魔王様は魔王様より気配に敏感。
遂に明日、原作最新8巻が発売となります!
web版における少年期は、8巻と既に発売が決定している9巻で完結となります!
シリーズを通して5万文字以上の加筆を加えてきた書籍版ですが、8巻、9巻もそれに倣い多くの加筆がされる一冊となっております。
今回のお話にも出てくるアーシェたちにもキャラデザがついておりますので、是非是非、書籍版もご覧いただけますと幸いです!
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切り立った崖が立ち並ぶ一角はよく見ると人工的に削られ、飛行船が停泊しやすいよう、騎士たちが動きやすいよう平面な地形が設けられていた。これらはアイン率いる船団に先立ち、ウォーレンの指示を受け王都を発っていた先遣隊が魔導兵器を用いて作り出した場所だ。
『手つかずの自然を破壊するのは気が進みませんが、影響は最小限に抑えます』
王都を発つ前、日程の確認をする中でウォーレンが口にしていた言葉だ。
このほどは事情を鑑みることが優先されていた。
辺りには多くの簡易的な天幕が設けられ、騎士たちが次々と荷物を運び入れていく姿が目に映る。
そこへ、繋げられたタラップから降り立ったアインを見て。
外に居た騎士たちが一斉に膝を折った。
「――――俺のことは気にしないで。日が傾く前に作業を終わらせよう」
彼の声を受けて騎士たちは作業に戻るが、さすがに、すれ違う際には頭を下げ、挨拶の言葉を発していた。
自分も何か手伝えることはないだろうか?
クリスやディル、それにマルコだって必要ないと言うだろうが、こうして何もしないでいるというのもいい気分はしない。
手伝えることを探している間にクリスが隣にやってきたため、断念せざるを得なくなったが、そんなアインが目にしたのは、数人組の騎士たちだ。
彼らは何やら困っている様子だが……。
「どうかした?」
「ッ――――こ、これは殿下!」
「ああいや、大丈夫だから膝を付かないで」
突然の来訪に戸惑う騎士も、アインに緩く言われ若干落ち着く。
すると、騎士たちの中で隊長格らしき男が口を開く。
「我らは先遣隊として参っていたのですが、やや面倒な事態になりまして」
彼はそう言いながら近くの岩肌を指し示した。
「殿下がいらした際にはご報告する予定でした。いかがでしょう。もしよければ、今から状況をご説明できればと思うのですが」
「分かった。あっちの方に行けばいいのかな」
「左様でございます。我々が用意した道が岩肌に沿って進んでおりますので、どうかご安心を」
別にアインなら心配は要らないしクリスもそうだが、あくまでも礼儀として。
二人は騎士の案内の後ろを歩き、数分ほど進んで岩肌のそばへ。
ここは周囲の野営地の地形を作り出す際、見張り台の役割としてある程度の高さを残していたようだ。
最上部まで階段を進むと、民家一件程度の僅かに開けた土地に着く。
見晴らしは良いが、これまで飛行船に乗っていたこともあり左程なものの、少し高い場所に移動するだけで景色が一変する。
騎士はここで、縁に用意された手すりに近づいて口を開く。
「あれをご覧ください」
今一度、この高台を指し示した時と同じく指さした方角を見る。
(すごい地形だな)
辺りは高低差が激しく、最奥にある大山まで険しい道しかなかった。その中でも、この辺りは探索がしやすい地形を選定してある。
だが、問題なのは地形そのもののことではない。
「…………記録にない瘴気窟が生じていたらしく、予定していた道を進むことが難しい状況なのです」
「ああ、確かにあるね。でも騎士の装備なら大丈夫だった気がするけど」
「アイン様、アイン様。この辺りの瘴気窟が発する瘴気だと難しいんです。近衛騎士の装備なら耐えられますが、どうしても全員がその装備を出来るわけじゃないので……」
「そういうことか。道理で難しいわけだ」
「あの分だと、数年以内に出来ちゃったみたいですし、情報に行き違いがあったのかもしれませんね」
「へぇー……。ん? どうしてわかるのさ」
「比較的新しい瘴気窟は安定していないので、瘴気が辺りに広がりやすいんですよ」
騎士にとっては大きな問題だった。だというのに、この二人から緊迫感は伝わらない。
――――そこで。
随分と落ち着いているなと思っていると、アインが不意に手をかざした。
「とりあえず」
彼の手元から魔力の煌めきが少し、舞った。
「下から吹き上げる風も一緒に抑える」
言うや否や、瘴気窟の近くに木の根を生やした。
急激に変えられた空間は、これまで忙しなく揺らいでいた霧や瘴気が落ち着いて、風に乗る量も減少していく。
