにあるノーラ男爵家の屋敷に、僕は異母弟と移り住むことにしたのだ。

僕の病は1年で完治したのに、カーリスは2年経っても完治せず、僕と男爵家で住むようになって1年掛かってようやく完治するに至った。実に3年間アメルースを飲み続けたのだ。

成人している者なら2ヶ月ほどで完治するのに、カーリスはその数十倍の時間が掛かった。当然僕の実家のケニスト公爵家はその費用に財政を圧迫されたのだが、ノーラ男爵の好意で何とか没落は免れていた。

カーリスも今は元気になって、だいぶ遅れたが、学園にも通っている。

そんな経緯もあり、僕とヘレンが薬草園の世話をするのは、男爵家では当たり前でもあるのに、彼女はまるで理解してくれない。

何度も何度も、義父も交えて話しても、彼女の考えは変わらず、しかも、結婚してからも殆どこちらには居らず、しょっちゅう王都に戻るのだ。だから結婚前も結婚後も、彼女とはすれ違ってばかりだった。


薬草園ではアメルース以外の薬草は普通に育っている為、薬草園を閉園するほどではないのだが、栽培が成功した当時100株以上あったアメルースは、今はその半分も育っていない。しかも育ちが年々小さくなっていて、薬効は変わらないけれど数が圧倒的に足らなかった。

ぼくは日々その事に頭を悩ませていた。


「ねぇあなた。そろそろ本当に商人の勉強をしてください」

今日はいつになく妻が食い下がる。

妻ヘレンは今臨月で王都までの馬車に体が耐えられない為、2ヶ月前からこちらに住んでいる。

だからなのか情緒が不安定になってしまっているのかもしれない。

そんな妻を労らなければならないのだが、僕の中の懸念が邪魔をして、親身になることができない。それではいけないのだが、どうしても頭から離れないのだ。

「もう、この話は止めよう。義父(ちちうえ)も私が商人になるのは反対しているじゃないか。それよりも少し横になりなさい。朝から腹がきついと言っていたではないか」

僕はヘレンを寝室までエスコートして、ベッドに寝かせてから、自室へと戻った。


「はぁ」

溜息しか出ない。

ヘレンは王都にばかりいてこちらに居る僕とは1年のうち、合算しても1ヶ月ほどしか一緒にはいない。それも彼女が薬草園に緑魔法をかけに来るときだけだ。

それも加味して医者の見解では、今臨月のはずだが、薬草園で働く女性薬師達の間で、彼女のお腹は臨月に見えないと、僕に隠れて噂になっている。たまたまその噂話を耳にしてしまってから、僕の中では疑心が生まれている。

ただ、彼女が本当に浮気をしていたのだとしても、僕はヘレンに対して、あまり怒りも沸かない。

感情は、マリベルが死んだと聞かされた時に、既になくなっているからだ。

それに男爵家の跡取りはヘレンだ。僕の子種ではなくても、生まれてくる子はヘレンの子だから継承に何ら問題はない。


部屋から出てまた薬草園に行く。薬草園の片隅で薄く色付く花を3本ほど摘んで、僕はいつもの場所へ向かった。


ハスビス領の端にあるその場所は、薬草園からは比較的近い。

一般よりも小さな墓に花を手向けて祈る。

家族は皆一緒に埋葬されたらしい。

墓石には3人の名が掘ってある。

「マリベル、今日も元気で過ごしているかい?神の元は居心地がいいだろうか?僕がそちらに行くまで待っていてくれよ」

墓石を撫でる手が震える。

ヘレン(妻)には申し訳ないが、僕の時間はあの時から少しも進んでいない。


⋯⋯僕はマリベルをどうしても忘れられない。

それが僕の罪なのだろう。




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