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魔石グルメ ~魔物の力を食べたオレは最強!~(Web版)  作者: 俺2号/結城 涼
アフターⅣ 黒龍艦バハムート II

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泳がせる必要はない、と彼は言った。

先日から重ねてのお願いで恐れ入りますが、発売したばかりの8巻もどうぞよろしくお願いいたします。9巻の発売も決定しておりますので、少年期完結まで読める書籍版も、是非是非ご検討くださいませ。


挿絵(By みてみん)

 大山の頂上付近は霧に覆われ、やってきたばかりのアインたちにはどういった地形なのか、どういった状況なのか、すべて伺い知れていなかった。



 ――――これは、とんでもなく昔の話になる。

 古き時代、魔王大戦より遥か数百年以上前に遡ると、そこは特別な山だった。活火山が如く勢いで魔力を巻き散らす、イシュタリカでも稀有な山だったのだ。



 その魔力は多くの魔物を魅了したが、生息できる魔物は限られた。

 強ければいいというものではない。

 単純だが、身体に合うかどうかの問題があった。淡水魚と海水魚のように、水が違えば生息できないのとよく似ていた。



 だが、今となってはその影響も色濃く残されているわけではなく。

 しかし、長きにわたる月日により、棲み分けした魔物だけが残っていた。



 この地に――――。

 アインより先に足を運んでいた者たちがいる。



 ドワーフのハーフであるヴィゼルと、吸血鬼のロイだ。



「ここに一日居るだけで、巨万の富が手に入る」



 ロイが言った。

 それを聞き、近くに腰を下ろして魔物の肉を頬張っていたヴィゼルが口を開く。



「ああ。今までの暮らしが馬鹿みたいだ。自由はいい。何にも縛られず、こうして危険な場所で悠々と食事だって出来る。最高だ」


「…………けど、ヴィゼル」


「なんだ」


「――――いいや、何でもない」



 ロイは少し不満に思っていた。

 それは口に出すほどではなくとも、ヴィゼルが何の相談もなしに凶行に及び、当初予定されていた最悪の事態に陥った際の逃げ場所まで来ていたことに対して。

 でも同じぐらい、自由という言葉に頷いてしまう。



 確かに、二人が思う自由は本当に悪くない。

 幼き日に覚えていた万能感が、今になってよみがえったような気分だった。



「そろそろ行こうぜ」


「分かった。日が暮れるまでにはもう少し――――そうだ、ヴィゼルに伝えないといけないことがあったんだ」


「俺に? 何のことだよ?」


あの人(、、、)からちょっとね」



 あの人、こう言われたヴィゼルが居住まいを正した。



「英雄には手を出すな、ってことらしい」


「…………あん?」



 ヴィゼルは目に見えて不機嫌に変わった。

 英雄と言えば、王太子のことだ。

 お前だって……ロイだって不満に思っていたじゃないか! こう口に出し、声を荒げて距離を詰める。



「弱気になってんのか?」


「違う。これはきっと忠告だ。僕たちが今まで手にしたことのない力に溺れてしまわぬよう、あの人が釘を刺してくれただけだと思う」


「チッ……んだよ、やっぱり弱気になってるじゃねえか」


「そうじゃない。僕もヴィゼルと同じでこの言葉は気に入らないよ」



 乱暴に伸ばされたヴィゼルの腕をロイが払い、掴まれていた胸元をポン、ポンとはたく。

 その顔は、自信に満ちながら冷静なそれだった。



「だけど、力を与えてくれたあの人の忠告だ。無視をする気にもならない」


「んなの……俺だって分かってんだよ!」



 不満なのは水を差されたこと。

 自由に浸り楽しんでいるときに、今のような言葉を告げられて不快になっただけ。

 ヴィゼルはこれまで肉を焼いていた焚き火を蹴って消し、歩き出す。



「行こうぜ! 俺たちが新しい力を手にすりゃ文句ないんだろ!?」



 のしのしと大股で。

 霧に紛れるようにして進んでいくヴィゼル。

 その背を肩をすくめて見ていたロイが。



