第69話 認可
封書が届いたのは、会議から十日後の午前中だった。
悟が記録ノートを書いていると、郵便受けに封書が入る音がした。
管理局の差出人名が入った、白い封筒だった。
悟は事務スペースに戻って、封筒をテーブルに置いた。レグが肩から首の方へ移動した。
「そうだな」
悟はそう言ってから、封筒を開けた。
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書類は二枚だった。
最初のページの上部に、「魔物保護施設認可通知書」という文字があった。
悟はそこで一度、読む手が止まった。
次の行に施設名があった。「まもの預かり所・さとる」。その下に、「国内第一号魔物保護施設として正式に認可する」という文章が続いていた。日付があり、管理局長の名前があり、公印が押してあった。
悟はもう一度、最初から読んだ。
二度読んでも同じだった。
外で鳥の声がした。ガッシュが縁側の方で動く音がした。レグがわずかに首を傾けた。
「来たな」
悟はそう言った。誰に言うでもなかった。
少し間を置いてから、スマートフォンを取り出した。
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「もしもし、白石さんですか」
「はい、白石です」
「認可の通知が来ました」
電話の向こうで、少し間があいた。
「……はい」
白石の声は静かだった。けれどもその「はい」には、何かが詰まっていた。
「来るはずです」
そう言ったとき、白石の声はいつもよりわずかに柔らかかった。
「ありがとうございました」と悟が言った。
「礼には及びません」
白石は言った。「私はやるべきことをやっただけです」
その言い方が、どこか聞き覚えのある言い方だった。悟は気づいたが、何も言わなかった。
「おめでとうございます、神崎さん」
「ありがとうございます」
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電話を切った。
窓の外を見た。光の角度は午前中のままだった。外は静かだった。認可通知が来たからといって、光が変わるわけではなかった。
電話を切ってから、久保田に連絡した。
「認可が来ました」
「本当ですか!」
久保田の声は一瞬で上がった。
「よかった! よかったですよ神崎さん!」
本気の声だった。
「ありがとうございます」
「俺、今日仕事終わったら顔出してもいいですか。お祝いしたいんですけど」
「どうぞ」
「絶対行きます。田中さんと松田さんにも言っていいですか」
「構いません」
電話を切るときも久保田の声は明るかった。
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田中は「よかったです! 本当によかったです」と言った。声が少し震えていた。電話の向こうで鼻をすする音がして、「すみません、急に」と小さく笑った。
野島は一呼吸置いてから「やはりそうなりましたか」と言った。
「先月の意見書が届いていたようです」
「管理局の担当者からそれとなく聞いていました。助かりました」と悟は言った。
「いえ、私もやるべきことをやっただけです。でも、よかった。本当によかったと思います」
野島の声には珍しく、感情の揺れがあった。「これからもデータが必要になれば連絡してください」と野島は続けた。「私の方でもフォローできることはあると思います」
「ありがとうございます」
「礼は次の何かで」
松田には久保田経由で話が届いたようで、三十分後にメッセージが来た。「おめでとうございます。今夜伺ってもよいですか」。
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悟は認可書類を棚の前に持っていった。
棚の一番上の段に、記録ノートが並んでいた。個体ごとに一冊。5年分。背表紙に書かれた名前のリストが、横に並んでいた。レグ、ガッシュ、それより前に一時預かりをした個体たち。ここに来て去っていったものたちの名前が、全部そこにあった。
その隣に、認可書類を置いた。
少し離れて見た。
記録ノートと認可書類が、棚の上で並んでいた。
「まあ、よかったな」
悟はそう言った。声に出てみると、それで全部だった。
「うん」
もう一度だけ言って、棚を閉めた。
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夜、久保田と田中と松田が来た。三人とも顔が明るかった。田中がケーキを持ってきた。松田が「次の依頼、また持ってきます」と言った。久保田が「俺の後輩もここに頼みたいって言ってました」と言った。
縁側でお茶を飲んだ。夜の空気は少し涼しかった。
ガッシュが離れた場所で丸くなって眠っていた。レグが悟の膝の上に来た。
「神崎さん、これからどうするんですか」
久保田が言った。
「どう、というのは」
「認可されたら、また変わることもありますよね。メディアとか来るかもしれないし」
「来たら対応します」
「それだけですか」
久保田が少し笑いながら言った。どこか試すような言い方だった。
「それだけです」
悟も同じように答えた。
久保田が少し噴き出した。田中が笑った。松田が「相変わらずですね」と言った。
三人が話すのを、悟は聞いていた。時々返事をしながら、頭の片隅で明日のことを考えた。
「明日も予約が入ってたな」
悟は小さく呟いた。久保田がちょうど田中に何か言っているところで、聞こえなかったようだった。
レグが少し体を動かした。膝の上で、また落ち着いた。
夜空は晴れていた。遠くで車の音がした。三人の話し声が続いていた。悟はお茶を飲みながら、それを聞いていた。
明日の予約は一件。初来訪の個体。調べることがいくつかある。
今日は今日で終わりにして、明日は明日のことをやればいい。それがいつものことだった。
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(次話へ続く)




