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魔石グルメ ~魔物の力を食べたオレは最強!~(Web版)  作者: 俺2号/結城 涼
アフターⅣ 黒龍艦バハムート II

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【2021バレンタインSS】たとえばこんな世界も。

今回の更新はバレンタイン用のSSとなっています。

例によって、SSでは細かな事情や時系列を含むもろもろを気にせずに楽しんでいただけますと幸いです! 


また、重ねて恐れ入りますが、先日発売した8巻もどうぞよろしくお願いいたします!

9巻の発売も決定しておりますので、少年期完結まで読める書籍版も、是非是非ご検討くださいませ!


挿絵(By みてみん)



 不思議と身体がふわっとしていた。

 ついでに、心の中も。



 アインはこの感覚を自分でも整理しきれておらず、気が付いたときにはこの状況に陥っていた。

 でも、目を開けるとはっきりしてくる。

 いつもの自室で、ベッドの上で。

 身体を起こしたアインはうーんと声を上げ、立ちあがった。



「んん?」



 軽い違和感を覚えたが、それだけ。

 いつものように身なりを整え、制服に着替えたところで部屋を出る。

 外では、これまたいつものようにディルが待っていた。



「おはようございます」


「うん、おはよ」


「ご朝食の後、学園へお送りいたしましょう」



 慣れた足取りで階段を下りて、城自慢の大きな食堂へ足を運ぶ。

 ディルが開けた扉を潜り抜けると、真っ白なクロスが敷かれた長い長いテーブルが視界一杯に広がる。

 そう、これが日課だ。



「起きたのか」



 どうやら、今日も先客がいたらしい。



「おはよう。アイン」



 アインはその声を聞いて小首を傾げるも、すぐにこれが普通であると思った。



「おはようございます。ライル兄上(、、、、、)



