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六影相剋――記憶喪失の剣士は、六大勢力の争いの中で世界の歪みと向き合う  作者: いぬぬっこ
第二章 影醒

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第十三話 江湖の決断

赤霄原の高台から、白黎は町を見下ろしていた。朝霧がまだ低く漂い、瓦屋根や石畳の道を淡く包む。町の外縁には、小規模な市街戦の跡が残る。昨夜の内功の波紋が、空気の中に微かに残っていた。燕秋は背後で腕を組み、地図を広げながら低く囁く。「正派、邪道、中立……三者の動きが重なるこの地域は、歪みが濃い。今日の決断次第で、この町の流れが変わる。」白黎は黙って頷き、剣の柄を握る。内功を軽く巡らせ、全身を静かに緊張させる。


町の中心広場に入ると、すでに数人の玄影の下級者が動いていた。彼らは地面に符を描き、歪んだ内功の波を街に流している。狙いは明白だ――民衆を恐怖で支配し、町を通じて江湖の力を歪めること。白黎は歩を止めることなく、周囲を観察する。民衆の恐怖、警備の武者たちの動揺、内部の流れ――すべてを一瞬で把握した。


燕秋が低く声をかける。「白黎、どうする?」彼の目には冷静さの裏に、相棒としての期待が含まれている。白黎は静かに息を整え、剣先をわずかに前に向ける。意思を持った影として、今、自分が何を成すべきかを理解していた。


最初の介入は小さく、しかし効果は絶大だった。白黎は内功を極微量に街の中心に流し、符の影響を逆向きに調整する。歪みはわずかに弱まり、民衆の恐怖が収まる。その瞬間、玄影の下級者の一人が動揺し、描いた符が崩れ落ちた。燕秋は瞬時にその隙を見逃さず、走り込み、敵の動線を遮る。白黎は最小限の剣の動きで符を消し、内功を整える。誰も傷つけず、しかし意思を示す。


だが、事態はすぐに拡大した。町の北門から、清談派の使者が現れた。彼らは歪みに気づき、民衆を守るために内功を展開する。しかし、力の干渉で街の流れがさらに不安定になる。白黎は剣を握り直し、再び影として介入する。燕秋は右側の屋根伝いに移動し、視界を広げつつ敵の誘導を補佐する。二人の連携は自然で、まるで意思を共有しているかのようだった。


広場の中央で、白黎は立ち止まる。目の前には、正派の武者、清談派の使者、玄影の下級者が入り混じり、民衆を盾にした三すくみの状態。どの勢力も力を誇示し、流れを掌握しようとする。白黎は冷静に息を吸い、そして小さく呟いた。「……分ける。」意識の集中と剣の角度で、内功の波を局所的に分断する。北側の玄影、南側の正派、中央の清談派――それぞれの力の流れを干渉し、干渉の中心に自分の意思を通す。


燕秋は素早く判断し、白黎の介入に合わせて動く。「左から押す!」「右を止めろ!」声は小さいが、動きは正確。白黎は剣を振るう。斬撃は最小限、しかし効果は絶大。符を破壊し、内功の流れを切断し、民衆を危険から守る。敵は一瞬、行動を止める。意思の力が、影の力を上回った瞬間だった。


混乱の最中、白黎の内功は極限に達する。全身の筋肉は緊張し、骨の軋む感覚、魂の微かな震えが伝わる。それでも顔は硝子のように無表情。燕秋が後ろで、息を整えつつ、静かに囁く。「白黎……お前の意思が、影を超えた。」白黎は短く頷き、剣を鞘に戻す。江湖の歪みは一時的に収まり、民衆は安堵の声を上げる。


日が傾き、夕暮れが町を包む頃、白黎と燕秋は広場を見下ろす高台に立った。町の灯りがぽつぽつと灯り、民衆が再び日常を取り戻していく。燕秋は軽く笑う。「今日の決断で、この町の流れは変わった。力だけじゃなく、意思で江湖を動かせる。お前がそうしてくれた。」白黎は静かに剣を握り、朝の覚悟を改めて胸に刻む。影としてではなく、意思を持った者としての自分。相棒として共に戦った燕秋との絆。


夜風が二人の間を通り抜ける。江湖の影は依然として濃く、正派・邪道・中立の力が複雑に絡み合う。だが、白黎は知っていた。影として、意思を持ち、相棒と共に流れを読み、介入できる。この感覚が、次なる挑戦への準備であることを。


山の向こうに、玄影の影が遠く見えた。夜の闇に溶け、次の動きを窺う。その存在は遠くとも、白黎の意思は既に江湖に影を落としていた。燕秋が小さくつぶやく。「さあ、白黎。次はどこだ?」白黎は無言で剣を握り、夜の江湖に足を踏み出す。

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