13 約束の証
マリベルと出会ってから僕の気持ちはガラリと変わった。
体の怠さも直ぐに熱が出ることも、病の症状はそんなに変わらなかったけれど、いつもどんなときでも、日中はマリベルが傍らに居てくれた。
熱が出たときは、絞りの甘いハンカチを僕の額に乗せたり、体が怠くて起き上がれない時も、僕が寂しがらないようにと、ベッド脇の椅子に座って楽しい歌を歌ったり、字もまだ習っていなくて読めないのに、絵本を見て勝手に物語を作って聞かせてくれたりしていた。
その度に僕は、髪の毛が濡れたり眠くても寝られなかったりと、ちょっとだけ困ったりもしたけれど、それでも母上が倒れてから後、ずっと寂しかった心は満たされた。
元気になろう、元気になってマリベルと外で遊ぶんだ!
出鱈目な絵本にならないように、ちゃんと字を教えてあげよう!
そう思って、気力を振り絞って、病気なんかに負けないようにと頑張った。
そのおかげなのか、段々と薬が効いてきて僕は9歳の誕生日を迎える頃には、魔力枯渇病を克服する事ができた。
僕の病が完治したと、ハスビス子爵が父上に手紙で知らせてくれたらしいけど、もうしばらくこの領地で預かって欲しいと返事が来たと聞いたときも、少しだけ寂しさを感じたけれど、マリベルと離れなくて済んだことの方を喜んだ。
それからも僕らは変わらず、殆どの日々を一緒に過ごした。
はじめの頃のマリベルは、まだ少し拙い言葉で話していたけれど、そのうち誰の真似なのか、貴族令嬢らしく話す事を心がけているように見えた。
「おかあさまがこんなかんじではなしていたそうよ」
おしゃまなマリベルが、僕は可愛くて可愛くて堪らなかった。
出会った頃は、マリベルにとって、僕はお兄ちゃんだったかもしれないけれど、僕ははじめから妹だとは思っていなかった。
はじめは天使で、その後はずっと一緒にいる相手なのだと、認識していた。
僕の初恋は、神がぼくの前に使わせてくれたマリベルだ。
だけど、そんな楽しい日々は公爵家から迎えが来て終わることになった。
もう少しだけ、せめて学園に入る頃になるまで。そんな願いを書いて父上に手紙を送ったけれど、その願いは叶うことはなかった。
別れの日、偶に二人で出掛けた夕陽が綺麗に見える丘に行って、僕はマリベルに再会を誓った。
『いつかまた、ここに帰ってくるよ』
僕が元気になった頃、公爵家には異母弟が生まれたと父上からの手紙にあった。だから僕が公爵家を継ぐ必要は無くなっている。
その頃から、僕はノーラ男爵から薬師の仕事を習ってここに住むのだと漠然と思っていた。だから、マリベルに誓ったんだ。
マリベルは目はうるうるさせながら『本当?』と聞いてきた。
だからもう一度『約束する』と言って、その証にゲンマンをした。
本当は大人みたいにかっこよく指輪でもプレゼントしたかったけれど、小さなマリベルにあう指輪は玩具しかなかった。
そんな物はあげられない。
だからいつかちゃんとしたプロポーズであげるんだと心の中でそう思いながら、繋いだマリベルの小指に誓うように口づけた。
それが永遠の別れになるだなんて、僕は思ってもみなかった。




