表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元動物園の飼育員、ダンジョン産の魔物を引き取ってのんびり暮らす 〜ダンジョンが出現した世界の魔物保護施設経営〜  作者: ヲワ・おわり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

69/70

第69話 認可

封書が届いたのは、会議から十日後の午前中だった。


 悟が記録ノートを書いていると、郵便受けに封書が入る音がした。


 管理局の差出人名が入った、白い封筒だった。


 悟は事務スペースに戻って、封筒をテーブルに置いた。レグが肩から首の方へ移動した。


「そうだな」


 悟はそう言ってから、封筒を開けた。


---


 書類は二枚だった。


 最初のページの上部に、「魔物保護施設認可通知書」という文字があった。


 悟はそこで一度、読む手が止まった。


 次の行に施設名があった。「まもの預かり所・さとる」。その下に、「国内第一号魔物保護施設として正式に認可する」という文章が続いていた。日付があり、管理局長の名前があり、公印が押してあった。


 悟はもう一度、最初から読んだ。


 二度読んでも同じだった。


 外で鳥の声がした。ガッシュが縁側の方で動く音がした。レグがわずかに首を傾けた。


「来たな」


 悟はそう言った。誰に言うでもなかった。


 少し間を置いてから、スマートフォンを取り出した。


---


「もしもし、白石さんですか」


「はい、白石です」


「認可の通知が来ました」


 電話の向こうで、少し間があいた。


「……はい」


 白石の声は静かだった。けれどもその「はい」には、何かが詰まっていた。


「来るはずです」


 そう言ったとき、白石の声はいつもよりわずかに柔らかかった。


「ありがとうございました」と悟が言った。


「礼には及びません」


 白石は言った。「私はやるべきことをやっただけです」


 その言い方が、どこか聞き覚えのある言い方だった。悟は気づいたが、何も言わなかった。


「おめでとうございます、神崎さん」


「ありがとうございます」


---


 電話を切った。


 窓の外を見た。光の角度は午前中のままだった。外は静かだった。認可通知が来たからといって、光が変わるわけではなかった。


 電話を切ってから、久保田に連絡した。


「認可が来ました」


「本当ですか!」


 久保田の声は一瞬で上がった。


「よかった! よかったですよ神崎さん!」


 本気の声だった。


「ありがとうございます」


「俺、今日仕事終わったら顔出してもいいですか。お祝いしたいんですけど」


「どうぞ」


「絶対行きます。田中さんと松田さんにも言っていいですか」


「構いません」


 電話を切るときも久保田の声は明るかった。


---


 田中は「よかったです! 本当によかったです」と言った。声が少し震えていた。電話の向こうで鼻をすする音がして、「すみません、急に」と小さく笑った。


 野島は一呼吸置いてから「やはりそうなりましたか」と言った。


「先月の意見書が届いていたようです」


「管理局の担当者からそれとなく聞いていました。助かりました」と悟は言った。


「いえ、私もやるべきことをやっただけです。でも、よかった。本当によかったと思います」


 野島の声には珍しく、感情の揺れがあった。「これからもデータが必要になれば連絡してください」と野島は続けた。「私の方でもフォローできることはあると思います」


「ありがとうございます」


「礼は次の何かで」


 松田には久保田経由で話が届いたようで、三十分後にメッセージが来た。「おめでとうございます。今夜伺ってもよいですか」。


---


 悟は認可書類を棚の前に持っていった。


 棚の一番上の段に、記録ノートが並んでいた。個体ごとに一冊。5年分。背表紙に書かれた名前のリストが、横に並んでいた。レグ、ガッシュ、それより前に一時預かりをした個体たち。ここに来て去っていったものたちの名前が、全部そこにあった。


 その隣に、認可書類を置いた。


 少し離れて見た。


 記録ノートと認可書類が、棚の上で並んでいた。


「まあ、よかったな」


 悟はそう言った。声に出てみると、それで全部だった。


「うん」


 もう一度だけ言って、棚を閉めた。


---


 夜、久保田と田中と松田が来た。三人とも顔が明るかった。田中がケーキを持ってきた。松田が「次の依頼、また持ってきます」と言った。久保田が「俺の後輩もここに頼みたいって言ってました」と言った。


 縁側でお茶を飲んだ。夜の空気は少し涼しかった。


 ガッシュが離れた場所で丸くなって眠っていた。レグが悟の膝の上に来た。


「神崎さん、これからどうするんですか」


 久保田が言った。


「どう、というのは」


「認可されたら、また変わることもありますよね。メディアとか来るかもしれないし」


「来たら対応します」


「それだけですか」


 久保田が少し笑いながら言った。どこか試すような言い方だった。


「それだけです」


 悟も同じように答えた。


 久保田が少し噴き出した。田中が笑った。松田が「相変わらずですね」と言った。


 三人が話すのを、悟は聞いていた。時々返事をしながら、頭の片隅で明日のことを考えた。


「明日も予約が入ってたな」


 悟は小さく呟いた。久保田がちょうど田中に何か言っているところで、聞こえなかったようだった。


 レグが少し体を動かした。膝の上で、また落ち着いた。


 夜空は晴れていた。遠くで車の音がした。三人の話し声が続いていた。悟はお茶を飲みながら、それを聞いていた。


 明日の予約は一件。初来訪の個体。調べることがいくつかある。


 今日は今日で終わりにして、明日は明日のことをやればいい。それがいつものことだった。


---


(次話へ続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