11 母上の死
僕ユーリス・ケニストの両親はとても仲が良かった。
仲睦まじい両親の、溢れる愛情を一心に受けて僕は育った。
ケニスト家は、嘗て王女が降嫁して2位も陞爵した事により、伯爵家から公爵家になった。
僕の曾祖母が元王女だ。
王族に連なる公爵家といえども、その歴史はまだ浅く、領地も潤沢な土地を賜っているわけではない。オルデイック王国に現存する4つの公爵家の中でも序列は一番下位になる。それでも僕は自然豊かなケニスト公爵領が好きだった。
貴族の序列なんて、幼い頃には碌にわかっていないのだから関係なかった。
ただ優しい母上と精悍な父上と一緒にいれるだけで、それだけで僕は良かったのだ。
その幸せな日々に翳りがみえたのは、僕が“魔力枯渇病”という病になったからだった。
はじめケニスト公爵家の主治医は、寝込む僕の症状を“風邪”だと診断した。
だけどいくら薬を飲んでも、高熱は下がらず息苦しさも変わらなかった。
毎晩毎晩魘されて生気が失われていく日々。
僕の側を片時も離れずに看病する母上も、日々やつれていった。
僕を哀れむ瞳は、いつも涙が浮かんでいた。僕の頭を撫でながら「代わってあげられたらいいのに」と呟く声も掠れていた。
そうして、熱が引いてもすぐ上がり、体の怠さも取れなくて、ベッドから起き上がれない一向に良くならない僕の状態に、とうとう父上は王宮の侍医の診察を願った。
そして判明した病名が“魔力枯渇病”だったのだ。
どうして、ケニスト家の主治医が、診断を誤ったのか。それは子供の罹る病ではなかったからだ。
診断結果を聞いて、それまで気を張り詰めた状態で僕の看病をしていた母上は真っ先に倒れた。
元々丈夫な質ではなかった母上は、その日を境に張り詰めた糸が切れたように衰弱していく。
ケニスト公爵家に2人の重病人。
公爵家は益々暗い雰囲気に包まれていく。
それに追い打ちをかけたのは、僕の病に効くとされている薬の購入だった。
潤沢な資金があるわけではないケニスト公爵家の資産をそれは圧迫し続けた。
しかも、大人なら2ヶ月も飲み続ければ完治するはずなのに、僕は全く治る見込みがなかった。
その辺の事情はだいぶあとになって僕は知る事になったけれど、その時はただただ毎日が辛く苦しい日々だった。
そして僕が苦しんでいる間に、先に母上が亡くなった。
寝込んでいた僕は、何とか母上の葬儀に参列したけれど、立つことも出来ずにずっと座ったまま母の棺を見つめることしか出来なかった。
優しい母上が僕の看病疲れで亡くなってしまったのだと、葬儀で親族がヒソヒソと話すのを聞いた僕は、何もかもこんな病になった僕のせいだったのだと、母上に申し訳なくて窪んで生気のない瞳から溢れる涙が止まらなかった。
父上も憔悴していた。
母上の棺をいつまでも抱きしめている父上の背中に、「ごめんなさい、ごめんなさい」と病の影響で満足に声が出せない僕は、心の中で謝り続けた。
でもいくら謝っても母上が生き返ることなどない。
幸せな日々を壊してしまった僕を、きっと父上は恨んでいたのだろう。
母上の葬儀が終わって3ヶ月後に父上は再婚して、僕をハスビス子爵領に療養と称して追い出したのだった。




