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淡い恋は弾けて消えた  作者: maruko
研究者マリベル

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31 魔力の性質と病-そして夢

チチチ

いつもの目覚まし代わりの小鳥の声で目が覚める。

部屋のベランダに、毎朝水を飲みに来る鳥だ。私は目覚めてベッドから起き上がる。丁度その時、小鳥の羽ばたく音が聞こえる。

(行ってらっしゃい)

心の中で小鳥に声をかける。

今日も目覚めの良い朝だ。

ベッドから抜け出し、部屋にあるバスルームで洗顔用の器に魔法で水を溜める。

顔を洗って着替えた頃に、お祖父様が付けてくれた専属侍女のノックの音が聞こえた。


帝国に来て3年、私は18歳になった。

この国にもすっかり慣れた私は、先日ようやく薬師の資格を取る事ができた。

帝国では薬師の資格の取得は、薬師に1年以上弟子入りして推薦を貰わないと、試験さえ受けられない。

早く夢を叶えたい私は、学園を2年で飛び級制度を利用して卒業した。それからウェスガル家の邸内にある薬草園で、専属の薬師に学ばせて貰った。

伯父様の魔法の授業と並行していたので、かなり無理やりな詰め込み学習ではあったけど、この3年とても充実していた。

そしてその間に新たな夢もできた。というより、夢がより具体的になったと思う。それは伯父様に土の魔法の特性を聞かされたからだ。


お母様の兄である伯父様は、容姿はロケットの中のお母様とソックリだった。

お母様とお祖父様がソックリだと思ったけれど、それよりももっと似ていた。だからなのか、魔法の授業の時、偶にお母様に教えられているような錯覚に陥るときがあって、そんな時は何となく照れたり恥ずかしくなったりした。


ハーザー家(今はウェスガル家だけど)に代々伝わる土の魔力。これは別名“豊穣”の魔力と云われ、家の祖は古代聖女の直系なのだと説明を受けた。

そして、その土魔法も2種類存在する。

白と黒、魔力を土に流した時、光る色で判別できるという。

お母様とお祖父様とロイドは黒の土魔法、伯父様は白の土魔法。

そして私は、白だった。

初めての授業の時、私は約1年近く自分の魔力を流したプランターの土を伯父様に見せた。その土を手で触ったり、魔力を流した量や頻度を聞かれた。

それから、伯父様に土魔法は無闇矢鱈に土に流しても、土が吸収しないのだと流すコツを教わった。やはり独学で学んだ土魔法では、土があまり魔力を吸ってはくれていなかったみたい。

伯父様が「土が気持ちいいと思う適度を、土に聞いてあげるといいよ」と教えられた時は、土にも感情があったのだと驚かされた。

その過程で、私はアメルースと魔力枯渇病についても教えられた。

オルデイック王国では、主に大人の罹る病と思われていたけれど、幼い子供が罹ることは決して珍しいことではないそうだ。

では、なぜ子供のユーリスにはアメルースの効きが悪かったのか。それは子供と大人の体格が違うように、効くアメルースの性質が違うからだと教えられる。

大人と子供という事に限ってではないし、魔力枯渇病という病だけに限らず、土の魔力が流れる土壌で育てられた植物は、色の違いでその効き目に差が出たりするそうだ。

ただ土魔法で作った土壌に、育たない植物はないのだという。植物にとって土の魔力は最高の肥料ともいえる魔力だと聞かされた。

「肥料なの?」

「そうだよ。植物達は自分の足らない栄養を土の中から補っているんだ。その足らないものの全てを土魔法で作った土壌が代わりが出来るんだ。日光が足らなかったり、植物を痛めつける虫への耐性が足らなかったり、水が足らなかったり、植物を育てるためのそのどれもの代わりが、土魔法で補えるんだよ」

伯父様は、ご自分の両の手のひらを光に当てるように空に向けてから、指を組み土に祈る。すると、私達の立っていた場所の土に、白い光が恰も土から出るように現れて、そして再び土の中に収まっていった。

それからロイドにも別の場所で見せてもらったが、彼が伯父様と同じように祈ると、今度は少し暗めの金というか夕焼け色というか、なんとも言えない光が現れた。

2人の色の違いがあからさま過ぎて、土の魔力の違いは直ぐに理解ができた。

「魔力枯渇病に関しては、何故そうなるのかという原理が、未だ確立はされていないんだ。だから予防が出来ない」

「子供から大人に体が変化する時になるのではないんですか?」

私は、オルデイック王国でお医者様に聞かされた事を話すと、伯父様はうーんと首を撚った。

「それも、少し前から言われているけれど、正しいかどうかは分からない。ただ、分かっているのはアメルースが、魔力枯渇病に効くということだけだ。それもアメルースだけ煎じて飲めばいいと言うわけではないだろう?」

「はい」

「ルッシリ、シンルー、スーデル。所謂、一般的な風邪に効くとされる薬草に、アメルースを混ぜて煎じているよね。それが魔力枯渇病が魔力の風邪だと言われる所以だ。体内の魔力だけが風邪を引いたような感じだな。風邪の症状は人それぞれだから、薬が違って然るべきなんだ。鼻風邪に喉の炎症を抑える薬を飲んでも効き目が薄いのと同じだよ。体質にあった土魔法で育ったアメルースを飲まなければ、いつかは治るかもしれないけど、効きが悪いんだ」

伯父様の説明はとてもわかりやすく、私にも直ぐに理解ができた。それと魔力枯渇病が魔力の風邪だと言われていたのは初耳だった。それは、私が薬師ではなかったからだろうと思う。


お母様の土の魔力の性質は黒だった。

そしてあの薬草園ではきっと、大人の人によく効く効能のアメルースが育っていたのだろう。

だからユーリスには効き目が悪かったのか、と合点がいった。

奥の深い魔力枯渇病。

風邪ならばそれに罹らないように、普段からなるべく気をつけたりする。雨に体が濡れたら直ぐに拭いて体を温めたりする、そういう予防が、魔力枯渇病の原因が解明されず確立していないから出来ないのだと、伯父様は嘆いているのだ。


「伯父様、私魔力枯渇病を研究しようと思います。全部解明出来ればいいけれど、先達の方が頑張っても未だに解明できないことを、若輩の私が解き明かせるかは分かりません。でも1つでも2つでも、何かしら原因が分かれば、少しでも予防することも可能ですよね。それに合わせて私もアメルースも育てていきたいです」

私が土の魔力の性質を知っていれば、ユーリスはあんなに長く苦しまなくても良かったのだ。お母様ならきっと分かっていたのかもしれないけれど、ユーリスと出会った頃は、すでにお母様は亡くなっていた。

お母様から魔法を学びたかった。

その時、本当に心からそう思った。

ううん、魔法だけはなく、他にもいろんなことを教わりたかった。もっともっと生きていて欲しかった。お母様も、お父様も。


そして私の夢が、新たにもう一つ加わった。


今でも時折夢に出てくる、大事な人の苦しむ姿。

そんな人が一人でも減ってくれるように、私は研究者の道に進むことを決意したのだった。


そして、私は今日もいつものように充実するであろう1日をスタートさせる。


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