「はぁ…………」



 溜息を吐き、進行方向とは逆の方角に顔を向けた。そっちの方角からは多くの魔物呼吸と、先ほどのヴィゼルと同じく食事をする音がする。

 骨が砕かれて、肉を食む。

 時折、肉汁や鮮血が滴る音だって。



 そちらに足を進めたロイの視界いっぱいに広がる魔物の数々。

 皆、ロイの来訪を受けて道を開け、最奥に鎮座していた巨大な魔物への道を作る。



「行こうか」



 彼の声を受けて、これまで地べたに横になっていた三頭の魔物が顔を上げた。

 その姿は一見すると犬や狼のようだったが、実態は全くの別だ。



 深紅の体毛は微かに黄金に染まり、神々しささえある。

 巨躯を起こすも音はなく、猫のよう。

 魔物たちは皆、その巨躯が動くのに従い。

 そして巨躯はロイに従って、先を進むヴィゼルの後を追ったのである。



 ――――でも。



『――――?』




 三頭のうち、一際大きな一頭が遠目から届く気配に気が付いた。それは一瞬だったから間違いかとすぐに気を反らしたが、鋭い牙は獄炎を纏い警戒を怠らなかった。




 ◇ ◇ ◇ ◇




 明くる日、木の根の道を進むアイン一行は予定の数倍は早い進行の最中にあった。

 拠点と言えるべき場所も増えて、順調の一言。

 魔物は襲ってきたが、明らかに敵となる気配はなかった。



 魔王が二人。

 それに、その周囲の戦力もあるからだ。



 既に大山のふもとを超え、生い茂る木々の道を進んでいた頃の話だ。



「捌いた肉を運べない?」



 近衛騎士の報告を聞いたアインが言葉を返した。



「はっ。これ以上は重荷になりますので、捨て置くほかありません」


「ああー……なるほど……」


「ん。私たち、倒し過ぎた?」


「みたいですね。こっちから喧嘩を吹っ掛けたわけじゃないですし、多少はしょうがないと思いますが……どうしましょうか」



 近衛騎士が言うように捨てるしかないのだろうか。

 勿体ないが、運べないなら仕方ない。

 けど、捨てて魔物を呼び寄せることになっても……。



「魔物が寄ってこない?」


「殿下の予想通り、寄って参ります。ですので、それを避けるべく燃やしていくのは必須かと」


「もったいない気がするね」


「ははっ、私もです」


「ん……食べればいいんじゃないの……?」



 アーシェに慣れた近衛騎士が、アインに見せるような親身な態度で答える。



「我らには専用の食料がございます」


「知ってる。あの美味しくない保存食でしょ?」


「アーシェさん。あれでもだいぶ改良されたらしいです。魔道具で暖かい料理を運ぶこともできますが、余り数は運べませんからね」


「分からない。どうして保存食じゃなきゃいけないの?」


「僭越ながら私からご説明を。我々が持ち込んだ保存食は身体の回復のため、多くの栄養素と特別な魔力がしみ込んだものでございまして……」


「じゃあ、私とアインが倒した魔物を食べればいい」



 説明を聞いて尚も言い張るアーシェを見て、近衛騎士は思わず視線をアインへ。

 でも、それを見てムッとしたアーシェが、これまで腰を下ろしていた切り株の上で両足をばたつかせた。



「あっちの方が栄養も魔力もあるんだもんっ!」


「え、そうなんですか?」



 アインがきょとんとした顔で尋ねた。



「待ってて。俺たちが知らないことをアーシェさんが知ってるみたい」


「そう。私は博識。どれぐらい博識かと言うと、お兄ちゃんがお姉ちゃんにプロポーズしたときの台詞も知ってる」


「――――ちなみになん」


「殿下……?」



 気を取り直して尋ねると、理に適っている説明を聞かされた。

 そうとなれば入れ替えても問題ない。

 アインも近衛騎士も、はじめての情報に耳を傾けた。



「こほん。博識なアーシェさんとしては、俺たちが狩った魔物の肉の方がいいんですね」


「ん!」


「しかし殿下、加工されていない魔物の肉は保存に適さない食材のため、それ用の魔道具の容量が厳しいかもしれません」


「私が眠らせるから、平気。腐らなくなる」



 眠らせる? 魔物の肉を?

