↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
淡い恋は弾けて消えた  作者: maruko
ユーリス・ケニスト

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/50

16 新聞記事

メルキューラ学園は、存外居心地のいい場所だった。

アズランが言っていたように、訳有ばかりの令息は、基本他人に干渉しない。何故なら自分がされたくないからだ。

学園内であるならば、どこに行くのも自由だし、ちゃんとした教育も受けられる。アズランが言うには、訳有というほどだから、皆身分はほぼ高位だという。偶に平民もいるらしいけれど、それは訳ありなんだから察しろと言われた。10歳の僕がそれを察して考えた所で、大して考えは浮かばないから、気にしないことにした。

始めの1年は緊急以外の手紙は出させてもらえないと言われた。

里心をつかせないためのようだ。

僕のように何も聞かされず来るものが多いから、皆一様にホームシックになる者もいるらしい。

僕はホームシックというより、マリベルシックだった。

手紙には検閲が入ると聞いたから、1年後でも内緒で送る事もできない。

色々と対策を考えたけれど結局諦めて、正式に外出許可が下りるまでの1年間、僕は学園の環境に慣れることと学業に専念する事にした。


◇◇◇


僕がメルキューラ学園に入って、もうすぐ1年になろうとしていた頃、アズランが僕の部屋に訪ねてきた。

「俺、来週外出許可を漸くもらえたんだ。家族以外の手紙、その時送ってあげられるけど⋯。お前マリベルちゃんに送りたいんだろ」

僕はアズランの申し出に歓喜した。

早速マリベルの思いの丈を手紙にしたけれど、あれもこれもと欲張って書いたから、すごく分厚い手紙になってしまった。

「お前、これ小包じゃねぇかよ。プレゼントでも入れてるのか?」

「あっ!プレゼント、入れたい!ちょっと売店に行ってくる」

「おい!慌てるな!今日じゃなくてもいいよ。明日買ってまた包み直せってか、これ手紙だけなのか?!」

厚さ1センチほどの手紙を、呆れたように突き返しながら、アズランは僕の頭をクシャクシャにした。

メルキューラでは外出はできないが、嗜好品や文房具、衣類などは敷地内の別の大きな建物の中に売店があって、そこで割と何でも買うことができる。

その売店の中には、何故か小物も売っていて、男子生徒しかいないのに、女性の好む物なども置いている。

一つ目を付けていた品物があったけど、まだ外出許可が降りない僕は、買わずに辺りだけ付けていたのだ。

ウサギの形のブローチで、色はマリベルの瞳と同じピンクだ。目は赤い石が使われている所が僕の瞳と同じ色で、2人が合わさったようで一目で気に入ったんだ。

毎月父上から送られてくる手紙なしのお小遣いを、節約して貯めている。

それを全部使えばきっと買えるはず。

僕はマリベルに送れることが嬉しくて、メルキューラ(ここ)に来て初めてワクワクしていた。


次の日売店に行って、お目当てのブローチを見ていると、いつも売店に商品を持ってくる商会の人が声をかけてきた。

「おっ、坊っちゃん。珍しいな、そのブローチはプレゼントか?妹でもいるのか?」

この学園は、下は8歳から上は成人になる18歳までの生徒がいるのだが、ここに出入りする商人は敬語は使わないと決められている。商人は、いつものように軽口で僕を揶揄う。

いつも、文房具か下着類しか買わない僕が、その場所にいたのが不思議だっただろう。ニコニコしながら商品の説明をしてくれた。目の所の赤色は小さくても希少な宝石なんだと言った。

お金足りるだろうか?

無造作にポケットに入れた金貨を布越しに押さえた。

サラサラとメモ用紙に何かを書いて、商人が渡したのはブローチの金額だった。

金貨4枚、少し足りない。

どうして学生しかいないのにこんなに高いんだ!

僕は悔しいのと、お金が足りないというのが恥ずかしくて俯いた。

「足らないのか?」

商人が僕に聞く。

口には出せなかったけれど、僕は口を引き結んで頷いてポケットから金貨を3枚出した。

すると少しばかり考えたあと、商人がちょっと待ってろ、そう言って並べていたブローチより一回り小さな同じ形のブローチを、奥から出してきてくれた。

「本当は、別の店に並べるつもりだったんだけど、そっちにはこれを並べるから、これなら金貨3枚と銀貨1枚なんだけど。銀貨の分はオマケしてやるよ。その代わり今後もご贔屓にしてくれよ。出来れば成人してここを出てからもさ」

目を付けた物ではなかったけれど、マリベルはまだ7歳だから、これ位の大きさで良かったかもしれない。僕は嬉しくて、商人に何度も何度も頭を下げてお礼を述べた。


その時偶然僕の目に、無造作に置かれた新聞が目に入る。ちらりと見えた新聞に『ハスビス』という文字が見えた。

新聞を見つめていたら、商人がそれに気付いた。

「あぁ、痛ましい事故が起きたんだ。この事故で南側の道が塞がれてしまってな。商人たちは迂回してるんだけどさ。ハスビス子爵が亡くなったんだよ。道の真ん中に大きな獣用の罠が仕掛けられていたらしくて、それに馬が⋯って、おい!どうしたんだよ」

僕は商人が新聞を持ちながら話していたのを聞いていたけれど、途中で新聞を取り上げた。

ノーラ男爵という文字が見えたからだ。

記事には、ハスビス子爵領から王都へ続く街道で事故が発生、馬車に乗っていたのはハスビス子爵、同乗者のノーラ男爵とそのご令嬢が死亡した。状況から事件の可能性も有り。

そう書いてあった。

ご(・)令(・)嬢(・)が(・)死(・)亡(・)⋯。

死亡⋯。

死亡?

死⋯⋯亡⋯⋯。


ノーラ男爵にはマリベルしか娘はいない。


嘘だ!

嘘だ!

こんな記事は出鱈目だ!


体が勝手に震える。

足が諤々する。

視界が揺れる。


僕は新聞を持ったまま、その場所に蹲っていつしか気を失っていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。