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元動物園の飼育員、ダンジョン産の魔物を引き取ってのんびり暮らす 〜ダンジョンが出現した世界の魔物保護施設経営〜  作者: ヲワ・おわり


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第51話 通知が届く

ポストに封書が入っていたのは、朝の世話が始まる前だった。


 レグの朝の確認に行こうとして、入り口のそばでふと気になって開けた。チラシが二枚と、それより少し厚みのある封書が一通。差出人の欄に「東楠市魔物管理局 本部」とあった。


 悟は封書をそのまま持って施設に戻った。


---


 テーブルの上に置いて、レグのエリアに向かった。レグはいつもの場所で食事を始めていた。橙色の鱗が朝の光を受けて、ゆっくりと動いている。悟が近づいても特に反応しなかった。気にしていないというよりも、今は食事の時間だという判断をしているように見えた。


「おはよう」


 レグが鼻先をわずかに上げた。それだけだった。


 悟は水を替えて、食事の量を確認して、少し離れてノートに記録を書いた。今日も普通だった。


---


 ガッシュのエリアは少し騒がしかった。騒がしいといっても音がするわけではなく、ガッシュが入り口のそばで来回っていた。朝のそわそわする時間が続いているらしかった。悟が草を持っていくと落ち着いた。いつものことだった。


「食べたら機嫌が直るんですかね、本当に」


 独り言を言っても誰も答えないのが常だった。ガッシュは草を食べていた。


 食べ始めると早かった。あれだけそわそわしていたのに、草の前では集中する。それもいつものことだった。


 封書のことを思い出しながら、悟は少し離れた場所に立った。するとガッシュが草から顔を上げて、こちらを見た。何かを読んだような目の向け方だった。悟が動かずにいると、ガッシュがまた草に顔を戻した。


「関係ない話ですよ」と悟は言った。ガッシュは答えなかった。


 ムクの水温を確認して、リンに朝の餌を置いた。リンはすぐに来なかった。様子を見てから来る性格で、それは最初の頃から変わっていなかった。


 一通り終えた。


---


 一通り世話を終えてから、テーブルに戻って封書を開けた。


 中に入っていたのはA4の紙一枚だった。


 差出人は管理局本部、担当部署は「施設管理部 実態調査班」とあった。本文は短かった。


「当施設の非公式運営状況について、管理局本部として実態調査を実施いたします。つきましては、下記の期日までに担当者よりご連絡を差し上げますので、調査へのご協力をお願いいたします」


 その下に日付と担当者名と電話番号があった。


 悟は紙を読み直した。もう一度読んだ。


 それからテーブルに置いた。


「来たか、という感じですね」


 独り言だった。大きく驚いているわけでもなく、困惑しているわけでもなかった。ただ来た、という感覚が正直なところだった。


---


 スマートフォンを取り出して、白石の番号を呼び出した。


 三回で繋がった。


「おはようございます、白石です」


「神崎です。おはようございます」


「神崎さん」


「管理局本部から封書が来ました」


 電話の向こうで少し間があった。短い間だったが、悟にはわかった。


「……内容は」


「実態調査の通知です。期日までに担当者から連絡が来るとのことで」


 また間があった。今度は少し長かった。


「……わかりました」と白石が言った。「私から本部に確認します。すぐ折り返します」


「よろしくお願いします」


 電話が切れた。


---


 悟は封書をテーブルに置いたまま、午前の世話を続けることにした。


 ムクの水槽の水温を確認した。問題なかった。リンが棚の上で羽を整えていた。悟が近づくと少しだけ体をずらしたが、逃げなかった。最近は距離が縮まっていた。


「お前たちにはあまり関係ない話ですかね」


 リンが首を傾けた。


 悟は水槽の水を少し足して、戻った。テーブルの上の封書がそこにあった。


 管理局からの調査が来るだろうということは、施設を始めたときから想定していなかったわけではない。正式な認可を取っているわけではない。いつかそういう話が来るとは思っていた。ただそれが今日来た、ということだった。


 別に構わない、と悟は思った。ありのままを見せるだけだという気持ちは変わらなかった。


 ただ、今日はこのまま白石からの折り返しを待ちながら世話を続けることになる。それだけのことだった。


 ムクの水槽の前でもう一度立ち止まった。ムクがゆっくりと壁に近づいて、また離れた。いつもの動きだった。こういう日も、ムクには関係ない。そのことが、今日は少しだけ落ち着く材料になった。


---


 レグが食事を終えて、縁側の方に移動していた。朝の日差しを受ける場所を決めたらしかった。悟がそちらに目をやると、レグが目を細めた。満足そうだった。


 スマートフォンが鳴った。


「白石です。確認しました」


「早いですね」


「本部の担当者と話しました。来週中に調査員が一名来る予定です」


「わかりました」


 少し間があった。


「私も同席します」と白石が言った。「調査の当日、同席してもよいですか」


「白石さんが来てくれると助かります」


「では調整します。詳細が決まったらまた連絡します」


 電話が切れた。


 悟はスマートフォンをポケットに入れて、レグの方を見た。


 レグは日差しを受けたまま、目を細めていた。鱗の橙色が朝の光の中でゆっくりと温まっているのが、遠目にもわかった。何も知らないままそこにいた。


 調査員が来る。来週中に。


 悟はノートを開いて、今日の日付のところに一行書き加えた。「管理局本部より実態調査の通知。来週調査員来訪予定」。


 それだけ書いて、ノートを閉じた。


 レグのそばまで行った。レグが目を開けた。それだけだった。


「見せるだけだから、まあ、いつもどおりでいてください」


 レグは何も答えなかった。目を細めた。


 それが今日の朝だった。

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