 彼女を除いた二人は目を点にしてアーシェを見た。



「畏れながら。焼いた肉を休ませるのと同じ原理でありましょうか?」


「違う……!」


「ってことは、アーシェさんの力で無理やりって感じですか」


「ん! そう!」



 よく分からないが、出来るらしい。

 彼女がそう言うのなら嘘ではないだろう。

 アインは近衛騎士に目配せを送った。



「入れ替えよう。保存食の役割を担えるのなら、美味しい方がいい」


「はっ!」


「ついでに、保存食の廃棄分も減らしたい。魔物の肉は盛大に振舞って、英気を養うのに使ってほしい」



 やりとりを横から聞いていたアーシェが今度は上機嫌に足を揺らす。その姿はこの場に似合わず、微笑ましい。

 彼女はふと思い出したように立ち上がり、去り行く近衛騎士の後を追った。



「手伝ってくる!」



 罪滅ぼしと言うにはささやかな行いであっても、それができることに彼女は喜びを感じているのか、近衛騎士を追う足取りが軽い。

 アインは二人を見送り、背を伸ばして声を漏らした。

 そろそろ夕方ということに加え、話題が話題だったこともあって腹が空いてきた気がする。



 ――――少しだけ休もう。



 しばらくしたらディルか誰かが食事の支度が出来たと呼びに来るだろうが、やるべきことが思いつかない。実のところ暇なのだ。

 もう日が暮れるし、大山を進むこともない。



 こうして、アインの足は自分のために用意された天幕、というには大げさだが、魔道具の大型テントへ向けられた。




◇ ◇ ◇ ◇




 中は簡易的にいくつかの家具が並ぶ、それなりに高価な魔道具である。

 周辺にディルやマルコたちが使うものも立ち並ぶが、クリスだけは、これまで止まってきた貴族用の宿と同じく、テント内にある給仕が使うための一室を使っていた。



「すー……すー……」



 だから、リビングと言える空間ですれ違うことは多々ある。

 ……ソファで寝入ってるのは予想外だったが。



「力尽きた感じか」



 クリスは昨晩、マルコやディルと交代で見張りにあたっていた。

 当然、前者の二人はクリスが見張りをする必要はないと言っていたことをアインは覚えている。すべては立場的な問題など、色々な事情を加味して。



 しかし、彼女は固辞した。

 でも朝になったら皆と同じ行軍に就き、休めるようになったのはここ数十分になってから。

 アインに「早めに休んだ方がいい」と言われ、その言葉に甘えてテントの中に戻っていくのを覚えている。

 着替えは済んでいたが、自室に戻る体力が残されていなかったようだ。



 最近はアインと同じで忙しかったこともあるし、仕方ないだろう。

 そう思い、近づいたアインが彼女を抱き上げる。



「んぅ…………」



 こうした姿をソファで晒していたのも、以前と違い距離が近づいた一端だろう。

 不意にアインの脳裏を黄金のスタークリスタルがよぎったが、今ここで考えるべきではないと思った。場所が場所で時間が時間であるから。



 何にせよ、ヴィゼルたちをどうにかしたら――――と思った。



「アイン……様…………」


「はいはい、王太子ですよ。…………他の騎士より長く番をしてたんだって? 頑張り屋なのは知ってるけど、俺としてはもう少し休んでほしいわけだよ」



 抱き上げられたことに無意識に喜び、頬を緩ませてアインの胸元に顔を寄せたクリスに微笑みかけ、彼女の部屋に置かれたベッドに身体を寝かせる。



 去り際にそっと髪をかき分け、寝やすいように。

 彼女がこそばゆそうに身をよじったのを見てから、おやすみと言い部屋を出た。

 ソファのある輪美具に戻り、息を吐こうとしたところへ。

 外からアインを呼ぶ声が聞こえてきた。




「マルコ?」




 その声はマルコのものだった。

 彼はアインの返事を聞き、ディルを伴いテントの中に足を踏み入れる。



「ただいま戻りました。マルコ殿の気付きもあり、予定より早く確認することが出来ました」


「とんでもない。団長のお力も見事なものでしたよ」


「光栄ですが、私は置いていかれないようにするので精一杯でしたね……」



 溜息を吐き、自重交じりに言ったディルがアインの傍へ。

 一歩遅れてマルコもそうすると、腰を下ろしていたアインの面前で膝を折り、一呼吸置いてから口を開く。



「奴らはただ逃げているわけではないようです」



 と、言ったマルコがつづける。



「いくらかのネームドを霧に乗じて討伐いたしました」


「ええ。団長が仰ったように、奴らが怪しまぬ程度に」


「――――つまり、それだけ多くのネームドを連れて居たってことか」



 二人が頷き、ディルが言う。



「そうです。私たちも想像していなかったぐらいの大群でした。恐らく、二百は下らない集団と思われます」


「多いな。確かに予想外だ」


「正直、アイン様が我々に特務を命じたのは正解でした。皆が今日までと同じく探索にあたっていた際、あれほどの大軍が同時に襲撃して来ていたら、最前線の騎士たちにも犠牲者がでていたかも(、、)しれません」



 かも、というのはあくまでも本当に低い可能性の上で。

 騎士たちが魔導兵器を持っていることもあり、たとえネームド相手であろうと引けはとらないと三人は知っていた。



 尚、この二人が対処するのは容易だったようだ。

 特筆すべき戦力はガルムだけのようである。



「それで、マルコが最初に行った逃げてるわけじゃなさそう、って話は?」


「どうやら、餌を探しているようです。そのためにこの大山の奥地へ向かっているのが分かりました」


「餌? 人寄らずの幽谷(こんなところで)?」


「ガルムのための餌を探しているようでした。私の耳をもってしても、この環境では上手く聞き取れず……目的となる魔物も、場所も把握しきれておりません。情けなくも、分かるのは、餌はこの大山の奥地であるということだけでございます」



