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淡い恋は弾けて消えた  作者: maruko
ユーリス・ケニスト

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17/49

17 叶わなかった願い

目が覚めた時、見慣れた天井が見えて僕は安堵した。

「あぁ、夢だったんだ。何て酷い夢だ」

「ユーリス⋯」

マリベルの死亡記事なんて夢だったんだと思ったのも束の間、僕の傍らから聞き慣れたアズランの声が僕を呼びかける。

その声色が僕を現実に戻そうとする。

嫌だ、夢のままでいさせてくれ。心の中で懇願する。

「ユーリス⋯お前」

「嫌だ!聞きたくない!」

「⋯この記事」

「聞きたくないって言ってるだろう!」

声を荒げて必死に訴える僕に、アズランはそれ以上声はかけなかった。

ただ目の端にアズランが持っている新聞が目に入って、僕はそれを見たくなかったから目を瞑った。

夢だ!

これは夢なんだ!

だからまだ目を覚ましちゃいけない!

僕は目を開けないようにギュッと瞼に力を入れた。

そしてそのまま眠った。


『いつかまたここに帰ってくるよ』

『ほんとう?』

『うん、約束する』

『ふふっやくそく』

約束のゲンマン、心を込めた小指への口づけ。

マリベルの小さな指。

頬を染める可愛いマリベル。

夕日の丘を走る僕のあとを、必死に追いかけるマリベル。


いつしか僕がマリベルを追いかけていた。

僕の前を駈けるマリベルの行く先には黒い靄が広がっている。

行かないで!マリベル!

行くな!

そっちに行ったらだめだ!

こっちに来るんだ!

マリベル帰ってきて!

帰ってこいよ!

お願いだから⋯。

お願いだから帰ってきて⋯⋯。

僕は声を限りに叫ぶけど、僕の声はマリベルに届かない。

マリベルは黒い靄に包まれてしまった。


目が覚めた時、僕は泣いていた。

涙が顳顬(こめかみ)を通って耳朶を伝う。


信じない!

信じたくない!


僕はベッドから抜け出して、着替えて鞄に荷物を詰めた。

そっと部屋を出る。

詰所にはダンさんが居て僕に声を掛けてきた。

「ユーリス、何処に行くんだ」

「あぁダンさん、ごきげんよう。僕はここを出る事にしたんだ。今までお世話になりました」

「おい、ちょっと待て!」

詰め所からダンさんが出てくる。

僕は入り口の扉を開こうと押したけど、いつも簡単に開く扉はビクともしない。

「ねぇダンさん。僕は行かなきゃ行けないんだよ。開けてよ!ここを開けてくれよ」

扉を叩く僕の手を掴んだダンさんは、首を左右に振る。何度も何度も首を振る。

「だめだユーリス。お前はここから出られないんだ」

「だって、僕が行かないと。ちゃんと帰らないと。約束したんだ。帰るって約束したんだ。約束は守らないとだめだろ?じゃないとマリベルが行っちゃう!早く帰らないとマリベルが行っちゃうんだ!約束したんだ!」

ダンさんに必死に言ったけど、首を振るダンさんは僕の腕を掴んで離さない。

扉のノブにしがみつく僕の体を離そうとする。

だめだよダンさん。

僕はマリベルの所に帰るんだ。

僕の願いも虚しく、ダンさんは僕の鳩尾(みぞおち)に拳を入れた。


僕の願いは叶わなかった。

約束は守ることができなかった。


僕はマリベルのところには帰れずに、反省室に3ヶ月閉じ込められる事になった。





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