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淡い恋は弾けて消えた  作者: maruko
ユーリス・ケニスト

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14/49

14 閉ざされた音

僕を乗せた公爵家の馬車がハスビス子爵領を出て向かったのは、ケニスト公爵領ではなかった。

「ここは?」

初めて会う父の使いの者は、ここに辿り着くまでの10日間、いくら尋ねても行き先や今後の事など、僕には何も教えてくれなかった。そしてかなり横柄な態度で僕に接していた。

「着きましたよ」

そう言われて馬車を下りると、僕の目の前にあるのは閉じられた大きな門だった。

鉄柵のような大きな門は、僕のイメージする牢の様に感じて背筋が凍りつく。ここから見える門の中には、大きい建物がいくつも建てられていて、愈々(いよいよ)説明してもらわないと訳がわからない、そう思い振り返ると、ここまで付き添っていた彼は、馬車を下りずに扉を閉めてしまい、僕を置いて出発してしまった。

僕は、僕を捨て置いて出発した馬車をその場で呆然としたまま見つめた。

(父上はま(・)た(・)僕を捨てるのか?こんな所に?まさか⋯ここは牢?)

こんな事なら、こんな所に連れて来られるならハスビス子爵領を出るんじゃなかったと、涙が溢れそうになったとき、後ろから肩を叩かれた。

突然のことに体がビクリと跳ねた。

「あっ悪い、驚かせたな。約束の時間より早く着いたから驚いたぞ。慌てて走って来たから息が苦しいや」

振り向くと僕よりも体の大きい少年が、胸を抑えながら言った。前髪を上げて顕になっている額からはツーっと汗が流れている。

その人は初めて見る顔で、思わず僕は身構える。

「誰だ!」

「⋯⋯は?君はユーリス・ケニストではないのか?」

「⋯⋯そうだけど」

「まさか⋯何も聞いてないのか?」

少年の言葉にぼくは頷くと、彼は手のひらを汗ばんだ額に当てて天を仰ぐ素振りをした。

「お前の父親は何を考えてるんだ。しかも⋯おい!馬車はどうしたんだ?まさかここまで歩いてきたとか?いやありえないな」

ブツブツと言いながら額に当てていた手を顎に移して考え込んでいる。

その間にも、僕の心の中はここに置き去りにされてから徐々に冷え切っていくのを感じる。

「いくら息子に接触できないといってもこれはあんまりだ。かと言って俺に出来る事はないんだけどね。まぁ俺に付いて来いよ、中に案内する」

再び僕の肩を叩き、少年は僕に付いてくるように促して門の中へと入っていこうとして歩き始めた。こんな怪しい場所の中に、知らない人物の後をついていくなんて有り得ない。だけどこの地が何処なのかも分からずに逃げる事もできない。

僕はそのままその位置から一歩も動けずに立ち竦んでいた。

門の中に入ろうとしていた少年は、しばらく歩いてから、僕が付いてきていないことに気付いて、再び僕の所へ引き返してきた。

「何やってんだよ、付いてこいって言っただろう?!」

「お前は誰だ!」

僕よりも体の大きな少年だから、正直にいえば怖かった。だけどいくら心細くとも、知らない人にはついて行けないし、勇気をだして僕は少年に言い放った。それは僕の中の公爵令息であるという、なけなしのプライドから湧き上がった力だったかもしれない。

「あぁそうか、お前は何も聞いていないんだったな。俺はアズラン、アズラン・センザット」

「センザット?」

少年の家名を聞いて僕は驚いた。センザットは母上の実家の家名だ。

「おっ!センザットの名は知ってたか。俺はお前の従兄になる。よろしくな。歳はお前よりも2つ上だ。お前は10歳だったよな」

アズランの問に頷くと、彼は僕の手を取った。

「あとは歩きながら説明するよ。お前がどう足掻こうが今日からお前の居場所はここなんだ。観念して歩け」

母方の従兄と聞いて、僕は少し安堵して、手を繋がれたままアズランと一緒に門の中に入った。

僕らが2人で入ったあとに、後ろで門が大きな音を立てて閉まった。

その時、ガシャンと鳴ったその音が、僕の人生まで閉じた音のように僕は感じた。



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