 マルコは申し訳なさそうに眉を歪め、より一層深々と頭を下げる。

 それを制したアインは腕を組み、目を伏せた。



(伝説級の魔物を強化したいってわけか)



 逃げ場所としても、あの二人にとって本題ともいえるであろう目的としても。どれをとっても人寄らずの幽谷は都合が良いらしい。

 では、さっさと討伐してしまっても構わない。

 アインはそのために二人へ特務を命じ、他の誰にも言わず動いていたのだ。



「マルコとディルで討伐は可能?」



 すると、マルコが言う。



「可能です」



 即答だ。

 ディルはいつもより言葉に詰まるが、それでもやると口にした。ただ、彼も周囲のネームドを一人で相手にするのは分けないはず。

 さすがに伝説級の魔物が三体もいると厳しいだけらしい。



「即時討伐を行わなかったのは、他の情報を知りえぬままというのを避けたかったからでございます。かねてより二人には協力者の影が懸念されておりましたし、此度はガルムを三体連れていたこともございます。これは決して無視できません」


「――――分かった」



 彼の面前で膝を付いた二人は素直に耳を傾ける。

 その顔は、アインの判断を微塵も疑っていない真摯なものだ。



「今晩、俺も動く」



 アインはそう言うと、黒剣イシュタルの柄に手を置いた。



「ある程度の場所が分かったのなら十分だ。出し惜しみは必要ない」



 すべて自分でするというのはおこがましいかもしれないが、アインはアインで、可能な限り自分が動いた方がいいと考えている。

 しかもしれが、この一件のように危険であるなら殊更。



 だったら最初からこの三人で来ればいい、という話にもなるが――――。

 とはいえ立場はあるし、シルヴァードが万全を喫したいという話も忘れてはならない。



「泳がせる必要もない。今晩中にネームドの大軍を討伐――――並びに、ヴィゼルとロイの二人を捕縛する」



 二人もこの言葉に異を唱えようとはしなかった。

 敵の戦力が強すぎるから、止めるべきという判断もある。けれど、むしろその影響が大きすぎて、早急に対処しなければという考えが勝ったのだ。



 だからこそ、アインが動くのが最善であると。

 彼が持つ、赤狐の力が特に重要であるから。




「マルコにはここにいる皆を守ってほしい」


「畏まりました。このマルコ、命に代えてもお守りいたします」



 この野営地にも必要な戦力は残していこう。

 たとえばマンイーターだったり、マルコが召喚できるアンデッドであったり。他にも、黒騎士も連れて来ているし、万全だ。



 既にクリスを守るべき対象としてしか考えていないことは、彼女へは内緒にした方がいいだろう。それぐらい、心を寄せていたからだ。

 たとえ彼女がマルコに次ぐ実力者であっても、アインが守りたいと思う気持ちは変わらない。



「ディルは俺と一緒に。道案内と護衛を頼む」


「はっ!」



 主として戦うのはアインがするつもりだったのだが。

 テントの外から、何も言わずに現れた夢魔の魔王が。



「ん。話は外で聞いた」


「またいつの間に……」


「というわけで、私もアインと一緒に行く」



 こう口にして皆を驚かせた。

 急に現れたこともそうだが、話を聞いていたことだってそうだ。

 でも、彼女の特異な力は今回特に頼りにしたい。



 結局アインはすぐに応じると「お願いします」とアーシェに言った。



「さて」



 ――――夜、力を借りるよ。

 アインが声に出さず、心の中へ声を届けると。



『私のすべては貴方のものなのだから、ご随意に』



 間もなく、婀娜っぽい声で返事が届いたのだった。



 そして、この日の晩。

 秘密裏に野営地を発った三人は、ヴィゼルとロイの二人がネームドの大軍を率いる場所へ向かって行ったのである。





今日もアクセスありがとうございました。

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[一言] いつも更新ありがとうございます
[一言] 最初の、世間を知らないただの駄々をこねるクソガキ共のせいで気分が悪くなった我らの心を癒す駄々っ子魔王アーシェと、ただただ可愛いクリス。そしてとんでもなく甘いことを言ってくるシャノン。 いい…
[一言] この人から与えられた力でイキってる二人の後ろで暗躍しているのがいつ出てくるかね?
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