 神童と名高き第一王子の名を口にして、近くの席へ足を運ぶ。

 すでに用意されていた朝食からは、暖かな湯気が舞っていた。



「あれから半年経っても変わらないな」


「はい?」


「アインも見てみるんだ。昨夏の件が今も触れられているぞ」



 そういった彼の手元には朝刊が開かれている。

 覗き込んだアインが見やすいよう、彼はそっと身体を傾けた。



「昨夏の――――もしかして、海龍のことですか?」



 ライルが唇の端を綻ばせて頷いた。



「弟が英雄と語られるのは気分がいい」


「俺はもう恥ずかしいですけどね」


「くくっ……いいじゃないか。第二王子が英雄と呼ばれるのは、我らイシュタリカにとっても悪くない」



 含み笑いを浮かべたままに立ち上がった第一王子。手にしていた朝刊はたたまれ、テーブルに置かれた。



「陛下から海結晶の商談を任されているから、私はこれからエウロへ向かう。事前の予定では一週間だが、二日もあれば十分だ」



 そう言うと、彼はおもむろに立ち止り。

 背中越しに茶化すようにして。



「今日は日が日だ。幼馴染の大公家三姉妹(、、、、、、)は色めき立っているだろうな」



 意味を悟ったアインもまた笑って言う。



「その親戚のセレスさんもだと思いませんか?」


「分かっているとも。だから今年は、等身大チョコ以外にしてくれと頼んである」



 等身大でなければ大丈夫と曲解。もとい、都合のいい解釈をされそうなものだが、口にはすまい。今更だ。




 ◇ ◇ ◇ ◇




 学園に着いてから、一瞬だけ違和感を覚えた。

 初等部、そして中等部。

 最後に高等部と別れている広大な王立キングスランド学園を見て、あれ、こうだったっけ? と疑問符を抱いた。



 だがそれもほんの一瞬で、校門をくぐってからは気にならなかった。



 今日までと同じように「殿下、殿下」と声を掛けられ。

 進むこと、数十秒ほど。



「アーイン様っ!」



 軽快な足音に遅れて聞こえてきた鈴を転がした声に振り向けば、金糸の髪を揺らして駆け寄ってきた美玉の姿が。

 その後ろからも、二人の少女が歩いてきていた。



 一人はシルクを思わせる艶を浮かべた胡桃色の髪を靡かせながら。もう一人も、高貴さを漂わせる上質なビロードを彷彿とさせるシルバーブルーの髪を揺らしながら。



 第一王子ライルが口にしていた大公家三姉妹が皆、アインのそばにやってきた共に歩きはじめたのだ。



「お姉様。アインが驚いちゃいますよ」



 と、三女にしてアインと同級生のクローネが言うと。



「あらあら、クリスったら」



 頬に手を添え、でもちゃんと窘めるように言葉を添えてつづけるのが、長女のオリビアであった。

 そして、二人に言われてばつの悪そうな顔を浮かべる次女のクリス。



「別にいいって。昔からそうだしね」


「ア、アイン様っ……!」


「さすがに、セレスさんみたいに相手を簀巻きにして連れ去ることがなければ気にしないよ。兄上はそれも慣れたらしいけど」




 するとオリビアが「そういえば」と口を開く。



「セレスさんと言えば、今日はいつにもまして大きな箱を用意してたみたいですよ」


「それって例えば、兄上の背丈の倍ぐらいありましたか?」


「ふふっ。さすがアインです」


「……小さくするかと思ったら、大きくする方で調整するとは恐れ入った」



 等身大でなければいい。なら小さくすると思ったのだが、セレスは逆に大きくする方向で調整したらしい。

 今日、ライルは二倍の大きさになった自分型のチョコを受け取るはずだ。



 さて。

 ――――一行はそのまま昇降口へ向かった。

 四人とも自由授業制の一組(ファースト)の所属で出席の必要はないが、今日はどの授業を受けようかな、とアインは考えていた。



「んん!?」



 でも、足を進めようとしたところで両手を奪われた。



「私たちと一緒に行きましょ」


「ですです。今日は一緒にゆっくりしませんか?」



 クローネとクリスに手を取られ、唖然として思わず一歩下がるも。



「二日ぶりにぎゅっとさせてくれるなんて、ありがとうございます」



 今度は背後にいたオリビアに抱き留められて捕まった。

 周囲の目を気にして辺りを見渡しても、彼女たちが丁度いい頃合いを見計らっていたらしく、誰の目にもとまっていない。



「たまには食べ比べでもいかがですか?」


「オ、オリビアさん……?」



 彼女が言うと妙に蠱惑的で、息を呑む。

 下心のある勘違いをするわけではないが、年相応とは思えない嫣然とした立ち居振る舞いが自分だけに向けられるのは、何年経っても慣れることがなかった。



「私たち、一緒にチョコを作って来たんです。……私はお姉様とクローネほど器用じゃないですが、頑張りましたっ!」


「というわけなの。喜んでもらえると良いのだけれど」


「ふふっ。今日は暖かいから、庭園のどこかでご一緒にって思ったんですよ」



 そういうことなら喜んで。

 三人から今日の贈り物をもらえると知ったアインは喜び、身体を揺らそうとしたところで両手と背中が捕まっていることを思い出した。



 ああ、このままでは色々と目立つことは請け合いだ。

 四人で一緒にいることが多いから今更でも、この姿を見られるのは王太子的に、そして男心的にも気恥ずかしい。



「取りあえず、この状況をどうにかするべきだと思うんだ」


「そうかしら?」


「……逃げませんか?」


「逃げる必要がないと思わない?」


「むむっ……確かに……!」


「私はこのままでも構わないけど、アイン以外に見られるのはちょっと恥ずかしいですね」


「ほら、オリビアさんが言うとおりだって!」


「だから、場所を変えて同じようにすればいいと思いませんか?」



 長女の声を聞いて頷いた二人が応じたことで自由が戻るが、今のはまるで、場所を変えたらまた同じようにされるような言い方ではないか。



「――――あれー?」



 腕と背に押し付けられていた熱と柔らかさが去った後、アインはそれを惜しむより、この後を思うことしか出来ていない。



 でも、ふっと笑みが零れた。



 クローネは鞄から僅かに覗かせて。

 クリスは大切そうに胸元に抱え。

 オリビア背中側で、両手を添えて大切そうに。



 皆がいつの間に取り出していたのかは分からないが、さっきに比べて楽しそうだし、足取りも踊りだしそうなぐらい軽い。

 丁寧にラッピングされたそれを見れば、アインを想っていることは言うまでもなく分かった。




 ◇ ◇ ◇ ◇




「ッ――――はっ!?」



 目を覚ます。

 そして、少し寝ぼけていた頭が一気に覚醒する。



「ゆ、夢か……」



 あんなの夢じゃない方がどうかしてる。

 家族構成はさることながら、どこをどう考えても夢以外の何物でもなかった。

 新鮮で悪くないと思うことはあっても、だ。



「起きちゃったの?」


「……シャノン?」


「うん。私」



 月灯りに照らされたシャノンの顔は相も変わらず美しく、人間離れしている。

 そんな彼女はアインが寝るベッドに頬杖を突き、彼の顔を見下ろしていた。



「どういう夢だった?」



 なるほど、珍しい夢を見た原因はこいつだ。



「さっきね、ケットシーの王女様がアインの部屋に来てたの。何かしようとしてたけど、給仕に呼ばれて何処かに行っちゃった」


「…………ほう」


「その王女様が慌てて置いていった本が魔道具だったから、使ってみたの」


「使ってみたの、って話が飛びすぎじゃない?」


「だって今日は贈り物をする日なんでしょ? 楽しい夢を見られるって書いてあったから、最近疲れてたアインにはぴったりだと思って」



 これはきっと、嘘じゃない。

 取り繕うこともない、シャノンと言う女性の本心だろう。

 考えてみれば悪くない夢だったし、咎める気にはなれないが、自分に使おうと無断で部屋に入り込んだ駄猫は後でどうにかしてやるべきか。



「ねぇねぇ、どうだったどうだった? 楽しかったでしょ?」



 しかし、得意げに覗き込むシャノンに素直に礼を述べる気にもなれなかった。



「あ・り・が・と・う!」



 アインにしては珍しく大げさな態度で。

 伸ばされた右手がシャノンの頭に乗せられ、夢に出てきた三姉妹に劣らず艶めく髪を少し乱暴に撫でさすった。



「ッ~~ぐしゃぐしゃになっちゃうじゃないっ!」


「知ってる」


「なっ……もーっ! ちゃんと直してよねっ!? これでも、ちゃんと櫛で梳いてるんだからっ!」



 不満げに唇を尖らせるが、そうされるのを悪いと思っている節はない。

 それどころか、抑えきれていない喜色に気が付いて、そのことに照れくささを覚え頬を赤らめる始末だった。



 ――――それから、寝直したアインは翌朝になってから夢と同じ状況に迎えられることになる。

 夢の中で両手を掴まれ、背中から抱き留められたようにして。



 この世界では三姉妹ではないが、三人が作ったチョコを食べたのだった。

バレンタイン要素が薄い&いつもと毛色が違いすぎる気もしますが、楽しんでいただけましたら嬉しいです。

今日もアクセスありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 駄猫はディルに褌を贈ってるんだろうか?(目反らし
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