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淡い恋は弾けて消えた  作者: maruko
研究者マリベル

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27 母の過去と父の友情

先程までオレンジ色の光が差していた部屋は、今はすっかり薄暗くなり、ライトを付けないといけなくなっていた。

私の思いついた言葉は、アーサー様にちゃんと届いたようで、先程までは肘に付けていた顎に、指の背を付けて思案しているようだ。薄暗くシンとした部屋のライトを付ける。

オレンジ色というのは変わらないのに、夕刻の空が彩る色とは違い、部屋のライトは物悲しい。そもそもがそんな色なのに、先程の私の言葉で尚更悲しく見えた。ううん、悲しいというより薄ら寒く感じる。

「何故殺さなかった⋯か」

ポツリとアーサー様がもう一度確認するように言葉を発した。怖くなって思わず言ってしまったが、自分で言っておきながら他者から聞くと何でもないことのように聞こえて不思議な感覚になる。

暫く考えていたアーサー様だったが、突然両手を耳の所まで上げた。

「降参!馬鹿の考えは俺にはわからん。アイツを捕縛できた時に聞こう!それよりも先ず、マリベルちゃんに話す事ことがある。そっちの方が大事だ。マリベルちゃんも一旦馬鹿の事は思い出すのも止めときな」

アーサー様の言葉で、私の震えは止まり、本当にギカンの事など考えるだけ無駄だと思えるから不思議。

アーサー様は不思議な人だ。

今朝会ったばかりなのに、私の心を軽くしていってくれる。

でも、その後に聞いたアーサー様の話は、全く軽いものではなかった。


「アスベル・ハーザー、それがマリベルちゃんのお母上アスベルさんの名前だ。ラスティから聞いたことはあるかい?」

ハーザー。

頭の中で復唱してみたけれど、聞き覚えはなくて、私は首を振った。

「そっか、まだ話す前だったんだな。そりゃあそうか、ラスティが死んだ時マリベルちゃんは7歳だったんだもんな。マリベルちゃん、アスベルさんの過去は包み隠さず聞きたい?それとも嫌な部分は聞きたくないかい?」

その言い方が、お母様の過去に耳障りの良くないものがあると言っているようなものだった。だけど私は真実を知りたい。自分が知らない間にお父様の葬儀も終わっていた。自分が死んだ事にされていた。これ以上知らない事は欲しくなかった。

「私は本当の事が知りたいです。もう子供ではないので、本当の事を教えてください」

私の言葉に、アーサー様は立ち上がり、私の頭を優しく撫でた。

「マリベルちゃんは、まだ子供だよ。急いで大人にならなくていい。でも本当の事はちゃんと話してあげる。子供だからとか大人だからとかではなく、俺はマリベルちゃんが聞くべき事だと思うからだ。それが君の希望だしね」

そうして話してくれたのは、お母様のとんでもない過去だった。

私のお母様が生まれたのは、オルデイック王国から西の方に一つ国を跨いだ国、スーデン王国だった。そしてその国のハーザー家は公爵家だったそうだ。

だったというのは、もうすでにハーザー家は一族でスーデン王国を出ていて、ハーザー公爵家事態が無くなっているからだった。

「アスベルさんは幼い頃からスーデン王国の王太子の婚約者だった。それが冤罪をかけられて婚約破棄され国外追放になったんだ」

「国外追放⋯」

国外追放と聞いて、私はようやく両親が籍を入れいなかった答えが分かった。お母様はこの国に籍を持たない異邦人だったのだ。

「アスベルさんは謂れのない罪で裁かれた。それが冤罪と分かったのは、アスベルさんが追放されてから半年後だった。でもその時にはアスベルさんの行方は分からなくなっていたんだよ。ハーザー元公爵はそう言っていた」

「ハーザー元公爵⋯えっ?私のお祖父様?」

「そうだ、マリベルちゃん。君のお祖父様は他国で生きていらっしゃる。残念ながらお祖母様は亡くなっていたけれど、伯父上と従兄もいるよ」

私は思わず口元を両手で押さえ、泣き声が漏れるのを塞いだ。でもアーサー様はそんな私の両手を外す。

「ちゃんと泣いていいよ。涙は堪える必要はない」

アーサー様はマーガレット様と同じ事を言ってくれた。

私は嗚咽が止まらなかった。

この世にひとりぼっちだと思っていた私に親族がいた。

ただそれだけなのに嬉しかった。

この世に一人じゃないんだと、そう思っただけで涙も溢れるけれど、力も湧いてくる。

アーサー様に手を握られながら、しばらく泣いたあと、アーサー様は私に留学を提案した。

「本当は、君を探してウェスガル氏の元へ帰す予定だったんだけど、姉から君の夢を聞いたんだ。この国でアメルースを育てたいんだって?」

「はい、お父様のようにアメルースを育てて、魔力枯渇病に苦しむ人がお金の心配をせず治療できるようにしたいんです」

「じゃあ、君の伯父上にちゃんと魔法を習ったほうがいい。土魔法は少し特殊らしくてね。この国ではおそらくマリベルちゃんしかその魔法が使える人はいないだろう。ウェスガル氏も代々一族にしか伝わらない魔力だと仰っていたよ。ハーザー公爵家が国を出て、スーデン王国でしか育てていなかったアメルースは、もう殆ど育つ事は無くなったと聞いている。アメルースは今は帝国が主流なんだ」

ウェスガルというのは、お祖父様が新たに移住した帝国で与えられた姓らしい。

驚いた事に、お祖父様たちが今いるのは、オルデイック王国の隣国、エーリヤ帝国だった。

そこでお祖父様たちは、土魔法を持つ一族という事で爵位を授かったそうだ。お祖父様たちは、お母様が追放されて向かったのは、エーリヤ帝国だと思って、ずっとお母様を探していたそうだ。帝国はとても広いから、まさかもう一つ先の国に向かったとは思わなかったとアーサー様に話したらしい。

アーサー様は、私がお祖父様の所にいなかったので、オルデイック王国でギカンを締め上げてもう一度オルデイック王国内を探すつもりでようやく帰ってきたのだとか。そもそも先ず、お祖父様たちを探すのに手間取ったと話してくれて、私達の家族のために大変な苦労をかけてしまったと、本当に申し訳なく思った。

「マリベルちゃんは気にしなくていい。これは俺がラスティとの友情からの思いで勝手にしたことだから。ラスティが大切にしていたマリベル(宝)は僕にとっても大切なんだよ」

アーサー様のお父様に対する友情に、私は感謝しかなかった。



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