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淡い恋は弾けて消えた  作者: maruko
マリベル・ノーラ

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10/48

10 私の夢

「マリベル揃えた?」

「はい、並べています!」

デトリス侯爵家で働き始めて、そろそろ半年が過ぎようとしていた。

仕事は、段階を踏んで教えてもらったため、徐々に慣れていき、今私は刺繍部門に配属されている。

と言っても、ここで働くまで私は刺繍をした事がなかった。

貴族令嬢なら、刺繍は教養の一部でもあるけれど、私は習ったことがない。私が薬草園の人に習ったのは繕いの仕方だけだ。

自分の服の擦り切れを強化したり、破れた所の修繕の仕方が主だった。

だから刺繍部門に配属された時、飛び上がるほど嬉しかった。

もう袖を通すことが出来ない、私の3歳位の時の衣装に、お母様の刺繍が施されている。小さなピンクの花と私の名前。

それはお母様の刺繍だと、父が生前教えてくれたから、着ることが出来なくなっても大事にしていた。もちろん今回ハスビス子爵領を出る時にも、ちゃんと持ってきている。

いつか誰かと結婚して子供が生まれたら、私もその子の衣装に刺繍をしてあげたい。

子供の頃、そう思っていたから刺繍を習ってみたかった。

今の私には結婚も子供も夢のまた夢だけれど、それでもお母様の刺繍は私の憧れなのだ。

今は、衣装係の人に習いながら覚えている所だ。

まだまだ衣装に刺繍を入れられる腕前ではないので、私の仕事は専ら準備と後片付けだ。

刺しゅうをされている皆さんのお手伝いをしながら、練習もさせてもらっているのだ。

本当にありがたい職場だ。

マーガレット様には感謝しかない。


それにしてもアーサー様は、一体いつになったら帰国されるのだろうか?


マーガレット様の話によると、急いで調べることがあると言って出かけたそうで、その時の帰国予定は、1ヶ月ということだったみたい。

それなのに、その予定は大幅に越している。それでも偶に届く一方的な手紙で、生存していることは間違いないらしい。

一方的にというのは、アーサー様は滞在先を書いていないため、マーガレット様から手紙を送る事が出来ないそうなのだ。

どうやらアーサー様は、昔から風来坊なお方で、マーガレット様は文句もいい飽きたと仰っていた。

そういえば父もアーサー様の事を話して聞かせてくれていた時、似たような事を言っていたような気がする。

『でもあいつは良い奴なんだよ。貴族なのに嘘がないんだ』

私は刺繍枠を練習用の布に填めながら、父の言葉を思い出していた。


◇◇◇


「いい土になりますように」

プランターに盛った土に魔力を込めると、土がキラリと光る。

私は最近夜になると自分の部屋のベランダで土を育てている。

それというのも、あまりにも帰ってこないアーサー様の事を待っている私を、気の毒に思ったのか、マーガレット様がアーサー様が帰国して私を拒否しても、そのままマ(・)ー(・)ガ(・)レ(・)ッ(・)ト(・)様(・)が(・)私を雇い続けてくれると言ってくれたのだ。

正式に侯爵家で雇用してもらえることになった私は、当初の目的の準備を始めようと思った。

私の目的は、私の薬草園を作る事。そこでアメルースを育てる事だ。

魔力量の少ない私が、どれくらい土を育てる事が出来るのか、前の薬草園にいる時に、試しに作って見たところ、アメルースが育つ土が出来るまで1年ほどかかった。

その土で育てたアメルースは、旅に出る前に薬に仕上げて持って来ている。土は持ち運ぶわけにもいかなかったので、掘り起こして野原に蒔いてきた。

種はその時に取っておいたものだ。

アメルースの栽培の成功の鍵は、実は土属性の魔法を注いだ“土”なのだ。

父が賜った薬草園の土には、私の母の魔力が込められていた。でもおそらく、永遠という訳にはいかないだろう。

いつかは、その魔力の効力が切れる時が来る。

薬草園で作られるアメルースを使った薬は、父が亡くなってから、ギカンが更に値を釣り上げた。

実は1年ほど前からアメルースが大きく育たなくなってきていたのだ。

私の魔力を込めようか、ユーリスの様に苦しむ人がいる事も分かっていたから散々葛藤したけれど、どうしてもそんな気にはなれなかった。

ルーベンス様が、ハスビス子爵領を訪れた理由を聞いた時に、その事を話して作った薬を渡したかった。

だけど薬師の資格を持たない私の作った薬だったから、あの時はルーベンス様に差し上げる訳にはいかなかったのだ。

いつか薬師の資格が取れたら、真っ先にルーベンス様に持っていこうと密かに心に決めている。

そういう訳で、ここに定住できるなら、土を作るのに一年も時間がかかるので、準備をするに越したことはないと思った私は、マーガレット様に雇用されたその日から土作りを始めたのだ。

いい土が出来た時にマーガレット様にお話して、屋敷の裏に広がるだだっ広い庭の一画を薬草園にしてもらえるように買わせてもらえないか頼もうと思っている。

その為に、貰っているお給金も貯めている。

「いい土になりますように」

土が光るのを見届けたあと、私は空に光る星を見上げた。




読んでくださっている皆様、ありがとうございます。

次話からユーリス視点になります。



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