第14話 いつものお茶会
アリシア様との出来事から二週間が経った。
学園内の噂話は完全に入れ替わっていた。
従者寮でも、控室でも、廊下でも、聞こえてくるのは同じ話である。
誰もが噂するのは、とある御令嬢が公爵令嬢に目をつけられておかわいそうだと。
そしてもう誰も、殿下が御令嬢の名前を呼んだという噂話をしていなかった。
二週間で、きれいに入れ替わった。
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そして、今日はいつものお茶会の日である。
今回はモンドール家、フルール様が主催される番だった。
お嬢様に従い、モンドール家のタウンハウスへと向かう。
タウンハウスに到着し、中へと通される。
そこは、公爵家のタウンハウスとは違う絢爛さに彩られていた。
公爵家が歴史の重厚感による美であるとすると、こちらは真新しさをこれでもかと主張する美であった。
……これが成金と言われる理由なんだろうなぁ。
自分はそんなことを思いながら、案内された部屋の隅に立った。
他の令嬢方の従者も、それぞれの主の後ろに控えている。
「皆様、よくいらしてくださいましたぁ」
フルール様がのんびりとしたいつもどおりの口調でそう言われた。
「ごきげんよう」
「お招きありがとうございます、フルール」
「ごきげんよう、フルール」
お嬢様とシルヴィ様が続けて挨拶をされ、セシル様が最後に挨拶をされた。
四人が席に着く。
そして、お茶会が始まった。
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「それで、わたし、いまだに納得していないのですけれど」
最初に口を開かれたのはフルール様だった。
「エレオノール様、あのときのお言葉、ひどいと思いますの」
「あのとき?」
「挨拶は、挨拶だけで済ませるのがいちばんですわ、と」
あの日のことである。
学園でフルール様が殿下に挨拶をされていたときのことである。
その挨拶にお嬢様が割り込み、そしてフルール様を退けた日。
「あら、なにか間違っておりまして?」
「そこですのよ」
フルール様が頬を膨らませられた。
「間違っていないから困るのですわ。少しでも手心があるお言葉であれば、わたし、言い訳することもできましたのに」
「それは困りましたわね」
お嬢様はまったく困っていない声で答えられた。
「エレオノールは、いつもそうですわ」
「いつも?」
「ええ。本当のことを飾らずにお話されるでしょ。だからわたし、いつも傷ついてましてよ」
「あら、あなたはその程度で簡単に傷ついてしまうほど、繊細なわけではないでしょ?」
「ほら、また」
フルール様がそこで少しだけ身を乗り出された。
「でも、いつかお返しをして差し上げますわ。わたしの話で、あなたを驚かせて差し上げますわ」
その一瞬だった。
フルール様の目の中の輝きが、わずかに動いた。
……また出た。
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「フルールはまだ懲りておられないのね」
次に口を開かれたのはシルヴィ様だった。
「わたくしは、エレオノールに、もう近づかないことにしましたわ」
「あら、シルヴィに何かしてしまっていたかしら」
「ええ」
シルヴィ様は、湯気の向こうで平然と答えられた。
「わたくしの周りの方々、その五人ほどが怯えてしまうことを」
あの教室での一件である。
シルヴィ様を囲んでいた方々に、お嬢様が家格の話をされた日。
家の名を伝えられない家格の人間が、殿下の周りのことを語るのか、と。
そして、シルヴィ様以外の顔色が変わっていったのを覚えている。
「あら、ただ本当のことを言葉にしただけでしてよ」
「存じております。だからあの方々が怯えてしまっているのです」
「でも、お静かになったでしょ」
「ええ、静かになりました」
「では、そういうことですわね」
「ええ、そういうことですわ」
……いま、何か意思の疎通をされましたよね。
そんなことを考えていると、シルヴィ様の後ろに控えている侍女が目に留まった。
そう、一度だけ目を伏せられたから。
主は動かず、侍女が動いた。
それがなぜか目に留まった。
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セシル様が小さな音を立ててカップを置かれた。
それだけで場の視線が集まった。
「わたくしの話も、エレオノール、よろしいのですか?」
