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元動物園の飼育員、ダンジョン産の魔物を引き取ってのんびり暮らす 〜ダンジョンが出現した世界の魔物保護施設経営〜  作者: ヲワ・おわり


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第49話 相談という会議

縁側に椅子を並べた。


 久保田が四脚出してきて、悟がお茶を用意した。野島と白石は同じ時間に来て、顔を合わせて「あ、どうも」と挨拶を交わした。二人は面識がなかったが、お互いが呼ばれていることを知っていたので不思議がる様子もなかった。野島がトートバッグをしっかり持ち直して、白石が手帳を取り出した。


 田中が来たのは、四人が縁側に揃ってから十分ほど後だった。


「あ、偶然こちらを通りかかりまして」と田中が言った。


 悟が「どうぞ」と椅子を示した。久保田が立って、椅子をもう一脚持ってきた。田中がそこに座った。


 野島がお茶を一口飲んだ。白石が手帳を開いた。久保田が縁側の端に目をやった。誰も田中の言葉には触れなかった。田中も特に補足しなかった。


---


「まず状況を整理させてください」と白石が言った。「今週、依頼を断ったのは初めてですよね」


「そうです。一件、来週に回してもらいました」と悟が言った。


「見学予約も1か月以上先まで埋まっている。一時預かりも週3件ペースで入っている。現状のスペースでは受け入れが追いつかなくなってきた、ということですね」


「そういうことになりますね」


 白石がメモを取った。


「であれば、拡張という選択肢が出てくるのは自然だと思います。ただ、まずそれぞれが何を考えているか整理したほうが良いと思って」


 久保田がうなずいた。


「拡張するべきです。需要がある。今の状態で断り続けるよりも、スペースを広げて受け入れられる数を増やしたほうが、施設としての機能を果たせる」


 久保田がはっきりと言った。


---


 野島が続いた。


「私の立場からは、スペースが増えれば観察できる魔物の種類が増えるというのが大きいです。今は常駐・一時預かりを含めても、データが取れる個体に限りがある。面積が広くなれば、より多様な種を受け入れられる可能性がある。個人的には、ぜひ拡張してほしい」


「データとしても価値が上がる、ということですね」と悟が言った。


「そうです。今でも十分貴重ですが、種類が増えれば増えるほど」


 田中が「お気持ちはわかります」と言った。それから少し間を置いて、「拡張の費用は、探索者組合から出せます」と言った。「昨日、組合の担当者とこの近くで話をしていて、偶然そういう話になりましたので」


 久保田が視線を窓の外の庭に向けた。野島がお茶を飲んだ。


---


「白石さんは、どう見ていますか」と悟が聞いた。


 白石が手帳から顔を上げた。


「拡張すること自体への反対はありません。ただ、規模が大きくなると、法的な整備が必要になります。今より複雑になる、というのは最初から覚悟しておいてほしいです」


「具体的にはどういうことですか」


「今は個人事業の裁量でできている部分が、届け出・許可制に移行する可能性が高いです。受け入れ可能な魔物の種類や数も届け出の対象になる。あとスタッフを雇用する場合には、そちらの対応も別途必要になります。そして、許可が下りるまでの時間も見ておかないといけない」


「時間がかかる、ということですね」


「かかります。でも逆に言えば、その整備が終われば、今より安定した形で動けます。今は宙に浮いている部分があるので」


 悟が「宙に浮いている」と繰り返した。


「正式な法的位置づけが整っていない、ということです。今のところ問題にはなっていないですが、規模が大きくなると見えにくかったものが見えてくる」


---


 しばらく全員が黙った。


 縁側の端で、ガッシュが石のように座っていた。さっきからずっとそこにいる。相談の内容に関心はなさそうだったが、ここが自分のエリアだと思っているらしく、動く気配がなかった。


 悟がお茶を一口飲んでから言った。


「それぞれ、理由が違うんですね」


 四人が悟を見た。


「久保田さんは需要があるから拡張するべきだと言う。白石さんは拡張するなら法的整備が必要だと言う。野島先生は種類が増えれば研究の幅が広がると言う。田中さんは費用が出せると言う」


 田中が「そうですね、偶然そういう話にもなりまして」と言いかけた。


「でも全員、この施設が続けばいいと思っていることは同じですか」


 全員が少し間を置いた。


「まあ、そうですね」と久保田が言った。


「そうです」と白石が言った。


「その通りです」と野島が言った。


「はい、そう思っています」と田中が言った。少し照れたような顔をしていた。


 悟がうなずいた。


「じゃあ、もう少し考えます。ありがとうございます」


---


 それで話がひとまず終わった。


 野島が「来月も観察に来ていいですか」と帰り際に聞いた。「どうぞ」と悟が答えた。白石が「何かあれば連絡ください。管理局の窓口として動きます」と言った。田中が「私もこの近くを通ることがあれば、またお声がけします」と言った。


 久保田が最後まで残って椅子を片づけてから、帰り際に「今日は良かったですね、みんなが来てくれて」と言った。


「そうですね」と悟は答えた。


 久保田が帰った後、縁側にひとり残った。


 椅子を片づけたので縁側は元の通りになった。少し前まで四人が並んでいた場所が、また静かになっていた。


 何かを決めたわけではなかった。でも悟は、今日みんなが来たことには意味があったと思っていた。


 決めなくていいか、今は、という感覚があった。


 そこにレグが来て、音もなく膝に乗った。

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