Σ(゜д゜lll) 最終兵器は進化する(その三)
赤の回廊で白い大波が揺れていた。
複数のトイレットペーパーが蠢く中を、《役者勢》の最終兵器が直進してくる。
アヤトはハリセンを握る手に、さらなる力を込めた。
迫りつつある巨大な壁が、かなりの精神的重圧を与えてくる。
それに加えて、さっき耳にした「新型」という単語。
あれが気になる。ものすごく。
あの最終兵器がいつスピードを上げてくるとも限らないので、一瞬たりとも目をそらすわけにはいかなかった。
新型《空中戦艦》が威風堂々と、赤の回廊を攻め上がってくる。
やがて、その巨体が停止した。
あと三メートル。
アヤトと新型《空中戦艦》との間にあるのは、《劇番衆》が越えると『待機』になる白線だ。こちらのハリセンはまだ、役者たちには届かない。
直後に、いくつもの黒い影が、上空を通過していく。
始まったのだ。
あの内部から射出された役者たちが、アヤトの頭上を次々に飛び越えていく。
過去の敗北を糧にして、《役者勢》は最終兵器を進化させてきたらしい。前に戦った《空中戦艦》と違って、発射台の数を増やしているようだ。今回は一度に五人も飛ばしてきている。
しかも、役者たちが上空で描く放物線は、ワンパターンではなかった。前回よりも高く飛ばしたり、低く飛ばしたりしている。
アヤトは即座に判断して、後ろ走りで数メートル退いた。その周辺に着地してくる役者たちを、緑色のハリセンで叩いて回る。
けれども、上空で描く放物線が違えば、着地点も変わってくる。一か所に留まって叩ける数には、限度があった。
それでアヤトは、前後に忙しく移動する。後衛の負担を、少しでも減らそうとした。
が、やはり自分一人で、相手全員を迎撃するのは、無理みたいだ。
空中へと射出された役者たちが、次々と地上に降りてくる。
焦り出すアヤトの耳に、新型《空中戦艦》の外周部分を構成している《役者勢》、彼らの低く笑う声が聞こえてきた。
素早く視線を向けると、最終兵器の巨体が、前進を再開するところだった。五メートルほど進み、ついに白線を越えてくる。
前に戦った時とは、真逆の展開だった。あの時はアヤトの方が、《空中戦艦》を誘い出したのだ。
しかし、今回は《役者勢》の方から誘ってきている?
罠の予感しかしない。
だが、こうして迷っている間にも、多くの役者たちが、空中へと発射され続けているのだ。
アヤトは覚悟を決めて前に出る。
相手は白線を越えた。ゆえに、こちらのハリセンは届く。《役者勢》の人数を減らすこと、それを最優先事項に定めた。
真正面の人間防壁に駆け寄ると、ハリセンを高速で叩き込む。このまま外周をこじ開けて、内部にある発射台を、一秒でも早く潰してしまうのだ。
猛攻を仕掛けるアヤト。
これに対して、ペンキがついた役者たちの穴埋めに、まだ無事な役者たちが、途切れることなく立ちはだかってくる。
と同時に、新型《空中戦艦》内部からの射出速度が、一気に跳ね上がった。五人、五人、五人、五人、五人、と立て続けに発射してくる。
すでに頭上を越えていった役者たちに加えて、この二十五人も、後衛のメモリに任せるしかない。
アヤトの脳裏に不安がよぎる。
大丈夫だろうか。
メモリの武器は、ハリセンからバズーカ砲に変わっている。装填できるペイント弾は八発のみだ。こまめに補給する必要があり、その間は一時的に、他の《劇番衆》が後衛を受け持つことになる。
とっさに脳内でシミュレーションしてみただけでも、完封するのは絶望的だと思った。
これが新型《空中戦艦》。従来のものよりも凶悪になっている。
しかも、まだ終わりではなかった。
最終兵器は進化する。
さらなる衝撃が、アヤトの後方から襲いかかってきた。
空中からの着地に成功した役者たち、その一人が叫んだのだ。
「ここに橋頭堡を築く! 中継発射台用意!」




