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元動物園の飼育員、ダンジョン産の魔物を引き取ってのんびり暮らす 〜ダンジョンが出現した世界の魔物保護施設経営〜  作者: ヲワ・おわり


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第67話 管理局の会議室

「施設を設立した動機は何ですか」


 会議室の正面に座った職員が、メモ帳を手にしながら言った。


 長方形のテーブルの向こうに四人。管理局の上位職員たちだった。白いシャツに識別章。中央に座った五十代の男が中心人物らしく、左右に四十代前後の職員が並んでいた。もう一人は女性で、手元にファイルを広げていた。


 窓の外に、東楠市の空が見えた。今日は晴れていた。


 悟はテーブルに両手を置いたまま答えた。


「探索者の方から頼まれたのが最初です。ダンジョンで連れてきてしまった魔物を引き取ってほしいと。一匹預かって、世話をして、戻ってきたときに返す。それを繰り返しているうちに、施設として形になっていきました」


「最初から施設にするつもりだったわけではない」


「そうです。看板を出したのも、しばらくしてからです。それまでは口コミだけでした」


「口コミで」


「はい。探索者の方々の間で広がったようです」


---


 白石奈々は悟の斜め後ろに座っていた。


 今日は発言を控えると、最初から決めていた。書類の束を膝の上に置いたまま、ほとんど動かない。準備してきた資料は手元にある。ただ、この場は悟が話す場だった。それは来る前からわかっていた。


 少し離れた壁際の席に、安藤がいた。一人だけやや端に座り、メモ帳を開いている。悟がひとつ答えるたびに、短く書き留めていた。何を書いているかは白石の位置からは見えなかった。先日の現地調査でのあの表情を、白石はまだ覚えていた。あの人は施設を見て、何かを確かめた。それが今日の場にどう影響するかは、まだわからない。


「どういうお気持ちで運営されてきましたか」


 質問が変わった。さっきと同じ五十代の職員だった。声は抑えていたが、探るような間があった。


 悟は少し黙った。


---


 どういうお気持ちで、という問いには、答え方がいくつかある。「やりがいを感じて」でも「使命感を持って」でも答えられる。けれどもそれらはどれも、少し違う気がした。


「……普通のことをやってきただけです」


 悟は言った。


「魔物が来たら世話をする。記録をつける。必要なことを調べる。それだけです」


 会議室が少し静かになった。


 職員の一人が、視線をメモから上げた。


「それだけで、5年続けられたんですか」


「はい」


 悟は特に付け加えなかった。他に言いようがなかった。


 職員はしばらく悟を見ていた。悟はその視線を受けながら、窓の外を一瞬だけ見た。今頃レグは縁側にいるだろうか。今朝、施設を出るときに肩から降りた。戻るまで待っているはずだった。


---


「記録ノートについて確認させてください。個体ごとに管理しているとのことですが、どのような形式で」


「ノートです。市販のものです。個体ごとに一冊割り当てて、来たときの状態、食事の量、気になった行動をその日のうちに書いています。写真も貼っています」


「いつから始めましたか」


「一匹目を引き受けた日からです」


「デジタル化は」


「していないです。コピーは取っています。白石さんに渡したものが、提出書類に含まれているはずです」


 白石が静かにうなずいた。職員が女性の同僚の方を見た。女性職員がファイルを開いて、何かを確認した。


---


「施設の規模は今後拡大する予定ですか」


「今の規模でやれる範囲でやります。元の動物園の敷地ですから、広げようと思えば広げられますが、今は管理できる頭数を守って運営しています」


「管理できる頭数というのは、どのように決めていますか」


「自分が毎日全頭の状態を確認できる数、です。記録が追いつかなくなったら多すぎる、と思っています」


 職員がメモを取った。別の職員が少し顎を引いた。何かを評価しているのか、あるいは懐疑的なのかは、悟には判断がつかなかった。


「スタッフは」


「今は私一人です。補助に来てくれる人が二名いますが、定期的ではありません」


「一人で」


「はい。今はそれで間に合っています」


---


 質問はまだ続いた。資金繰りのこと、近隣住民への説明、緊急時の対処方針。悟はひとつひとつ、できるだけ正確に答えた。わからないことは「わかりません」と言い、記録があるものは「記録にあります」と言った。


 職員たちは特に大きな反応を示さなかった。良くもなく、悪くもなく、メモを取り続けていた。


 質問がひととおり終わった頃、中央の職員が少し前のめりになった。ファイルを閉じて、手を組んだ。


「神崎さん」


「はい」


「魔物は危険な存在です」


 断言するような言い方だった。質問ではなかった。


 悟は一拍置いてから、答えた。


「はい」


 会議室がまた静かになった。


 職員は続きを言いかけて、少し止まった。「はい」という答えを想定していなかったのかもしれなかった。左右の職員が、微妙に顔を見合わせた。


 白石が膝の上の書類を、ほんのわずかに直した。安藤の手が、一瞬止まった。


 悟は組んだ手を解いて、テーブルに置き直した。視線は正面の職員に向けたままだった。


「危険な存在を、一人で管理しているということになりますが」


「そうなります」


 職員がもう一度、手を組んだ。


「危険だとわかっていて、続けているわけですね」


「はい」


 悟は同じ言葉を繰り返した。けれどもその「はい」は、最初の「はい」と少し重さが違った。


 窓の外で雲が動いた。会議室の光が少し変わった。


---


(次話へ続く)

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