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冒険者は御令嬢様に拾われる ― 悪役令嬢の執事はつらいよ  作者: 智信
第一部

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14/40

第14話 いつものお茶会

 アリシア様との出来事から二週間が経った。

 学園内の噂話は完全に入れ替わっていた。

 従者寮でも、控室でも、廊下でも、聞こえてくるのは同じ話である。

 誰もが噂するのは、とある御令嬢が公爵令嬢に目をつけられておかわいそうだと。

 そしてもう誰も、殿下が御令嬢の名前を呼んだという噂話をしていなかった。

 二週間で、きれいに入れ替わった。


---


 そして、今日はいつものお茶会の日である。

 今回はモンドール家、フルール様が主催される番だった。

 お嬢様に従い、モンドール家のタウンハウスへと向かう。


 タウンハウスに到着し、中へと通される。

 そこは、公爵家のタウンハウスとは違う絢爛さに彩られていた。

 公爵家が歴史の重厚感による美であるとすると、こちらは真新しさをこれでもかと主張する美であった。


 ……これが成金と言われる理由なんだろうなぁ。


 自分はそんなことを思いながら、案内された部屋の隅に立った。

 他の令嬢方の従者も、それぞれの主の後ろに控えている。


「皆様、よくいらしてくださいましたぁ」


 フルール様がのんびりとしたいつもどおりの口調でそう言われた。


「ごきげんよう」


「お招きありがとうございます、フルール」


「ごきげんよう、フルール」


 お嬢様とシルヴィ様が続けて挨拶をされ、セシル様が最後に挨拶をされた。


 四人が席に着く。

 そして、お茶会が始まった。


---


「それで、わたし、いまだに納得していないのですけれど」


 最初に口を開かれたのはフルール様だった。


「エレオノール様、あのときのお言葉、ひどいと思いますの」


「あのとき?」


「挨拶は、挨拶だけで済ませるのがいちばんですわ、と」


 あの日のことである。

 学園でフルール様が殿下に挨拶をされていたときのことである。

 その挨拶にお嬢様が割り込み、そしてフルール様を退けた日。


「あら、なにか間違っておりまして?」


「そこですのよ」


 フルール様が頬を膨らませられた。


「間違っていないから困るのですわ。少しでも手心があるお言葉であれば、わたし、言い訳することもできましたのに」


「それは困りましたわね」


 お嬢様はまったく困っていない声で答えられた。


「エレオノールは、いつもそうですわ」


「いつも?」


「ええ。本当のことを飾らずにお話されるでしょ。だからわたし、いつも傷ついてましてよ」


「あら、あなたはその程度で簡単に傷ついてしまうほど、繊細なわけではないでしょ?」


「ほら、また」


 フルール様がそこで少しだけ身を乗り出された。


「でも、いつかお返しをして差し上げますわ。わたしの話で、あなたを驚かせて差し上げますわ」


 その一瞬だった。

 フルール様の目の中の輝きが、わずかに動いた。


 ……また出た。


---


「フルールはまだ懲りておられないのね」


 次に口を開かれたのはシルヴィ様だった。


「わたくしは、エレオノールに、もう近づかないことにしましたわ」


「あら、シルヴィに何かしてしまっていたかしら」


「ええ」


 シルヴィ様は、湯気の向こうで平然と答えられた。


「わたくしの周りの方々、その五人ほどが怯えてしまうことを」


 あの教室での一件である。

 シルヴィ様を囲んでいた方々に、お嬢様が家格の話をされた日。

 家の名を伝えられない家格の人間が、殿下の周りのことを語るのか、と。

 そして、シルヴィ様以外の顔色が変わっていったのを覚えている。


「あら、ただ本当のことを言葉にしただけでしてよ」


「存じております。だからあの方々が怯えてしまっているのです」


「でも、お静かになったでしょ」


「ええ、静かになりました」


「では、そういうことですわね」


「ええ、そういうことですわ」


 ……いま、何か意思の疎通をされましたよね。


 そんなことを考えていると、シルヴィ様の後ろに控えている侍女が目に留まった。

 そう、一度だけ目を伏せられたから。

 主は動かず、侍女が動いた。

 それがなぜか目に留まった。


---


 セシル様が小さな音を立ててカップを置かれた。

 それだけで場の視線が集まった。