ついでに、これまで漂っていた瘴気が瞬く間に消失した。
「歩きやすいようにもしといたから、また問題があったら教えてほしい」
「――――は、はっ! 承知致しましたッ!」
大自然へ気軽に、思い付きのように大きな影響を与える御業に。
隊長格の騎士も連れ添った騎士も、皆が唖然としてしまう。
「クリス、下に戻ろっか」
その御業を披露したアインは特に気にした様子もなく、先んじて歩き出して一段、また一段と階段を下り、背後にクリスに手を差し出す。
重なった手はすぐに離れたが、二人はやはり、いつも通りだった。
「うーん…………」
「もー、急に唸ってどうされたんですか?」
「大したことじゃないよ。じっとしてるのもどうかと思うし、騎士の手伝いをするつもりだったわけだよ」
「あー! どうせ私が来る前まで歩き回ろうとしてたんでしょう!」
「も、もう怒られる理由はないって! そのつもりだったけど、中々、手伝えることって無さそうだし!」
階段を下り終え、野営地があっという間に整っていく様子を見て項垂れる。
別に、確認事項がないわけじゃないけれど、些細なものだし、外で手伝えることをと諦め悪く探していたのだが、どうにも見当たらないのだ。
「はえ?」
と、クリスが気の抜ける声を。
「さっき手伝ったじゃないですか」
「瘴気窟のこと?」
「そうですよ。普通じゃないことを普通にしてましたよね」
アインには手伝った実感がない。
一般論として大きなことをした自覚はあるし、他者を馬鹿にするように上から目線のことを言うつもりもないが、どうにも。
あれはすぐに終わったから、実感に欠けていた。
「俺としてはまだ手伝いたくて――――あ、そうか」
簡単だ。この辺りの地形を考えればいい。
「もっと進みやすくしちゃえばいいわけだ」
木の根を生やして、皆が歩きやすくすることにした。
これがアインにしかできない一番の手伝いだろう。
彼の思い付きを聞いたクリスは目じりを下げ、いいと思います、と同意の声を上げた。
「この景色に対する情緒も何もあったもんじゃないけど、事情が事情だし、帰りに枯らしておく」
「ふふっ。お手伝いってより、アイン様が主体になっちゃいますね」
くすっと笑みを浮かべ、彼の顔を覗き込むクリス。
覗かれたアインは上機嫌だった。
黙っているのが性に合わないこともあるが、どうにも働いている方が気分が良いのは昔から変わらないらしい。
「私、地図を取ってきますっ!」
そう言ってそばを離れたクリスを見送ったところへ。
背後に足を運んだ夢魔の魔王。
「ねぇねぇ。瘴気、消したの?」
「少しだけですけどね。無駄な殺生もしたくないので、なるべく影響が出ないようにちょっとだけ」
「ん……優しい。お姉ちゃんが頭を撫でてあげる」
アーシェが腕を伸ばすが、届かない。
身長差から見れば当然でも、アーシェが不満にならないかは別だった。でも、アインが気を聞かせて頭を下げると、あっという間に上機嫌に頬を緩ませた。
「偉い」
「お褒めに預かり光栄です」
「ん! 偉いから私が気が付いたことを教えてあげる!」
「もしかして、どこか様子を見て来たんですか?」
「この辺りをうろうろしてただけだよ」
それだけで分かることがあるという。
アインには細かな気配は分からないが、彼女はアイン以上に敏感に察知していた。
「ドワーフの魔力が残ってた。つい最近、この近くを通ったんだと思う」
「――――ありがとうございます。一番欲しい情報でした。それで、どこに向かってるんですか?」
尋ね返されたアーシェの身体と顔が。
指先が、最奥に鎮座する山に向けられる。
「あっちの山の方だよ」
人寄らずの幽谷に逃げて来たのであれば、こうして足を運んでみて見たら。
半ば、もしかしたらという予想は付いていた場所だ。
アインの力を用いても大変そうな道のりで、ここから先へも飛行船で向かうべきと考えさせられるが、それは難しい。
(確かロランが言ってたな)
これより奥地は天候に加えて空気中の魔力が落ち着かず、魔石炉で動く飛行船は相性が悪いらしい。
今後の開発でどうにかなる問題らしいが、現状はどうにもならないと。
すべてはロランの説明によるものだが、彼が言うなら間違いない。
大山へつづく道のりは想像するだけで辟易するが。
「ん……一緒に頑張る……っ!」
ぐっと両手を握り締めたアーシェを見ると、頑張ろうという気持ちにさせられたのであった。
今日もアクセスありがとうございました。
これまで何度も告知させていただいているのですが、遂に明日、原作最新8巻が発売となります。
少年期を締めくくる9巻の発売も既に決定しておりますので、何卒、書籍版の方もどうぞよろしくお願いいたします。