柔らかい笑顔のまま、そう言われた。
「どうぞ」
「では。わたくしのこと、詐欺師と仰られましたわね」
場の空気が少しだけ固まった。
「ええ、詐欺師と申し上げましたわね」
「わたくし、とても驚きました」
セシル様は微笑まれたまま続けられた。
「ですが、あの後で考えましたの。エレオノールは、見たものをそのまま伝えていたのではないのかしらと」
「それで?」
「そして気がつきましたの。わたくしが周りに伝えていたのは、周りが見たいものということを」
……これ、本心で言っておられますね。
自分はそう思った。
ただ、根拠はない。
「それはよい気づきですわね」
「エレオノールのおかげですわ」
「わたくしは何もしておりませんわ。詐欺師と申し上げただけですもの」
「ですから、それですのよ」
「詐欺師とされたことに、感謝をされるとは。セシル、あなた、やはり変わっておりますわね」
セシル様が笑われ、フルール様も笑われた。
シルヴィ様は笑われなかったが、すこしだけその雰囲気が緩んだ気がした。
……これ、笑い話になってるんですか。
自分は内心で呆れていた。
同じようにセシル様の後ろに控えている女性の従者も、少しだけ肩の力を抜かれたようだった。
どの家でも同じらしい。
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しかし、フルール様も、シルヴィ様も、セシル様も、学園でお嬢様に退けられたというのに、笑いあっている。
しかも、自分から話を持ち出している。
……仲が良いんですか、この方々。
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「そういえば」
フルール様が思い出したようにそう言われた。
「一年生の御令嬢のお話、皆様ご存じですか」
雑談である。
だが、その話の切り出し方に、自分の身体が少しだけ固くなるのが分かった。
「ハンカチを踏まれたという方ですわね」
セシル様が答えられた。
「ある方に目をつけられていると」
「おかわいそうに、と皆が言っておりますわ」
シルヴィ様がそう言って、それで終わりにされた。
「そうね」
お嬢様はそれだけ言われた。
そして、誰も話を続けなかった。
……気づいておられますね。
この方々は、この噂話の登場人物のことを知らないわけがない。
知っている上で、これ以上の話題にしない。
ただ、お嬢様の反応を確認したいだけだったのだろう。
何か反応があれば、そこから奥へと進むつもりだった。
しかし、お嬢様は反応をされなかった。
だからこの話はここで終わり。
……お嬢様、これでよいのですか?
分からない。
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お茶会がお開きになったのは、日が傾く前だった。
馬車がモンドール家のタウンハウスからそれなりに離れたところで、お嬢様が笑われはじめた。
「どうなさいましたか?」
「あの三人が、あの御令嬢のお話を雑談で済ませましたのよ。おかわいそうに、と」
お嬢様は、満足そうにそう言われた。
「つまり、殿下のお話はもう終わっておりますの」
「……ほどほどにお願いいたします」
「あら、何をほどほどに?」
お嬢様は悪役令嬢をお辞めになる気はないらしい。
あの悪役宣言をされてから二か月。
お嬢様が人前でなさったことを思い出すと……
下位爵位の貴族令嬢を追い払われた。
フルール様と殿下の挨拶を妨害された。
シルヴィ様の取り巻きに脅しをかけた。
セシル様を詐欺師と評された。
そして、アリシア様のハンカチを、踏みつけた。
思い出せるだけでも、これだけのことをなさっておられる。
その度に、自分の胃が痛くなったことも思い出すことができる。
そして、胃薬の減りが早くなっていることも。
……お嬢様、本当にほどほどにお願いいたします。
しかし、お嬢様には自分の願いは届かなかったみたいだ。
「レイヴ」
「はい」
「今年の学園生活は、いい一年になりそうね」
ここまでが第一部になります。
お付き合いいただき、ありがとうございます。
お嬢様の悪役令嬢としての地位が、どんどん確立していっています。
どこまでいってしまうのでしょうか?
それは明日からの第二部をお待ちください。
今後の参考になりますので、面白い・続きが気になると思っていただけたら、
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