「わたくしの話も、エレオノール、よろしいのですか?」


 柔らかい笑顔のまま、そう言われた。


「どうぞ」


「では。わたくしのこと、詐欺師と仰られましたわね」


 場の空気が少しだけ固まった。


「ええ、詐欺師と申し上げましたわね」


「わたくし、とても驚きました」


 セシル様は微笑まれたまま続けられた。


「ですが、あの後で考えましたの。エレオノールは、見たものをそのまま伝えていたのではないのかしらと」


「それで?」


「そして気がつきましたの。わたくしが周りに伝えていたのは、周りが見たいものということを」


 ……これ、本心で言っておられますね。


 自分はそう思った。

 ただ、根拠はない。


「それはよい気づきですわね」


「エレオノールのおかげですわ」


「わたくしは何もしておりませんわ。詐欺師と申し上げただけですもの」


「ですから、それですのよ」


「詐欺師とされたことに、感謝をされるとは。セシル、あなた、やはり変わっておりますわね」


 セシル様が笑われ、フルール様も笑われた。

 シルヴィ様は笑われなかったが、すこしだけその雰囲気が緩んだ気がした。


 ……これ、笑い話になってるんですか。


 自分は内心で呆れていた。

 同じようにセシル様の後ろに控えている女性の従者も、少しだけ肩の力を抜かれたようだった。

 どの家でも同じらしい。


---


 しかし、フルール様も、シルヴィ様も、セシル様も、学園でお嬢様に退けられたというのに、笑いあっている。

 しかも、自分から話を持ち出している。


 ……仲が良いんですか、この方々。


---


「そういえば」


 フルール様が思い出したようにそう言われた。


「一年生の御令嬢のお話、皆様ご存じですか」


 雑談である。

 だが、その話の切り出し方に、自分の身体が少しだけ固くなるのが分かった。


「ハンカチを踏まれたという方ですわね」


 セシル様が答えられた。


「ある方に目をつけられていると」


「おかわいそうに、と皆が言っておりますわ」


 シルヴィ様がそう言って、それで終わりにされた。


「そうね」


 お嬢様はそれだけ言われた。


 そして、誰も話を続けなかった。


 ……気づいておられますね。


 この方々は、この噂話の登場人物のことを知らないわけがない。

 知っている上で、これ以上の話題にしない。

 ただ、お嬢様の反応を確認したいだけだったのだろう。

 何か反応があれば、そこから奥へと進むつもりだった。

 しかし、お嬢様は反応をされなかった。

 だからこの話はここで終わり。


 ……お嬢様、これでよいのですか?


 分からない。


---


 お茶会がお開きになったのは、日が傾く前だった。


 馬車がモンドール家のタウンハウスからそれなりに離れたところで、お嬢様が笑われはじめた。


「どうなさいましたか?」


「あの三人が、あの御令嬢のお話を雑談で済ませましたのよ。おかわいそうに、と」


 お嬢様は、満足そうにそう言われた。


「つまり、殿下のお話はもう終わっておりますの」


「……ほどほどにお願いいたします」


「あら、何をほどほどに?」


 お嬢様は悪役令嬢をお辞めになる気はないらしい。

 あの悪役宣言をされてから二か月。

 お嬢様が人前でなさったことを思い出すと……


 下位爵位の貴族令嬢を追い払われた。

 フルール様と殿下の挨拶を妨害された。

 シルヴィ様の取り巻きに脅しをかけた。

 セシル様を詐欺師と評された。

 そして、アリシア様のハンカチを、踏みつけた。


 思い出せるだけでも、これだけのことをなさっておられる。

 その度に、自分の胃が痛くなったことも思い出すことができる。

 そして、胃薬の減りが早くなっていることも。


 ……お嬢様、本当にほどほどにお願いいたします。


 しかし、お嬢様には自分の願いは届かなかったみたいだ。


「レイヴ」


「はい」


「今年の学園生活は、いい一年になりそうね」

ここまでが第一部になります。

お付き合いいただき、ありがとうございます。


お嬢様の悪役令嬢としての地位が、どんどん確立していっています。

どこまでいってしまうのでしょうか?

それは明日からの第二部をお待ちください。


今後の参考になりますので、面白い・続きが気になると思っていただけたら、

評価・ブックマークで応援いただけると嬉しいです。

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