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淡い恋は弾けて消えた  作者: maruko
ユーリス・ケニスト

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18 枯れた心

脱走未遂の罰で反省室に入れられた僕は、3ヶ月後に許されて部屋に返された。だけど僕の目にはもう何も映らなかった。世界のすべての色が消え失せて、何も映したくなかった。

部屋に閉じこもり授業にも出ない僕のところに、アズランがやって来た。

ハスビス子爵領は、ここから10日以上もかかるため、直接見に行くことはできなかったけれど、センザット家の力を使ってできるだけマリベルについて調べてきたと言った。

マリベルは馬車事故に巻き込まれやはり亡くなっていた。

先ずあの馬車事故は、王家がノーラ男爵に遺憾の意を示したことが始まりだった。

マリベルの父であるノーラ男爵は、僕が罹った“魔力枯渇病”の薬を、このオルデイック王国で唯一作れる事で爵位を賜った方だった。

だが男爵は、その薬の希少性をいいことに、薬の値段を釣り上げて売り渋っていた。そのことを王家が咎めて、このままその行為を続けるなら爵位を返上させると使者に伝えさせた。

だが男爵は、それは間違いだと書状を送り、その説明のために子爵を伴って陛下に謁見する為に、王城へと向かう途中の事故だったようだ。

僕も、その王家の見解は間違いだと思う。

僕はノーラ男爵とはハスビス子爵家でもよく会っていた。

そんな事をする人ではない。

それにマリベルの父上がそんな人だと思いたくないというのも、僕が信じたくない理由だった。

何故マリベルを連れて王都に行ったのかは分からなかったそうだ。

ただその事故で3人とも病院に運ばれたあと亡くなったそうだ。


マリベルがもうこの世にいない。


その事だけが僕の脳裏に焼き付いた。


「公爵が、何かして欲しいことはないかって、聞いてくれって言われたんだけど」

話し終えたアズランが僕に尋ねた。

無機質な瞳の僕を、ギュッと抱きしめながら。

「泣けよ!ユーリス。泣いていいから。そんな顔するなよ」

僕はもう泣けなかった。

涙は3ヶ月の反省室で枯れてしまった。


ただ、僕のために貴重な休みを費やしてくれたアズランに感謝した。

「アズラン、僕のためにありがとう。ありがとうございます」

僕は、これからどう生きればいいか分からなくなった。

でもそれをアズランに言うのは憚れた。彼はきっととても心配してくれるだろう。

だけどそんな同情はいらない。

慰めもいらない。

それを誰かからいくらもらっても、マリベルは帰ってこないから。


僕はその日の夜、父上に手紙を書いた。

父上に手紙を書くのは久しぶりだ。

何も事情を知らなかったハスビス子爵領にいた頃は、よく書いていたけれど、ちゃんとした返事をもらったことがなかったから、いつしか書くことをやめたのだ。

メルキューラ(ここ)に来て事情を知ってからは、迷惑になることが分かるから書かなかった。

アズランに頼んでセンザット伯爵家経由で、手紙は渡るようにしてもらおう。


僕は父宛の手紙に、ハスビス子爵領にあるはずのノーラ男爵家のお墓に花を手向けてくれるように頼んだ。


封筒を出そうと引き出しを開けると、持ち主のいなくなったブローチがあった。

僕はその行く宛のなくなったブローチを星に翳した。

赤い石がキラリと光る。

僕の瞳と同じ赤。

それを見ても、もう僕の目から涙は出なかった。



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