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元動物園の飼育員、ダンジョン産の魔物を引き取ってのんびり暮らす 〜ダンジョンが出現した世界の魔物保護施設経営〜  作者: ヲワ・おわり


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第48話 満杯

電話が鳴ったのは、昼前だった。


「まもの預かり所、さとるです」


「あの、依頼を出したいんですが。今週、空きはありますか」


 悟は施設の中を見渡した。


 今週の状況を頭の中で確認した。常駐は四体。レグ、ムク、ガッシュ、それとリン。一時預かりが三体。ランプ型が一体、羽虫型が一体、それから泥型のダプラが一体。七体いる状態で、各エリアは今週の頭からすでに窮屈になっていた。


「今週は難しいです。来週ならできます」


 電話の向こうで、少し間があった。


「来週でも大丈夫ですよ。では来週でお願いします」


 予約を取って、電話を切った。


---


 悟は少しの間、スマートフォンを持ったまま立っていた。


 依頼を断ったのは初めてだった。「今週は難しい」という言葉が思ったよりあっさり出てきた。電話を切ってから、その言葉の重さが後からじわじわとやってきた。


 施設を見渡した。


 確かに狭い、と悟は思った。いつもと同じ施設なのに、今日は少しそう感じた。各エリアの間隔が詰まって、通路を歩くと自然に身をかわすようになっていた。魔物それぞれのスペースは最低限確保しているつもりだが、余裕という言葉からは遠くなっていた。


 世話の時間も少しずつ延びていた。一体ずつは大したことでなくても、七体になると積み上がる。


 そのとき、廊下の奥でごとんと音がした。


---


 音がしたほうへ行くと、ダプラが床に広がっていた。


 泥型の魔物で、緩やかに体を広げる癖がある。容器に収まっているときは問題ないのだが、少し気を抜くと隙間から染み出して、じわじわと広がる。今日は隣のエリアの仕切り近くまで来ていた。だいぶ遠くまで来ていた。


 その境界線のすぐ向こうで、ガッシュが立っていた。


 いつもは自分のエリアの隅でどっしりと落ち着いているガッシュが、首を傾けて床を見ていた。何かが侵入してきたが、危険ではないし、かといってどうしていいかもわからない、という顔だった。縄張りが狭くなることには敏感な性格なのに、相手が泥なので対処のしようもないらしかった。


「ダプラ」と悟が言った。「こっちだ」


 ダプラがゆっくりと引き戻った。全部戻るのに少し時間がかかった。


 ガッシュは一部始終を見届けてから、もとの場所に戻った。縄張りが戻ったので問題ない、という顔だった。


---


 久保田が午後から来た。


 悟が事務スペースの椅子に座って、記録を書いているところだった。


「今日は珍しく座ってますね」と久保田が言った。


「今日、初めて断りました」


「何をですか」


「依頼の電話。今週は難しいので来週でと言って」


 久保田が棚に荷物を置いてから、悟の方を向いた。


「その判断は正しいですよ」


「そうですか」


「今の状態でもう一体受け入れたら、世話の質が落ちる可能性がある。断ったのは正しい」


 久保田が迷いなく言った。悟はその速さに少し驚いた。


「そこまで迷わないですか」と悟が言った。


「私は悟さんじゃないので」


 久保田が少し間を置いてから続けた。「でも悟さんが断るのに悩んだことは、わかりますよ」


「断ることで困る人がいるかもしれないと思うと、やっぱり気になって」


「魔物の質を落としたくないから断る、というのと、断るのが悩む、というのは、どちらも本当なんだと思います」


「そうなんですよね」


---


 レグがそのとき、事務スペースの入り口から入ってきた。


 施設が賑やかになってから、レグはよくあちこち歩き回るようになっていた。他の魔物のエリアを覗いたり、廊下の端まで行ったり、戻ってきたりを繰り返していた。


 今日も一通り歩き回ったらしく、少し疲れた様子で入ってきた。そのまま悟の椅子の横まで来ると、悟の肩口に頭を押し付けた。


「疲れたか」


 レグは返事をしなかった。そのままじっとしていた。


 久保田がその様子を見て、「レグも大変ですね、賑やかで」と言った。


「自分で確かめに行ってますよ。全部」


「自分のテリトリーを確認してるんでしょうか」


「どうですかね。ただ気になるんじゃないかと思いますが」


 レグが悟の肩から離れて、今度は椅子の足元に丸まった。そこが今日の休憩場所になったらしかった。


「レグが床に丸まると、ちょっと邪魔ですね」と久保田が言った。


「でも起こしたくないんですよね」


「わかります」


 久保田が言った後、二人ともしばらく作業を続けた。レグは動かなかった。


---


 夕方の世話が終わった後、ランプ型の一時預かりの様子を確認してから、悟はようやく事務スペースに戻ってノートを開いた。


 断った、と書いた。次のページに、今週の頭数を書き出した。常駐四体、一時預かり三体、計七体。


 施設の広さと世話の手間を考えると、今が限界に近い、と書いた。一時預かりが終われば楽になる。だが次の依頼がすでに来週に入っている。


 そこで少し手が止まった。


 どうするかな、とノートの余白に書いた。


 そこに、スマートフォンが三回続けて鳴った。


 野島、白石、田中、それぞれから「相談したいことがある」という連絡が入っていた。


 悟が少し考えてから、三人に同じ文面を返信した。


「よければ、みなさん一緒に来てもらえますか」

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