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淡い恋は弾けて消えた  作者: maruko
研究者マリベル

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【閑話】ヘレンの目論見②

「お父さん、お父さん!聞いて!」

外出から戻って直ぐに、お父さんの執務室に駆け込む。

「ヘレン!言葉!」

慌てていた私は、またもやお(・)父(・)様(・)に怒られた。

令嬢になってから、私とお(・)母(・)様(・)には家庭教師が付いて、貴族のあれやこれやを学んでいる。けれど、気をつけていないと直ぐに平民の頃の言葉遣いに戻ってしまっていた。

その間違いは私よりもお母様の方が多いけれど。

でも今は、そんなことよりも重大な事があった。

「ごめんなさい、お父様。それよりも聞いてほしいの」

「何だ?」

言葉遣いを直すと途端に優しい声をかけてくれる。お父様はなんだかんだ言っても私には甘いのだ。きっと私の願いを叶えてくれるはず。

「今日ね、とっても素敵な人に会ったの」

貴族になっても、ハスビス子爵領にある薬草園の近くの邸宅には住まず、王都で暮らしている私は、今日お母様と気晴らしに買い物に出かけた。それというのも、明日行きたくないけど、薬草園に行って魔法をかけることになっていたからだ。

その外出先で、今まで見た中で一番格好いい人に出会った。

「私、あの素敵な人と婚約したい!」

私の願いを伝えると、お父様は私の背後に視線を向けた。走ってお父様の執務室に向かった私を追いかけて、お母様がいたのだろう。後ろから声がした。

「ヘレン、止めたほうがいいんじゃない?そりゃああの人はとっても綺麗な顔立ちだったけど」

「どうして?」

「だって、あの子を知ってる人でしょう?」

「何だ?誰のことを言ってる」

お母様の言葉にお父様が訝しげに問いかける。

しょうがないから、マリベルに間違えられたことを言った。

あんな子に間違えられたのは屈辱だけど、あの子はもう貴族ではないし、死んでるし。今日あった人は絶対に貴族だと思うから、私をちゃんと知ればマリベルなんか、相手にするはずないわ。

「お父様、関係ないわよね。だってあの子って死んてるんでしょ」

「ヘレン、お前。滅多なことを言うな。誰かに聞かれたらどうするんだ」

「平気よ、ここにいるのは。3人だけじゃない」

壁際にお父様の執事がいるけど、使用人は家の中のことを喋っちゃいけないから関係ないわよね。

大きく溜息を吐いていたけどお父様もそれ以上の注意はしなかった。

それから1ヶ月後に、私はユーリス・ケニスト様と婚約した。

まさか私が公爵夫人になれるなんて!

そう喜んだのも束の間、ユーリス様は男爵家の婿になるらしい。

どうしてよ!

怒ってみたけれど、それはどうにもならなかった。

緑魔法を使える私が、男爵家を継ぐという前提で私達は貴族になったらしいのだ。

それでも公爵家との伝手が出来て、お父様はホクホク顔だった。どうやら、男爵になるきっかけだった薬草が、私の緑魔法を持ってしても、育ちが悪くてあまり収穫できないらしい。その代わりいくら高くしても買い手はいるようで、それはそれで良かったけれど、それも一時的で作れなくなったら他の商品を売り込まないといけなくて。でも公爵家との縁が出来れば、他の商品も販路を広げられるから、私とユーリス様の婚約はノーラ家にとってとても有益なんだとか。あまりよくわからないけど、まぁ私はユーリス様と婚約できたからそれでいいわ。

だけど、そんな日々が脆いものだと知ったのは、家庭教師から初めて習った貴族の継承の授業だった。

その日、私は夕食の時にお父様に聞いた。

「お父様、お父様はひょっとして男爵代理なの?」

私の言葉に、メイン料理の付け合せを口に運ぶところだったお父様の動きが止まった。

「何を言ってる、私は代理なんかじゃない。ちゃんと男爵だ」

「⋯⋯でも」

「何だ、何か聞いたのか?」

私が頷くと、食事のあとに執務室に来るように言われた。


「あのね、今日の授業で貴族の継承を習ったの。そしたら跡取りが成人するまで、親族が後見して代理に付くって。あの子って生きてるから」

「死んだと言っただろう」

「本当に死んでるの?でも生きてるじゃない」

「だから死んだ事にしたんだ」

「えっ!」

私はそれ以上言えなかった。それって乗っ取りだよね。喉まで出掛かった言葉は飲み込んだ。お父様は正しいと思った。あの子が生きていたら、私は平民に戻ってしまう。

そうよ、死んだ事にしたほうが良かったのよ。うちってお金持ちだし、あの子の家より家の方が大きかったもの。

私の方が貴族令嬢らしいもの。

「分かったわ、死んでいるものね。良かった」

それ以上、その話をしてはいけない。

私はそう思ったのに、その後ユーリス様からとんでもない話を聞かされて、私は窮地に陥った。


ユーリス様とマリベルが知り合いらしいというのは、はじめの出会いが間違えられたこともあって知っていた。でも2人の関係など、知る必要もないと思って私は聞いていなかった。知ったのはユーリス様との会話からだった。

私よりも4つ上のユーリス様との結婚は、私が学園を卒業してからだと決まっている。彼は、修道院のような寄宿学園で学んでいて、偶に外出許可をとってくれて、王都に私に会いに来てくれるのだ。王都の人通りを2人で歩くと、皆がユーリス様の格好良さに振り返るから、私はとても気分がいい。

だけど、そんなある日、2人でカフェに入ってお喋りしていたら、ユーリス様がご自分の卒業後について話しだした。

彼は幼い頃にハスビス子爵領に療養に来ていたらしくて、その時にマリベルとも知り合ったらしい。

「男爵の育ててくれた薬草のおかげで、私は命拾いしたんだ。その時に薬師の仕事に感銘を受けたんだ。縁あってヘレンと結婚することになったから、私は薬師を目指そうと思っている。ヘレンと結婚するまで、私はハスビス子爵領にある邸宅で過ごさせてもらうつもりだ」

その話を聞いた私は、手にしていたカップを危うく落とす所だった。

(だめよ、あそこにはマリベルがいる)

マリベルが生きていることが分かったら、私は平民になるからユーリス様と結婚できない。そんなのは許せるわけはない。

必死にユーリス様に薬草園に行くのを止めたけど、いつも優しくて何でも言うことを聞いてくれるユーリス様が、それだけは頷いてくれなかった。

不味いわ、本当に不味いことになった。


「殺す?」

その日の夜、一人の部屋であれこれ考えを巡らせていた私だったけど、思わず出た言葉に自分で寒気がした。

人を殺すなんてそれは無理だ。

でも私が何かするのではなくて⋯何処かで勝手に死んでくれたらいいのよね。

「追い出す?」

そう考えてから、それは無理だと思った。あの子行く宛ないんだったわ。

困った私はお母様に相談した。

すると、お母様がどうにかしてくれるって約束してくれたわ。あぁ良かった。

もしかしたらお母様があの子を殺しちゃうかもしれないけど、私の手が汚れないならどうでもいい。

暫くしてお母様から聞かされた。

「マリベルは、あそこを逃げ出したわよ」

「本当?」

「えぇ」

「お母様⋯まさか⋯」

「ち(・)ゃ(・)ん(・)と(・)逃げたのよ。勝手にね」

(ふうん)

「お母様、ありがとう!」

本当の事なんてどうでもいいわ。

ユーリス様が行く前に、あの子がいなくなったなら、それがどんな手段でも構わない。

私はホッとして、来年から通う事になる学園の事に思考を切り替えた。




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